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心強い仲間登場

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 スタンピートは2回目の経験だったが、始まりのスタンピートより楽だった。
 ゲームでやっていた時の魔物が少ない版のようだった為、魔物の到来サイクルが掴めていたのだ。
 ただいかんせん、絶賛体調不良中で補助媒体も無い状態、いつもより神経を使わざるを得なく、俺を気にするカメルとルドルフの2人がミスをするようになり、その負担がこちらに掛かるという悪循環に陥っていた。
 まだ、大丈夫ではあるがこの状態が続くと不味いなと思った時、スチュアートとサスケとハワードにエリザベスちゃんという救世主が現れたのだ。
 因みにエリザベスちゃんは、元はダンジョンの魔物で人に害の無い30センチ程の捕食される側の植物の魔物だった。
 ひょんな事でハワードが助け、栄養豊富な土を用意してあげたら、次の日からパーティについて来たのだ。
 初めのうちは帰るように言っていたハワードも、いつも5メートル位は離れつつもしっかりついてくる植物に絆され、仲間となった。
 ハワードの土魔法と余程相性が良かったのだろう。普通はスタンピートではない限り、ダンジョンの外に出れない筈のダンジョンの魔物がダンジョンの外に出られてしっかり屋敷にもついて来た。
 今ではハワードと相思相愛なばかりか、ぐんぐん栄養をとり、高さ10メートル位の巨大な魔物になっていた。
 ……今見ると更に成長したのか、もう少し大きくなっている気がするが。

 スチュアートが用意してくれた車椅子に座りながら暫し休憩を取る。
 ……座るとどっと疲れが来るね。
 どこから出したのか、おでこに冷たい布が置かれる。
 すぐあったかくなるので、自分の氷魔法で表面だけ凍らせまたおでこにあてる。
「スチュアートそっちはどうだった?」
「こちらは、ぼっちゃまが連れ去られた後、夜中からスタンピートが発生しました。そちらの対処により、遅くなり申し訳ございません」
「大丈夫大丈夫。そちらは深夜からだったんだ、大変だったね。今状況は?」
「ぼっちゃまのおかげで警戒体制だった為、早くに気が付け準備が可能だったのと、前回のスタンピートの経験が活かせほぼ同じ作戦で殲滅していく事が出来ました。朝方収束に向かった為、私達はこちらに参りました。前回の教訓を活かし、念の為カーラ、ニア、ロイを残し、エドガー様も兵団も残っております」
「なるほど、ちょっと心配ではあるけどダイアナちゃんも居るし大丈夫かな」
 ダイアナちゃんは元々ハワードが屋敷で育てていた植物だったのだが、エリザベスちゃんに嫉妬を覚えたからか、ハワードへの愛なのか、自我が芽生えたのだか魔物化したのかよく分からないが、ハワードの言う事を忠実に聞く植物? である。
「ぼっちゃま、魔力と体調はいかがですか?」
「魔力は半分使ったかなって所、補助媒体が無いと無駄打ちして勿体ないね。体調は絶不調だよ。なんか昨日連れて行かれた後、まさかベッドのない床に転がされていてさー、ほんの数時間前までずっと寝巻きだったんだよ! もう寝巻きでローワン王国国王とも謁見するとか何か踏んだり蹴ったりだったよー」
「それはそれは……」
 スチュアートが笑顔なのに怖い。愚痴りすぎたかなぁ。
 こちらで起こったことの顛末も話すと益々黒い笑顔になった。
「これはもう国際問題ですね。ふふふ、しっかりと記録を取っておきましょう。……ぼっちゃまはこちらのお薬を飲んでください」
「えー。ここに来てもその飲み物なの……」
「こちらが1番ぼっちゃまのお体にあっていますので。あと、この後ぼっちゃまはしばらくお休みください。結構お体に負担がかかっています」
 渋々、あまり美味しくない滋養強壮に良い飲み物を飲みながら答える。
「んー。そうだねぇ。じゃ、このまま座っているよ。今横になったらもう起きられない気がする」
「そのままお休みになっていても良いですよ。屋敷までお運びしますので」
「……いや、最終決戦なんだ。これで運命が変わるから最後まで居なければならない」
 俺の強い意志を感じたのか、スチュアートは早々に折れた。
「かしこまりました。私は最期まで貴方様の側にお仕え致します」
 スチュアートが爽やかに微笑んだ。
 ……うん? 俺ちょっと言葉間違えた?
 世界の命運とか国の運命とかじゃないよ?
 ゲーム並みのスタンピートだったら、確かに可能性はなくはないけど、このレベルなら国が滅ぶまではいかないと思う。
 まぁ、ゲームと同様にドラゴンなんて出てこなければの話だけど。
 ……あれ? 今自分でフラグ立てちゃった?

 その後、俺以外順番に休憩に入り、シルバリウスが休憩に入る時はハワードに小突かれ、サスケに手刀をくらい、スチュアートには休憩の間中嫌味を言われていた。
 俺はそんな光景を車椅子に座り、うつらうつらしながら遠くに聞いていた。

 そして、ピリッとした空気に目が覚め顔を上げて一言。
「来る」
 いつの間にか魔物は減っていたようでそこら中魔物の遺体だらけで動いている魔物はあまりいなかった。
 側にいたスチュアートに声をかける。
「ハワードにエリザベスちゃんとこの辺の魔物を片付けつつ、退避するように伝えて。ドラゴンブレスはエリザベスちゃんの天敵だから絶対近付かないように。あと散っているシルバリウス、カメル、ルドルフを呼んで、サスケは援護かな。スチュアートはローワン王国国王辺りの護衛かな」
「ぼっちゃまのお側に居ます」
「いや、ありがたいけど、ローワン王国の人達がドラゴンに釣られて馬鹿やったりしないかを見張っていて欲しい。50人程を1人で見張るのは大変だと思うけど。あとカメルが治癒も出来るけど何かあった場合に一番信用できるのはスチュアートだから、魔力を温存しておいて欲しい」
 スチュアートが珍しく苦い顔をしながら、それでも俺の言うことを聞いてくれる。
「……かしこまりました。ぼっちゃま無理はしないでくださいね」
「分かっているよ。スチュアートも自分の身に危険が迫ったら、ローワン王国の国王だろうと放って良いからね」
「はい……」
 なんでも出来る万能執事だが、火力が弱いのである。
 もしスチュアートがあと20歳程若ければ手伝って貰ったかもしれないが、正直ドラゴンと相対出来るほどの何かは持っていない。
 俺は今回死者ゼロを目指しているんだ。
「ぼっちゃまも、魔力一割残すのは忘れないようにしてくださいね」
「ははは、そうだね。また深い眠りにつきたくないしね」
 シルバリウスも助けて、俺も生き残る。
 絶対に生き残る!
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