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修行〈シルバリウス視点〉

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 私が物思いにふけっている間に、スチュアートはニアを退出させた。

 わさわざ退出させるほどの何か秘密の話でもあるのだろうか?

「天はぼっちゃまを見放さなかったかもしれません。

 貴方、”氷”属性の魔力を持っていますね?

 それも、成人を超えても魔力総量が増え続けている」

 まさかのスチュアートの発言に驚いたものの、正直に答える。

「いや、属性は知らん」

「……」

「……」

「……、そちらの国では魔力測定は義務じゃないのですか?」

「貴族は義務だが、貴族以外は任意だ。

 私は婚外子だった為、魔力測定を受けていないし、今迄魔法はロクに使った事もなく、知っているだろうが魔力が多いと知ったのも捕らえられてからだし、魔力が増え続けているのも魔力吸牢に入っていたが故だ」

 

 呆然としたまま“これだから、小国なんですよ”なんて言葉が聞こえ、スチュアートは頭を抱えてしまった。



「今から、魔力測定を行うとなると、貴方の戸籍を作って、申請してとなると少なくても、一ヶ月はかかってしまうでしょう。

 ここは貴方にかけて、ぼっちゃまと同じ属性があると信じます。

 魔力の質が近いと感じましたし、ぼっちゃまがわざわざ貴方を探させたのにはきっと意味がある筈……」



 リューイがわざわざ私を探した? “銀髪奴隷”などではなく”シルバリウス”としてという意味だろうか?

 確かに、最初から懐かれていたが、でもお互い国から出た事もなく初対面だった筈だが……。



 スチュアートの話は続く。

「幸い貴方の魔力総量は、ぼっちゃまの五分の二とちょっと。

 ぼっちゃまの魔力総量には全く及びませんが、必要なのは穴を塞ぐ分だけ。

 今でも足りそうな気はしますが、念のため五分の三になった所で、やりましょう。

 なので、まずは魔力総量を増やす為に、毎日魔力枯渇ギリギリまで魔力を使うこと、そして穴を塞ぐ為の魔力操作を覚えましょう」

 

 スチュアートの目が爛々と光っていて少し怖い。

 やる気に満ちたスチュアートの手前とても言い出しにくいが、懸念点はちゃんと言わなければならないだろう。



「すまんが、魔力の使い方が分からん」

「……はっ?」



 信じられないものを見るような目で見てくる。



「貴方魔道具は使えているでしょう?」

「使えるが、魔力なんて意識して使った事がなかった」

「……そうですね。最近の魔道具は勝手に必要な分吸い取りますね。

 だからこそ、この家には魔道具を最低限しか置いてないわけですけど。

 ……貴方元騎士ですよね? 汗をかいた後とか浄化魔法は使いますよね?」

「いや、シャワー室があるから、使った事はないな。遠征の時は、専属の魔法使いがつくし」

「……、今までこの屋敷に来てどうしていたのです? ぼっちゃまが使う風呂場は使っていませんでしたよね?」

「ああ、初めに厩の方にあったシャワーを使って良いか聞いたら良いと言われたから、そこにあるものを借りていた」

「……それは、そのまま馬用なのですが。しかも水しか出ないでしょう?」

「風呂場では無いんだ。シャワーが水なのは普通だろう?」

「……私はこの国で暮らせて幸せだと実感しました。

 では魔力を意識して使う所からですか。

 先が長そうですね……」



 スチュアートが遠い目をしながら語った。

 この時は知らなかったが、フォゼッタ王国では貴族だけでなく平民も最低限魔法を使えるのは当たり前で、浄化魔法は子供が一番最初に覚える魔法だそうだ。



 私は前途多難そうな予感に武者震いをするのだった。





 ***



 ――リューイの部屋

 私はベッドに寝ているリューイの手を取り、話しかける。

「リューイ、今日もやっぱり浄化魔法しか使えなかった。

 私にも”氷”属性魔法があるらしいのだが、全く想像がつかないんだ。

 リューイが隷属の首輪を外してくれたのは”氷”属性魔法でなんだろう?

速すぎて全く何をやっているか分からなかったから、今度はじっくり見せてくれ。

 仕方がないから今日も浄化魔法で魔力をギリギリまで削るのだが、毎日やり過ぎてもう屋敷はピカピカだぞ?

 私も浄化魔法以外も使いたいのだがな」



 あれから、3週間経ったがリューイは目覚めない。

 翌日からスチュアートと共に魔法の修行に入ったが、全く才能が無かった。

 まず魔力がよく分からない。

 “魔力暴走を止められたのだから魔力は感じられる筈”と散々言われたが、結局分からず、3日後には何も言われなくなった。

 それでも何とか、浄化魔法だけは使えるようになった。

 ……何故使えるのか魔力も理論も原理も分からないが、取り敢えず使えるようになった為、馬鹿のひとつ覚えの如く浄化魔法だけを使い魔力枯渇ギリギリまで持っていくようになった。

 幸いまだ私の成長期? は止まっておらず、魔力総量も順調に増えていった。

 が、問題がもう一つ、魔力が分からないので、所謂補給方法も分からないのだ。

 もしかして、魔力補給が出来ないのではないかと早めに気が付いたスチュアートはさすがである。

 容態が落ち着いてから、1日1回以上はリューイの見舞いに来ていたが、今は見舞いついでに魔力補給の練習をするのも日課に組まれるようになった。

 

 ……因みに、一度も成功した事はない。



 寝たまま目覚めない為、益々細くなってしまったリューイ。

 喋っていた時はあんなに可愛らしかったのに、無表情で眠る今は、美しいが今にも壊れてしまいそうな人形みたいで怖い。

 ゆっくりと、でも着実に過ぎていく毎日の中で、リューイの事を考えない日はない。

 そして、あの時の胸の温かさ、胸の奥の痛み、今現在も感じる切なさの正体が分かった。

 

 そう、いつの間にかリューイに惚れていたのだろう。



 自覚してからは、リューイが愛おしくて仕方がない。

 生家でも愛される事なく育ち、騎士団の仲間達にも裏切られた自分が、まさか人を愛せるようになるなんて信じ難いが、これが現実である。

 また、菫色の瞳で私を見てほしい。

 笑いかけて欲しい。

 前は当たり障りのない事しか喋らなかったけど、もっとリューイの事が知りたい。

 私の事も知ってほしい。

 

 そして、まだまだ、これからを一緒に過ごしたい。



 だが、ここに来て、魔力穴が大きくなってしまったらしく、一昨日から朝・晩に魔力補給が必要になってきた。

 現在唯一補給が出来るスチュアートも回復が追いつかなくなれば、待っているのは……。



「魔力操作を覚えるから、まだ逝かないでくれ」



 ――1週間後、限界を迎える事になる。
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