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後日談1
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青白い顔で、血を流しながら力無く横たわるリューイ。
すぐそこで命が失われていくのが分かり焦燥にかられるも私は何も出来ず立ち尽くすのみ。
――失いたくない
胸が痛い。
――行くな、私を置いていかないでくれ
「ぅ、……、っ」
焦燥に駆られるまま目を開くと、目の前はよく見るいつもの寝台の天井で、横を向けば愛しいリューイ。
まだ薄暗く、陽が上り始める頃だろうか。
心臓は早鐘を打つように鳴りまだ息苦しいが、夢だと分かり落ち着く。
……お腹にはリューイの足。
体が柔らかいなと感心しつつ、これが悪夢の原因かとそっと足を下ろして、離れていたリューイを引き寄せる。
「……まだ、朝はやい、よ、寝よ」
体を動かされたせいで、起きたリューイがぴとっとシルバリウスに抱きつき、また寝た。
体に抱き付く、愛しい人の温もり。
あぁちゃんと生きて私の側に居てくれると感じた。
すっかり冴えてしまった頭でリューイを改めて見る。
あの勇者に受けた傷もすっかり癒て、先日結婚式を行ったばかりだ。
その結婚式はそれは盛大で、わざわざ王太子も使った神殿で大々的に行い、一昨日やっと領地に帰ってきた所なのだ。
リューイの体調を鑑みて、1週間はお互い仕事を入れていない。
一昨日はやはり微熱が出てしまっていたが、今はもう下がっているようで一安心だ。
リューイの水色の髪を撫でながら、あれから4ヶ月も経っているのに悪夢を見た原因の一端かもしれない昨夜リューイに聞かれた事を振り返る。
***
「ずっと気になっていたんだけど、あのドラゴン戦の最後の時ヴィー固まってなかった?」
「……なぜそれを?」
今更何故? と思う気持ちと、リューイも戦闘していた筈なのに、よく見ていたなと感心する。
私には長く感じた時間も、実際には数秒も経っていなかったようで、誰にも気が付かれて居ないと思って居たのだが。
「あ、いやぁ、ずっと気になってたけど、なんかヴィー安定してなさそうだったし、その後も色々バタバタしてたし。今は逆に何もなくて暇だから」
「……気がついて居たんだな。あれは私もよくわからないのだが……」
あの必死に戦っていた中、あと少しという所で集中力を切らしたつもりはなかったが、突然頭の中に数々の光景が浮かんだのだ。
赤銅色の首輪を付けたまま自分が旅に出る姿、カメルやルドルフとの共闘、ロイやハワードと一緒に戦う姿もある、そしてドラゴン戦で半身が溶け傍に居た男の泣く姿、男である事は分かるのにシルエットしか分からないものの、痛々しい程のその慟哭は伝わってきた。
その男以外皆、見た事ある人だったが、カメルやルドルフの装備や姿は今と違い、ロイやハワードとは過去に同じ場所で一緒に戦った事はないから、この光景はなんだと混乱するが、そんな思考をした所で次々と変わる光景は止まらない。
自分が死んだ後の冤罪が晴れる場面もあったのは不思議だった。だが、それを見たあとまた最初から繰り返される光景。
何度も繰り返し強制的に見させられた光景で、共闘する仲間が変わるものの、変わらないのは己の死ぬ運命。
そして、その度にシルエットの男の慟哭が痛いほど伝わってくる。
シルエットの男は、赤銅色の首輪をしたシルバリウスが死ぬ運命を変えたいのだなと、その為に同行者を変え何度も繰り返しているのだなと、何故かはわからないが漠然とそう思った。
そして、カメルとルドルフ、シルエットの男とのドラゴン戦の光景が終わると、現実に戻ったようだが目の前にはドラゴンが大きく胸を膨らませ、ドラゴンブレスを吐き出す姿。
……あぁ、今回も結末は変わらないのか
と思った所に飛び込んできた、水色の髪。
この小さい体のどこにそんな力があるのか、必死に私を守ろうとするその姿は先程まで強制的に見させられたシルエットの男に重なった。
瞬間的に私もこの小さな命を守らなければとリューイの体を支えたのだ。
そして、ドラゴンが倒れる音と訪れた静寂。
先ほどまで何度も見せられた光景とは異なる初めての展開に、何か罠があるのではないかと半ば呆然としながら、ドラゴンの様子をうかがった。
ドラゴンが死んでいる事を確認し、夢とは思えない確かな光景に”運命を覆したのだ”と喜びが勝った。
だが、冷静に考えれば何故先程頭の中で流れた光景が”運命”で”運命を覆しした”と思ったのかは分からなかったが、混乱した頭を整えるのは後だと振り返って見たのはリューイがリョウコに刺される姿。
何が起きているのかすぐに理解が出来なかった。
止血しようとしても、治癒魔法をかけても止まらない血。
自分が不甲斐ないばかりにリューイに迷惑をかけ、それでもリューイは私を諦めずにリョウコから解放してくれて、悲しませた償いをしつつ今度こそリューイを幸せにしようと誓ったばかりなのに、そんなリューイの命が失われていく……。
リョウコの聖剣の威力は何度も見ている。再生能力が高いと言われる魔物も難なく屠っていた姿。
……助からない。
そんな認めたくない未来がチラつく絶望の中でも、リューイは美しく最後まで私の事を気にかけていた。
***
「……、ヴィー、大丈夫?」
「……ああ」
不思議な光景を何度も見させられた話をリューイにしているうちに、その後に起こったリューイを失うかもしれない絶望感まで思い出してしまったようだ。
騒動の中心人物であるリョウコは、国から強制的に召喚された人であり、途中から国の命令に従わずダンジョンには入らなかったが、それまでは街の討伐依頼等をこなし、民の為には役立っていた事から情状酌量の余地ありとして、生活魔法以外を封じられたまま北の地の修道院で働いている。
一度脱走したらしいが、身寄りもなく頼る者も居ない身で酷い目にあったらしく、暫くして自分から戻ってきてからは文句は言いつつも大人しく働いているらしい。
甘い刑だとは思ったが、贅沢な暮らしをしていたらしいリョウコからすれば、戒律が厳しく貧しい北の地の修道院で一生を過ごすのは辛い罰となるだろう。
リューイが私の頬に手をあてる。
「俺は生きているよ。ちょっと休んだら新しい都市の整備もしなきゃだし、ヴィーとやる事はいっぱいあるね!」
「そうだな」
私の感情の機微に聡いリューイは、絶望に引き込まれそうになる度に、優しく導き未来を示してくれる。
本当になんて尊いのだろう。
血筋も良く、頭も良く、容姿も良く、能力も高く人望もあるのに、何故か私に執着を示すリューイ。
私の愚かな行いに傷ついても許し、一緒にいたいと言ってくれるリューイ。
……だからこそ、本当に伴侶は私で良いのかと、まだ若いが故に周りが見えてないだけじゃないかと不安になる。
「だからさぁ、傷も治ったし、忙しくなる前にそろそろ良いよね?」
ソファに隣り合わせで座っていたリューイがまるで誘うように寄りかかり下から見上げてくる。
……いつの間にこんな誘い方を覚えたのか。
リューイの手からコップを取り上げ、テーブルに置くと、リューイを抱き上げベッドの中に入れ、しっかり布団の中に閉じ込める。
「むー。なんで」
「リューイ、昨日微熱があっただろう? しっかり休まなければダメだ」
「もう、過保護なんだから! ヴィーも寝るよ!」
怒りながらも、リューイの隣に早く来いとばかりに隣を叩いている。
……むくれているリューイも可愛い。
リューイの隣に入ると、リューイがしっかり抱きついて来て、幸せを噛み締めながら2人で寝たのだった。
そして、悪夢を見て今に至るのだが、リューイの伴侶は本当に私で良いのだろうか?
結婚式までの忙しさが急に無くなったからか結婚式が終わってからその思いが徐々に強くなっている。
昨夜はリューイからの誘いである事は分かっていたが、そこが気になって誤魔化すように寝かしつけてしまったのだ。
そっと水色の髪を撫でながら、再び本当に側にいて良いのか考えながら、健やかに眠るリューイを見ていた。
すぐそこで命が失われていくのが分かり焦燥にかられるも私は何も出来ず立ち尽くすのみ。
――失いたくない
胸が痛い。
――行くな、私を置いていかないでくれ
「ぅ、……、っ」
焦燥に駆られるまま目を開くと、目の前はよく見るいつもの寝台の天井で、横を向けば愛しいリューイ。
まだ薄暗く、陽が上り始める頃だろうか。
心臓は早鐘を打つように鳴りまだ息苦しいが、夢だと分かり落ち着く。
……お腹にはリューイの足。
体が柔らかいなと感心しつつ、これが悪夢の原因かとそっと足を下ろして、離れていたリューイを引き寄せる。
「……まだ、朝はやい、よ、寝よ」
体を動かされたせいで、起きたリューイがぴとっとシルバリウスに抱きつき、また寝た。
体に抱き付く、愛しい人の温もり。
あぁちゃんと生きて私の側に居てくれると感じた。
すっかり冴えてしまった頭でリューイを改めて見る。
あの勇者に受けた傷もすっかり癒て、先日結婚式を行ったばかりだ。
その結婚式はそれは盛大で、わざわざ王太子も使った神殿で大々的に行い、一昨日やっと領地に帰ってきた所なのだ。
リューイの体調を鑑みて、1週間はお互い仕事を入れていない。
一昨日はやはり微熱が出てしまっていたが、今はもう下がっているようで一安心だ。
リューイの水色の髪を撫でながら、あれから4ヶ月も経っているのに悪夢を見た原因の一端かもしれない昨夜リューイに聞かれた事を振り返る。
***
「ずっと気になっていたんだけど、あのドラゴン戦の最後の時ヴィー固まってなかった?」
「……なぜそれを?」
今更何故? と思う気持ちと、リューイも戦闘していた筈なのに、よく見ていたなと感心する。
私には長く感じた時間も、実際には数秒も経っていなかったようで、誰にも気が付かれて居ないと思って居たのだが。
「あ、いやぁ、ずっと気になってたけど、なんかヴィー安定してなさそうだったし、その後も色々バタバタしてたし。今は逆に何もなくて暇だから」
「……気がついて居たんだな。あれは私もよくわからないのだが……」
あの必死に戦っていた中、あと少しという所で集中力を切らしたつもりはなかったが、突然頭の中に数々の光景が浮かんだのだ。
赤銅色の首輪を付けたまま自分が旅に出る姿、カメルやルドルフとの共闘、ロイやハワードと一緒に戦う姿もある、そしてドラゴン戦で半身が溶け傍に居た男の泣く姿、男である事は分かるのにシルエットしか分からないものの、痛々しい程のその慟哭は伝わってきた。
その男以外皆、見た事ある人だったが、カメルやルドルフの装備や姿は今と違い、ロイやハワードとは過去に同じ場所で一緒に戦った事はないから、この光景はなんだと混乱するが、そんな思考をした所で次々と変わる光景は止まらない。
自分が死んだ後の冤罪が晴れる場面もあったのは不思議だった。だが、それを見たあとまた最初から繰り返される光景。
何度も繰り返し強制的に見させられた光景で、共闘する仲間が変わるものの、変わらないのは己の死ぬ運命。
そして、その度にシルエットの男の慟哭が痛いほど伝わってくる。
シルエットの男は、赤銅色の首輪をしたシルバリウスが死ぬ運命を変えたいのだなと、その為に同行者を変え何度も繰り返しているのだなと、何故かはわからないが漠然とそう思った。
そして、カメルとルドルフ、シルエットの男とのドラゴン戦の光景が終わると、現実に戻ったようだが目の前にはドラゴンが大きく胸を膨らませ、ドラゴンブレスを吐き出す姿。
……あぁ、今回も結末は変わらないのか
と思った所に飛び込んできた、水色の髪。
この小さい体のどこにそんな力があるのか、必死に私を守ろうとするその姿は先程まで強制的に見させられたシルエットの男に重なった。
瞬間的に私もこの小さな命を守らなければとリューイの体を支えたのだ。
そして、ドラゴンが倒れる音と訪れた静寂。
先ほどまで何度も見せられた光景とは異なる初めての展開に、何か罠があるのではないかと半ば呆然としながら、ドラゴンの様子をうかがった。
ドラゴンが死んでいる事を確認し、夢とは思えない確かな光景に”運命を覆したのだ”と喜びが勝った。
だが、冷静に考えれば何故先程頭の中で流れた光景が”運命”で”運命を覆しした”と思ったのかは分からなかったが、混乱した頭を整えるのは後だと振り返って見たのはリューイがリョウコに刺される姿。
何が起きているのかすぐに理解が出来なかった。
止血しようとしても、治癒魔法をかけても止まらない血。
自分が不甲斐ないばかりにリューイに迷惑をかけ、それでもリューイは私を諦めずにリョウコから解放してくれて、悲しませた償いをしつつ今度こそリューイを幸せにしようと誓ったばかりなのに、そんなリューイの命が失われていく……。
リョウコの聖剣の威力は何度も見ている。再生能力が高いと言われる魔物も難なく屠っていた姿。
……助からない。
そんな認めたくない未来がチラつく絶望の中でも、リューイは美しく最後まで私の事を気にかけていた。
***
「……、ヴィー、大丈夫?」
「……ああ」
不思議な光景を何度も見させられた話をリューイにしているうちに、その後に起こったリューイを失うかもしれない絶望感まで思い出してしまったようだ。
騒動の中心人物であるリョウコは、国から強制的に召喚された人であり、途中から国の命令に従わずダンジョンには入らなかったが、それまでは街の討伐依頼等をこなし、民の為には役立っていた事から情状酌量の余地ありとして、生活魔法以外を封じられたまま北の地の修道院で働いている。
一度脱走したらしいが、身寄りもなく頼る者も居ない身で酷い目にあったらしく、暫くして自分から戻ってきてからは文句は言いつつも大人しく働いているらしい。
甘い刑だとは思ったが、贅沢な暮らしをしていたらしいリョウコからすれば、戒律が厳しく貧しい北の地の修道院で一生を過ごすのは辛い罰となるだろう。
リューイが私の頬に手をあてる。
「俺は生きているよ。ちょっと休んだら新しい都市の整備もしなきゃだし、ヴィーとやる事はいっぱいあるね!」
「そうだな」
私の感情の機微に聡いリューイは、絶望に引き込まれそうになる度に、優しく導き未来を示してくれる。
本当になんて尊いのだろう。
血筋も良く、頭も良く、容姿も良く、能力も高く人望もあるのに、何故か私に執着を示すリューイ。
私の愚かな行いに傷ついても許し、一緒にいたいと言ってくれるリューイ。
……だからこそ、本当に伴侶は私で良いのかと、まだ若いが故に周りが見えてないだけじゃないかと不安になる。
「だからさぁ、傷も治ったし、忙しくなる前にそろそろ良いよね?」
ソファに隣り合わせで座っていたリューイがまるで誘うように寄りかかり下から見上げてくる。
……いつの間にこんな誘い方を覚えたのか。
リューイの手からコップを取り上げ、テーブルに置くと、リューイを抱き上げベッドの中に入れ、しっかり布団の中に閉じ込める。
「むー。なんで」
「リューイ、昨日微熱があっただろう? しっかり休まなければダメだ」
「もう、過保護なんだから! ヴィーも寝るよ!」
怒りながらも、リューイの隣に早く来いとばかりに隣を叩いている。
……むくれているリューイも可愛い。
リューイの隣に入ると、リューイがしっかり抱きついて来て、幸せを噛み締めながら2人で寝たのだった。
そして、悪夢を見て今に至るのだが、リューイの伴侶は本当に私で良いのだろうか?
結婚式までの忙しさが急に無くなったからか結婚式が終わってからその思いが徐々に強くなっている。
昨夜はリューイからの誘いである事は分かっていたが、そこが気になって誤魔化すように寝かしつけてしまったのだ。
そっと水色の髪を撫でながら、再び本当に側にいて良いのか考えながら、健やかに眠るリューイを見ていた。
応援ありがとうございます!
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