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帰り道
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昼食後、馬車に乗り込むとすぐに出発した。帰りも、ニコラスとは別の馬車に乗っている為、行きと同じく裕人はルルガノーシュと2人きりだ。
出発してすぐ、馬車の振動が腰に地味に響いて辛いなと思っていたら、ルルガノーシュが裕人を定位置(膝抱っこ)に引き寄せた。
「体は辛くないか?」
「うーん。(これは正直に答えて良いのだろうか……)ちょっと怠くて、腰痛い」
「そうか。……怖くは無かったか?」
「(昨日の情事の話? 召喚の儀の話? まぁどちらも怖くは無かったか)うん」
「そうか」
ルルガノーシュはとても、嬉しそうだ。
昨日の行為で、裕人からは情事に対する怖さが抜けたが、ルルガノーシュは長年使っていなかった表情筋がほぐれたようだ。
表情が変わるのは昨日の行為中だけかと思ったら、お昼に会った時から傍目にも分かるように表情が変わるようになっていた。
……正確にはルルガノーシュが1人で起きた朝、裕人を見つめる顔がニヤニヤしていた所からだが、目撃者はいない。
「ガノは表情が表に出るようになったね」
「そうか?」
今も優しく微笑んでいるのだが、自覚は無いようだ。
裕人がルルガノーシュの頬にふれると、さらに微笑みが深くなった。
……何だか別人のようだ。
手を引っ込めようとしたら、ルルガノーシュがその手を止め、口元に持っていきキスしてきた。
裕人はそのキザな仕草に真っ赤になった。
そんな、行き以上に甘々な空気を出して暫くした後、休憩予定地では無い所で馬車が止まる。
暫くしていると、外からドアをノックする音が聞こえ、ルルガノーシュが対応の為窓から顔をだした。
護衛騎士の話によると、この道の先で、馬車が接触事故を起こし横転し、道を塞いでしまっているとのことで、一旦引き返して別の道を進むか、ルルガノーシュ達が馬車の横転を戻す作業を手伝うかの判断を求めにきたようだ。
ルルガノーシュはチラッと裕人を見ると、馬車から出ないように言い、護衛の半分は裕人を守るようここで待機と命じ、ルルガノーシュ自身は半分の護衛とともに横転した馬車の方へ向かった。
ルルガノーシュが行って暫くした後、裕人は大人しく馬車で待機していたが、突然周りが罵声や金属音などで騒がしくなる。
馬車から出ないように言われていたので、窓のカーテンを引いてそっと外を見てみると、見たことない獣人に囲まれていて、至る所で護衛騎士と戦っていた。
どうやら裕人達一行が襲われているようだ。
そして、その中の1人と目があってしまった。裕人はドキッとし窓の側から離れ、座席で小さくなる。
金属音と罵声はどんどん近くなり、止んだ。
どちらが勝ったのか、入って来ないから勝ったのかと思った瞬間ドアが勢い良く開いた。
先程目があった獣人が馬車に入ってきて裕人の首根っこを掴んで引き摺り出す。
引き摺り下ろされた馬車の下では護衛騎士が血を流しながら倒れていた。
さっきまで、話していた人が倒れて動かない……。
裕人は痛くて、怖くて、声も出ず、体も動かず、何も出来なかった。
引きずっていた男の手が裕人の首から離れた為、見上げると思いっきり剣を振り上げている所だった。
ーーそうか。殺されるのか。
と、悟った。
とてもゆっくりな世界になった。
何かが叫んでる声が聞こえたが、体も動かず声も出ず、視線だけがゆっくり落ちてくる剣を見ていた。
体に当たると思った瞬間、
剣を振り下ろしていた男の体が吹っ飛び、ゆっくりと過ぎていた時間が元に戻った。
「ヒロ大丈夫か、そこで待ってろ。何かあったら呼べ」
裕人の目の前にはルルガノーシュがいた。
間一髪、間に合い裕人をルルガノーシュが助けてくれたのだ。
嬉しい気持ちとは裏腹、まだ戦闘は終わっていない。
裕人は邪魔にならないように下がりたいが、腰が抜けて立てないためその場にいるしか無かった。
ルルガノーシュは、寄ってくる敵を1人ずつ、斬り伏せていく。
それはまさしく鬼神のような迫力で、相対している敵も1瞬でも気を抜けばそこで終わると分かるような緊迫した空気が流れている。
ルルガノーシュを囲っている敵が10人、8人、5人、3人と刻一刻と減り、残り1人になった時それは起きた。
ルルガノーシュは誰かを守りながらの戦いはやった事がなく、いつの間にか裕人から離れてしまっていた。
その隙をつくように、裕人は自分に近づいてくる敵に気がついた。
逃げようとしたが、腰が立たず、逃げられず咄嗟にルルガノーシュを呼んだ。
「ガノ!!!」
ルルガノーシュは振り向きざま、裕人に駆け寄ると裕人を斬ろうとしていた敵へ剣を投げつける。
一瞬ガラ空きになったルルガノーシュを見逃す筈もなく、相対していた敵の斬撃がルルガノーシュの背中を斬る。
それは鮮やかな血飛沫だった。
ルルガノーシュは、振り向き様、再度相対していた敵の顔側面に蹴りを入れ地面に沈める。
周りに敵がいない事を確認すると、滴る血はそのままにゆっくり裕人の側により裕人を抱きしめた。
「もう大丈夫だ」
「(もう大丈夫よ)」
ルルガノーシュの言葉が女の人の言葉と重なる。
青白い顔でぎこちない笑顔を作ったのを最後に、ルルガノーシュの体から力が抜ける。
「陛下!」
「出血が酷い」
「動かしてはダメだ」
「早く止血しないと」
「街へ戻って医者を」
目の前で何が起こってるのか分からなかった。
いや。
分かっていたけど、認めたく無かった。
「ガノーーーー!!!!」
ーー呼んではいけなかったのに。呼んでしまったからだ。
次の瞬間、緑の光が辺りに広がった。
出発してすぐ、馬車の振動が腰に地味に響いて辛いなと思っていたら、ルルガノーシュが裕人を定位置(膝抱っこ)に引き寄せた。
「体は辛くないか?」
「うーん。(これは正直に答えて良いのだろうか……)ちょっと怠くて、腰痛い」
「そうか。……怖くは無かったか?」
「(昨日の情事の話? 召喚の儀の話? まぁどちらも怖くは無かったか)うん」
「そうか」
ルルガノーシュはとても、嬉しそうだ。
昨日の行為で、裕人からは情事に対する怖さが抜けたが、ルルガノーシュは長年使っていなかった表情筋がほぐれたようだ。
表情が変わるのは昨日の行為中だけかと思ったら、お昼に会った時から傍目にも分かるように表情が変わるようになっていた。
……正確にはルルガノーシュが1人で起きた朝、裕人を見つめる顔がニヤニヤしていた所からだが、目撃者はいない。
「ガノは表情が表に出るようになったね」
「そうか?」
今も優しく微笑んでいるのだが、自覚は無いようだ。
裕人がルルガノーシュの頬にふれると、さらに微笑みが深くなった。
……何だか別人のようだ。
手を引っ込めようとしたら、ルルガノーシュがその手を止め、口元に持っていきキスしてきた。
裕人はそのキザな仕草に真っ赤になった。
そんな、行き以上に甘々な空気を出して暫くした後、休憩予定地では無い所で馬車が止まる。
暫くしていると、外からドアをノックする音が聞こえ、ルルガノーシュが対応の為窓から顔をだした。
護衛騎士の話によると、この道の先で、馬車が接触事故を起こし横転し、道を塞いでしまっているとのことで、一旦引き返して別の道を進むか、ルルガノーシュ達が馬車の横転を戻す作業を手伝うかの判断を求めにきたようだ。
ルルガノーシュはチラッと裕人を見ると、馬車から出ないように言い、護衛の半分は裕人を守るようここで待機と命じ、ルルガノーシュ自身は半分の護衛とともに横転した馬車の方へ向かった。
ルルガノーシュが行って暫くした後、裕人は大人しく馬車で待機していたが、突然周りが罵声や金属音などで騒がしくなる。
馬車から出ないように言われていたので、窓のカーテンを引いてそっと外を見てみると、見たことない獣人に囲まれていて、至る所で護衛騎士と戦っていた。
どうやら裕人達一行が襲われているようだ。
そして、その中の1人と目があってしまった。裕人はドキッとし窓の側から離れ、座席で小さくなる。
金属音と罵声はどんどん近くなり、止んだ。
どちらが勝ったのか、入って来ないから勝ったのかと思った瞬間ドアが勢い良く開いた。
先程目があった獣人が馬車に入ってきて裕人の首根っこを掴んで引き摺り出す。
引き摺り下ろされた馬車の下では護衛騎士が血を流しながら倒れていた。
さっきまで、話していた人が倒れて動かない……。
裕人は痛くて、怖くて、声も出ず、体も動かず、何も出来なかった。
引きずっていた男の手が裕人の首から離れた為、見上げると思いっきり剣を振り上げている所だった。
ーーそうか。殺されるのか。
と、悟った。
とてもゆっくりな世界になった。
何かが叫んでる声が聞こえたが、体も動かず声も出ず、視線だけがゆっくり落ちてくる剣を見ていた。
体に当たると思った瞬間、
剣を振り下ろしていた男の体が吹っ飛び、ゆっくりと過ぎていた時間が元に戻った。
「ヒロ大丈夫か、そこで待ってろ。何かあったら呼べ」
裕人の目の前にはルルガノーシュがいた。
間一髪、間に合い裕人をルルガノーシュが助けてくれたのだ。
嬉しい気持ちとは裏腹、まだ戦闘は終わっていない。
裕人は邪魔にならないように下がりたいが、腰が抜けて立てないためその場にいるしか無かった。
ルルガノーシュは、寄ってくる敵を1人ずつ、斬り伏せていく。
それはまさしく鬼神のような迫力で、相対している敵も1瞬でも気を抜けばそこで終わると分かるような緊迫した空気が流れている。
ルルガノーシュを囲っている敵が10人、8人、5人、3人と刻一刻と減り、残り1人になった時それは起きた。
ルルガノーシュは誰かを守りながらの戦いはやった事がなく、いつの間にか裕人から離れてしまっていた。
その隙をつくように、裕人は自分に近づいてくる敵に気がついた。
逃げようとしたが、腰が立たず、逃げられず咄嗟にルルガノーシュを呼んだ。
「ガノ!!!」
ルルガノーシュは振り向きざま、裕人に駆け寄ると裕人を斬ろうとしていた敵へ剣を投げつける。
一瞬ガラ空きになったルルガノーシュを見逃す筈もなく、相対していた敵の斬撃がルルガノーシュの背中を斬る。
それは鮮やかな血飛沫だった。
ルルガノーシュは、振り向き様、再度相対していた敵の顔側面に蹴りを入れ地面に沈める。
周りに敵がいない事を確認すると、滴る血はそのままにゆっくり裕人の側により裕人を抱きしめた。
「もう大丈夫だ」
「(もう大丈夫よ)」
ルルガノーシュの言葉が女の人の言葉と重なる。
青白い顔でぎこちない笑顔を作ったのを最後に、ルルガノーシュの体から力が抜ける。
「陛下!」
「出血が酷い」
「動かしてはダメだ」
「早く止血しないと」
「街へ戻って医者を」
目の前で何が起こってるのか分からなかった。
いや。
分かっていたけど、認めたく無かった。
「ガノーーーー!!!!」
ーー呼んではいけなかったのに。呼んでしまったからだ。
次の瞬間、緑の光が辺りに広がった。
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