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困惑〈シルバリウス視点〉
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うつらうつらする意識の中、首にかかる気配に思わず近付いた”モノ”を掴んだと同時に、薄い殺気と首元にあたる刃物。
無意識だったが、ハッキリしない目を凝らしているとだんだん視界が晴れて見えるようになった。
この薄い殺気は、思わず掴んでしまった少年を守る為の執事のものだったようなので、ゆっくり手を引く。
鈍い頭で捕らえられてからの今までの状況を整理する。
確か最初に送還されたのは一般牢で、看守のストレス発散に使われていた気がしたが……。
そうだその後、魔力吸牢に移動になったのだ。
魔力吸牢は辛かった。それまで意識して魔力を使った事がなく、魔力枯渇状態があんなに辛いものだとは知らなかった。
私はバレン侯爵家の当主とメイドとの間にできた婚外子だ。一応13歳迄はバレン侯爵家の離れで過ごし、最低限の面倒は見てもらい、その後は家督継承権の破棄契約を結び、騎士団への推薦状を貰い13歳からただのシルバリウスとして、騎士団暮らしだった。
訳ありの私に近付くものは少なく、淡々と訓練を熟すと剣術の才能があったようで、自分で言うのもなんだがメキメキと頭角を現していった。
そして、成長とともに女に好かれる見た目になっていき、当時12歳だった第三王女からは自分の近衛騎士になれと駄々を捏ねられる始末だった。
近衛騎士団に入れる者は貴族家の者だけだ。
実質平民である自分はいくら望まれても、無理なものは無理なのだが、第三王女は何度言っても理解しなかった。
だから、その日も待ち伏せされていた廊下で断ると、ギャン泣きし出して、挙句の果ては逆ギレする始末。
振りかぶられた王女の手を思わず取ってしまった所で、本当の近衛騎士に取り押さえられ、詰所へ連行。
後から知ったが、その日は第三王女の誕生日だったらしい。甘やかされて育った第三王女は誕生日なら何でも言う事を聞いてくれるし、欲しいものは全部貰えると思っていたようだ。
育った生家が助けてくれる訳もなく、少ないながらも親身になってくれた騎士団員が助けてくれる事もなく、気がつけば王室への反逆罪だか王女強姦罪だか何だかになり、一般牢へ。
それも終身奴隷という身分までに落とされた。
生家は期待していなかったが、団員の誰一人擁護に現れる事なく、逆に騎士団のエースと呼ばれるようになった事に対して妬まれていた事を知った時は、流石にこたえた。
奴隷は隷属の首輪というもので縛られ、自害を禁じられ、魔力も一部しか使えないように制御される。
一般牢で、強制労働をさせられながら看守の吐口となっていた頃、年に一度ある検診にて私の魔力量が多い事が分かり、魔力吸牢へと移動になったのだ。
そして、そこで初めて知ったが、幼少期に魔力を意識して使っていなかったからか、魔力枯渇を繰り返すうちに段々魔力総量が上がって行ったのだ。
ごく稀に、成人を超えても魔力量が増え続ける者がいる事は知っていたが、まさか自分が当てはまるとは思わなかった。
そして、それはすぐに上に報告がいき、希有な例だという事で医療機関監修の元過ごす事になる。
ただ、結局やる事は変わらず魔力が少しでも貯まれば持っていかれ、生命維持に必要な分のみ残され貯まるまで待ち、貯まったらまた持っていかれる。
観察が終わるまで死なないように、栄養チューブを入れられ、そこに何か他の薬も混ざっていたのだろう。
常に意識が朦朧としていて、その状態から今までどの位経ったのか不明だ。
気がつけば今の状態で、先ほどから綺麗な子供がピーチクパーチク囀っている。
取り敢えず、状況を理解しようとすると、この目の前で囀る水色の髪で菫色の瞳の可愛らしい男の子が、この執事の主人らしい。
そして、いつの間にか牢から出ていただけではなく、目の前の少年の言葉を信じるなら国も出ているようだ。
説明があるかと思えば、いきなり質問はと聞かれて、この少年が何をしたいのか全く分からない。
しょうがないので、私を牢から出した理由を聞くと、私を見たかったからとか意味の分からない事を言って、真意を探らせないようにする。
流石、大国の辺境伯爵家の息子だけあって、馬鹿ではないようだ。
“牢から出したのだから”と見返りを要求されるだろうと心当たりを探っても、隣国との接点なんて無かった私には想像がつかない。まさかスパイとして働くことを求められているのだろうか? と思ったが、スパイにするには私の容姿は目立ち過ぎている。
全く分からない為、見返りを聞くと、何故か更に良い条件を出された。
……全く意味が分からない。
まさか、“見返り”を私が要求したと捉えている訳ではないだろう?
ただ、その後に続く言葉は、何故か私にとってだけ良い事ばかり。
いい加減頭がおかしくなりそうだ。
一体何をさせたいのだか、最後まで分からなかった。
その位自分で考えろという事なのか?
そして、少年はまた謎の気配りを見せて部屋を出て行った。
暫く呆然としていたが、繰り返し言われたことを頭の中で反芻しても、やっぱり意味が分からなかった。
結局理解は諦め、現在の状況把握から努める事にした。
使える物は使おうと、早速ベルを鳴らすと、メイドがやってきたので、現在の日付からこの場所の情報から、根掘り葉掘り聞いた。
無意識だったが、ハッキリしない目を凝らしているとだんだん視界が晴れて見えるようになった。
この薄い殺気は、思わず掴んでしまった少年を守る為の執事のものだったようなので、ゆっくり手を引く。
鈍い頭で捕らえられてからの今までの状況を整理する。
確か最初に送還されたのは一般牢で、看守のストレス発散に使われていた気がしたが……。
そうだその後、魔力吸牢に移動になったのだ。
魔力吸牢は辛かった。それまで意識して魔力を使った事がなく、魔力枯渇状態があんなに辛いものだとは知らなかった。
私はバレン侯爵家の当主とメイドとの間にできた婚外子だ。一応13歳迄はバレン侯爵家の離れで過ごし、最低限の面倒は見てもらい、その後は家督継承権の破棄契約を結び、騎士団への推薦状を貰い13歳からただのシルバリウスとして、騎士団暮らしだった。
訳ありの私に近付くものは少なく、淡々と訓練を熟すと剣術の才能があったようで、自分で言うのもなんだがメキメキと頭角を現していった。
そして、成長とともに女に好かれる見た目になっていき、当時12歳だった第三王女からは自分の近衛騎士になれと駄々を捏ねられる始末だった。
近衛騎士団に入れる者は貴族家の者だけだ。
実質平民である自分はいくら望まれても、無理なものは無理なのだが、第三王女は何度言っても理解しなかった。
だから、その日も待ち伏せされていた廊下で断ると、ギャン泣きし出して、挙句の果ては逆ギレする始末。
振りかぶられた王女の手を思わず取ってしまった所で、本当の近衛騎士に取り押さえられ、詰所へ連行。
後から知ったが、その日は第三王女の誕生日だったらしい。甘やかされて育った第三王女は誕生日なら何でも言う事を聞いてくれるし、欲しいものは全部貰えると思っていたようだ。
育った生家が助けてくれる訳もなく、少ないながらも親身になってくれた騎士団員が助けてくれる事もなく、気がつけば王室への反逆罪だか王女強姦罪だか何だかになり、一般牢へ。
それも終身奴隷という身分までに落とされた。
生家は期待していなかったが、団員の誰一人擁護に現れる事なく、逆に騎士団のエースと呼ばれるようになった事に対して妬まれていた事を知った時は、流石にこたえた。
奴隷は隷属の首輪というもので縛られ、自害を禁じられ、魔力も一部しか使えないように制御される。
一般牢で、強制労働をさせられながら看守の吐口となっていた頃、年に一度ある検診にて私の魔力量が多い事が分かり、魔力吸牢へと移動になったのだ。
そして、そこで初めて知ったが、幼少期に魔力を意識して使っていなかったからか、魔力枯渇を繰り返すうちに段々魔力総量が上がって行ったのだ。
ごく稀に、成人を超えても魔力量が増え続ける者がいる事は知っていたが、まさか自分が当てはまるとは思わなかった。
そして、それはすぐに上に報告がいき、希有な例だという事で医療機関監修の元過ごす事になる。
ただ、結局やる事は変わらず魔力が少しでも貯まれば持っていかれ、生命維持に必要な分のみ残され貯まるまで待ち、貯まったらまた持っていかれる。
観察が終わるまで死なないように、栄養チューブを入れられ、そこに何か他の薬も混ざっていたのだろう。
常に意識が朦朧としていて、その状態から今までどの位経ったのか不明だ。
気がつけば今の状態で、先ほどから綺麗な子供がピーチクパーチク囀っている。
取り敢えず、状況を理解しようとすると、この目の前で囀る水色の髪で菫色の瞳の可愛らしい男の子が、この執事の主人らしい。
そして、いつの間にか牢から出ていただけではなく、目の前の少年の言葉を信じるなら国も出ているようだ。
説明があるかと思えば、いきなり質問はと聞かれて、この少年が何をしたいのか全く分からない。
しょうがないので、私を牢から出した理由を聞くと、私を見たかったからとか意味の分からない事を言って、真意を探らせないようにする。
流石、大国の辺境伯爵家の息子だけあって、馬鹿ではないようだ。
“牢から出したのだから”と見返りを要求されるだろうと心当たりを探っても、隣国との接点なんて無かった私には想像がつかない。まさかスパイとして働くことを求められているのだろうか? と思ったが、スパイにするには私の容姿は目立ち過ぎている。
全く分からない為、見返りを聞くと、何故か更に良い条件を出された。
……全く意味が分からない。
まさか、“見返り”を私が要求したと捉えている訳ではないだろう?
ただ、その後に続く言葉は、何故か私にとってだけ良い事ばかり。
いい加減頭がおかしくなりそうだ。
一体何をさせたいのだか、最後まで分からなかった。
その位自分で考えろという事なのか?
そして、少年はまた謎の気配りを見せて部屋を出て行った。
暫く呆然としていたが、繰り返し言われたことを頭の中で反芻しても、やっぱり意味が分からなかった。
結局理解は諦め、現在の状況把握から努める事にした。
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