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残虐王
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ーーカツカツ、カツカツ
ローザリア王国王宮内の国王の執務室には、今代の王である”ルルガノーシュ・フォン・ローザリア”国王と、宰相である”クロード・アズノール”がいた。
ーーカツカツ、カツカツ
先程から王であるルルガノーシュが、眉間に皺を寄せたまま、ティーカップの端を爪で弾いている。
「……陛下、少し休憩されてはいかがですか?」
「……」
「……最近戦も何もなく、すっかり平和になってしまいストレス発散の場がありませんが、威圧が抑え切れて無いようですよ。気分転換に外でも散歩してきたらどうです?」
「……すまない。……では行ってくる」
ルルガノーシュは手早く外套を羽織ると、窓から飛び出していった。
「苛立ちも分かりますが、せめてドアから出てってくださいよ……」
護衛騎士しか居ない部屋で、クロードはボソッと呟くと、今出て行ったルルガノーシュの代わりに書類仕事を片付けはじめた。
♢♢♢
ルルガノーシュは王族しか入れない小さな森に来ていた。
ーーこの苛々を止める術は戦以外に無いのだろうか。
そう思うと虚しさが広がる。
今までは、戦等で無理矢理この苛々を誤魔化してきていたが、小競り合いをしていた部族は粗方平定して取り込んでしまった為、最近は通常の執務以外にやる事がなく誤魔化せなくなって来ている。
ーーこのままこの衝動を抑えきれず、1人狂ってしまうのだろうか。そうしたら、誰か俺を止める者はいるだろうか?
ルルガノーシュは、あてもなく森の中を歩く。
ーー俺が正当な血筋ではないからか? 愛されて生まれた訳ではないからか?
ルルガノーシュは前王が市井へお忍びでおりて酔っ払った拍子に、手篭めにした平民の子供だった。
本来は王族の資格はなく、市井で育つ筈だったが、容姿がローザリア国初代国王の色を纏い、”覇王”と認められるべく能力の高さもあった為、今代限りの王となっている。
母親はまさか自分を無理矢理抱いた相手が王だとは思っていなかったし、その一夜以外は恋人としか子供を作る行為をしておらず、完全に恋人の子供だと思い込んでいた為、ルルガノーシュを産んだ後気が触れて、暫くした後に亡くなってしまった。
そんな生い立ちの為、ルルガノーシュは愛情を知らずに育っていた。
ふと突然、背中が騒ついた。
泉のある方で何か異変が起こっているようだ。
“王族しか入る事が出来ないこの森で、なんだ?”と思いつつも、気がつけば衝動のまま走り出していた。
そして、泉の近くに”それ”はいた。
座り込んで泉を見ているようだ。
こちらを向いて欲しくて、わざと音を立てながら、でも逃げられたくなくてそっと近付く。
“それ”はルルガノーシュに気がついたようで、ゆっくり振り向く。
黒曜のように美しい黒髪に象牙色の肌、体は全体的に小さそうで、瞳は前髪で見えないが、ルルガノーシュには”それ”がなんであるか分かった。
ーーやっと会えた。
歓喜なのか、分からないが胸に熱いものが込み上げる。
生まれてからここまで感情が昂るのは初めてだ。熱い感情と混ざり合うように、今まで欠けていたものがピッタリ合わさるような、満たされる感覚を味わっていた。
2人は見つめ合う。
“それ”が振り向いた瞬間から、ルルガノーシュはその場から動けなくなっていた。
「俺の魂の番……」
気がつけば、無意識に呟き生まれて初めて歓喜の涙を流していた。
ローザリア王国王宮内の国王の執務室には、今代の王である”ルルガノーシュ・フォン・ローザリア”国王と、宰相である”クロード・アズノール”がいた。
ーーカツカツ、カツカツ
先程から王であるルルガノーシュが、眉間に皺を寄せたまま、ティーカップの端を爪で弾いている。
「……陛下、少し休憩されてはいかがですか?」
「……」
「……最近戦も何もなく、すっかり平和になってしまいストレス発散の場がありませんが、威圧が抑え切れて無いようですよ。気分転換に外でも散歩してきたらどうです?」
「……すまない。……では行ってくる」
ルルガノーシュは手早く外套を羽織ると、窓から飛び出していった。
「苛立ちも分かりますが、せめてドアから出てってくださいよ……」
護衛騎士しか居ない部屋で、クロードはボソッと呟くと、今出て行ったルルガノーシュの代わりに書類仕事を片付けはじめた。
♢♢♢
ルルガノーシュは王族しか入れない小さな森に来ていた。
ーーこの苛々を止める術は戦以外に無いのだろうか。
そう思うと虚しさが広がる。
今までは、戦等で無理矢理この苛々を誤魔化してきていたが、小競り合いをしていた部族は粗方平定して取り込んでしまった為、最近は通常の執務以外にやる事がなく誤魔化せなくなって来ている。
ーーこのままこの衝動を抑えきれず、1人狂ってしまうのだろうか。そうしたら、誰か俺を止める者はいるだろうか?
ルルガノーシュは、あてもなく森の中を歩く。
ーー俺が正当な血筋ではないからか? 愛されて生まれた訳ではないからか?
ルルガノーシュは前王が市井へお忍びでおりて酔っ払った拍子に、手篭めにした平民の子供だった。
本来は王族の資格はなく、市井で育つ筈だったが、容姿がローザリア国初代国王の色を纏い、”覇王”と認められるべく能力の高さもあった為、今代限りの王となっている。
母親はまさか自分を無理矢理抱いた相手が王だとは思っていなかったし、その一夜以外は恋人としか子供を作る行為をしておらず、完全に恋人の子供だと思い込んでいた為、ルルガノーシュを産んだ後気が触れて、暫くした後に亡くなってしまった。
そんな生い立ちの為、ルルガノーシュは愛情を知らずに育っていた。
ふと突然、背中が騒ついた。
泉のある方で何か異変が起こっているようだ。
“王族しか入る事が出来ないこの森で、なんだ?”と思いつつも、気がつけば衝動のまま走り出していた。
そして、泉の近くに”それ”はいた。
座り込んで泉を見ているようだ。
こちらを向いて欲しくて、わざと音を立てながら、でも逃げられたくなくてそっと近付く。
“それ”はルルガノーシュに気がついたようで、ゆっくり振り向く。
黒曜のように美しい黒髪に象牙色の肌、体は全体的に小さそうで、瞳は前髪で見えないが、ルルガノーシュには”それ”がなんであるか分かった。
ーーやっと会えた。
歓喜なのか、分からないが胸に熱いものが込み上げる。
生まれてからここまで感情が昂るのは初めてだ。熱い感情と混ざり合うように、今まで欠けていたものがピッタリ合わさるような、満たされる感覚を味わっていた。
2人は見つめ合う。
“それ”が振り向いた瞬間から、ルルガノーシュはその場から動けなくなっていた。
「俺の魂の番……」
気がつけば、無意識に呟き生まれて初めて歓喜の涙を流していた。
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