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最終決戦

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 ――それは現れた。
 災厄をもたらす黒いドラゴン。

 スチュアートに頼んだ陣形は出来ている。
 シルバリウスに加速の使用状況を聞いたところまだ2回しか使っていないから十分に使えるとのこと。
 ……流石だね!

 そして、威圧を放ちながら、ゲームと同様俺達の前に降り立った。
 その様子に寒気が走る。
 ここは人間が少ない、人間が目的なら始まりのスタンピートの時と同様、通り過ぎてもっと王都を目指してもおかしくはない。
 それがわざわざ俺達の前に舞い降りる事といい、ゲームじみた行動に”強制力”と言う言葉が浮かんでくる。
「大丈夫だ」
 斜め上からシルバリウスの声が聞こえる。
 シルバリウスはドラゴンから目を離さないまま、鼓舞するようにもう一度”大丈夫”と言った。
 ゲームっぽいのであればゲームを信じてみれば良い。
 ゲームならシルバリウスを助けるために幾度もやっているのだから。
 状況は見つつ使える知識はフル活用する!
 俺は小声で指示を出す。
「空にあがられると厄介だから、優先的に翼を狙って。
 もし上がられちゃったら無理しない程度に遠距離攻撃、多分飽きて自分からおりてくるからそこをねらうとよいかも。
 喉元にある逆鱗が弱点だけど、多分狙うのは難しいから、関節などを狙って。普通の剣とミスリルの人は剣に魔法を這わせて使って、オリハルコンはそのままいけるけど、弱ってないうちは中々攻撃が通りにくいから、地道にダメージを与えて。
 攻撃は尻尾の攻撃に気をつけて、思ったより長いし上下左右縦横無尽に動くから。飛び跳ねたあとの地面は結構振動すると思うから足場に気をつけて。カメルは浄化メインで使って、恐らく効くはず。ダメージが大きくなるとドラゴンブレスを吐くから気をつけて、これは普通の結界じゃ壊れるから絶対避けて。続けては吐けないはずで、吐く前は大きく息を吸い込むから胸が膨らむよ」
 カメルとルドルフは若干困惑気味だったが、シルバリウスとサスケが普通なのをみて落ち着きを取り戻した。
「基本はドラゴンを中心に周りを囲むような陣形で。
 ……それじゃみんな散開!」

 シルバリウスがひと足先に加速を使ったようで、俺たちがポジションについた時には、片翼が綺麗に切り落とされていた。
 ……シルバリウスはゲームよりスペック高いんじゃないだろうか?
 興奮気味のドラゴンが尻尾を縦横無尽に振るが、俺は最終決戦用に調整した右手の黒い補助媒体で、分厚い氷を作り出すことで攻撃を防ぐ。
 援護部隊である自分とカメルの防御は出来たが、流石に遊撃をしているルドルフの防御まで手に回らず、何度かルドルフはドラゴンに吹き飛ばされているが、そのたびに左手の白い補助媒体で治癒を行う。
 カメルの浄化も効果があり、ゲームでいうデバフの効果があるようで、浄化が発動中はドラゴンの動きが遅くなったりするし、苦しいのかドラゴンもカメルを避けている。
 因みに、シルバリウスとサスケは問題なく避けているようで、サスケも1回当たったようだが、すぐに戦線に復帰していた。
 そして、シルバリウスの何度目かの加速発動で尻尾が切り落とされる。
 怒ったドラゴンがドラゴンブレスをとうとう吐き始める。
 試しに、補助媒体の最大出力でドラゴンブレスの前に打撃を防ぐようの氷を出してみたものの1秒持たずに、溶けてなくなった。
 ……やっぱりドラゴンブレスは格別だね。
 今まで、俺はその場から動かず対応していたが、それではドラゴンブレスにやられてしまう為、俺も通常通り走らなければならない。
 ……まぁ、今まで一歩も動かず魔物討伐をする方がおかしいんだけどね。
 幸いドラゴンブレスの予備動作をいち早く察知する事が出来て、皆にドラゴンブレスが来ることの合図を出し、自分の遅い足でも避けられているが、長くは持たない。
 俺も逃げる合間に、鋭くした氷魔法でドラゴンの攻撃に回る。
 サスケが超近接戦でドラゴンの目をつぶす。
 ……ハラハラしたが流石である。
 ハワードも遠くからドラゴンの攻撃でえぐられた地面を慣らして、戦いやすいようにしてくれている。
 やはり勇者の聖剣なしだとダメージが届きにくい。
 勇者の聖剣で傷付けられた傷は治癒魔法での回復が遅くなる為、自己治癒能力の高いドラゴン戦ではおおいに活躍するのである。
 今回それが使えないので、ドラゴンの自己治癒能力以上の攻撃を地道に当てていかないといけないのだ。
 回避と隙ができた瞬間に攻撃というのを何度も繰り返す。

 ……まずいな。
 はい。俺のひ弱な体力がまずいです。
 異世界転生や転移を考えている皆、持久走は真面目に取り組んでおくんだよ!
 誰へのアドバイスだか分からないアドバイスが脳内に流れる。
 ……大分疲れているようだ。

 仲間達も長時間の緊張下の連戦で疲れているのが見える。
 シルバリウスは何度かドラゴンの首を落とそうと挑戦していたみたいだが、うまくいかず今は逆鱗狙いにしたようだ。
 何故戦闘中にも関わらずそんな詳しいかって?
 推しを死なせない為、しっかりシルバリウスの加速の発動回数を数えているからだ。
 ……念には念を入れないとね。
 次が最後の発動だと気がついた瞬間、見事シルバリウスの剣がドラゴンの逆鱗を深く貫いた。
 やった!
 と思ったものの、ドラゴンも最後の力を振り絞ったのか、ドラゴンブレスの予備動作。
 ドラゴンブレスの放射線の先はお花積みにでも行っていたのかローワン王国の国王と近衛騎士の一部。
 そしてその前に逆鱗に一太刀入れたシルバリウス。
 ……まさか、ゲームのように誰かを庇ったりしないよな?
 逃げてくれるよな?
 シルバリウスは動かない。
 何故? 何があった?
 なんで動かないの?
 もう加速は使えないからすぐに動かないと。
 
「ヴィー!」
 気がついた時には、俺は走り出していた。
 火事場の馬鹿力というのだろうか、時間の進みが遅く感じ、ぐんぐんシルバリウスに近付く、ドラゴンの胸の膨らみも大きくなる。
 シルバリウスに突っ込むようにシルバリウスに抱きつくと迫り来るドラゴンブレスに対抗する為、最大出力で氷の壁を作り続ける。
「ぐっ」
 魔力が急激に持っていかれる。
 
 ……残り4割
 まだまだ、ドラゴンブレスは終わらない。
 シルバリウスが俺に気が付いたのか、俺の体を支えてくれる。
 
 ……残り3割
 体力が限界だったからか、体が震え始める。
 
 モブが強制力に抗う事は出来るのだろうか?
 スタンピートからゲームじみた展開に不安になる。
 
 ……残り2割
 まだ終わらない。シルバリウスが応援するように強く抱きしめてくれる。
 
 そうだ。強制力のきかないモブの俺だからこそシルバリウスを助ける事が出来る筈なのだと考え直す。

「モブを舐めるなよ! 前世から何度となく助けようとした、ヴィーにかける想いは誰にも負けない」
 
 声に出していたのかどうかは分からないが、想いを強くする事で、ひたすら耐える。
 
 ……残り1割とちょっと。
 ブレスが止まった。

 ――ドーン
 
 地面に衝撃が走る。

 目の前には倒れたドラゴンが居た。

 守れた。

 ゲームでは守りきれなかったシルバリウスを今度こそ、本当に守り切れたんだ。
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