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2章ローゼンベルト王国

【番外編】*小話*ヨハンの事情〈ヨハン視点〉

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※「処遇」のアレクの部屋から出て行った直後のヨハン側の話です。

--------------

 ――パタン。



 アレクの部屋から出たヨハンは、先程綾人に確認した事項を関係各所へ連携する為に、足早に廊下を歩きながら先程の事を思い出す。









 綾人が目覚めたと聞いてから、アレクに会わせて欲しいと頼んで5日目、やっと面会が叶った。

 部屋に入って、顔色も良く元気そうなアヤト様を見てほっとしたのも束の間、目に入ってきたのは無駄に高級そうなミスリルの足枷。

 ヨハンの頭にはこの2ヶ月の間にあった、アレクとのやり取りが走馬灯のように流れた。



 ~走馬灯開始~



 ――綾人が廃人になって数日。

 アレクの自室をすぐ出た所でヨハンは話す。

 必要な打ち合わせの後、ずっと気になっていた事を言ったのだ。



「……アレクセイ殿下、アヤト様に付きっきりでは貴方も壊れてしまいますよ。それに目覚めてからすぐ動けるように、今のうちに関係各所と申し合わせてしまえば、アヤト様が目覚めた時、アヤト様の側にいられる時間が増えると思いますよ?」

「……そうだな。ただ、もうひと時だって、時間の許す限り一緒にいたいのだ。もう離れたくない」

「まぁ、分からなくも無いですが、重すぎる愛は相手に負担がかかってしまうものです。あまり重すぎるとアヤト様に逃げられちゃいますよ」

「…………そうなのか。……分かった」



 酷く青ざめたアレクは、その日の話は終わりとばかりに室内に戻って行った。





 ――翌日。



 相変わらず登城しないアレクの為に、ヨハンがアレクの屋敷へ赴き、必要な確認が終わった後、珍しくアレクから質問され不意に雑談が始まった。



「ヨハン、金にいとめは付けないとして、硬くて頑丈で軽い金属といえばなんだ?」

「? やはりミスリルですかね? 魔法付与をされないのでしたら、多少重くなりますが、オリハルコンもですかね」

「そうだよな……。では、一番頑丈で重い金属はやはりアダマンタイトか?」

「そうだと思います。が、何か?」

「いや、何でもない」





 ――ある日のアレクの屋敷の使用人が話していた噂話。



「病み上がりのアレクセイ殿下、ベットの支柱を全てアダマンタイトに変えたそうよ」

「それは……、随分重そうだな。それでなくてもベットは重いのに、アダマンタイトの支柱だと持ち上げるのも一苦労だな」

「だから、組み立ては直接アレクセイ殿下の部屋で行われたそうよ。その時騎士6人で持ち上げてやっと数センチ浮いたとか」

「でもいきなり、何で支柱をアダマンタイトにするんだろうね? 健康にいいのだろうか?」

「さあ? お偉いさんの考えることはわからないわ」



 極一部を除き、表向きはアレクは重い病に伏せっていた事になっている。

 ヨハンはたまたま居合せ、何とはなしに、使用人達の話を最後まで聞いてしまったが、何でベットの支柱をアダマンタイトに? と同じ疑問を抱いた。

 すぐに別の仕事があった為に忘れてしまったが。





 ――ある日の街の噂



「大量のミスリル発注がきたと思ったら、今度はそれで早急に鎖をつくる用に指示があったそうよ」

「鎖とは、なんか大きい魔物でも捕まえるのかね?」

「どうなのかしら? それならミスリルじゃなくても良いと思うんだけど、どうやら魔法付与もされるらしいのよね」

「お貴族様が考える事はわからんね」



 ヨハンは仕事で街へ出た時、最近出た話題の金属の話が聞こえ、またしても最後まで会話を聞いてしまった。

 そして、ヨハンもミスリルの鎖で何をするんだ? と思ったが、すぐに頭の片隅に追いやり、仕事を進めた。





 ――別の日



 登城しないアレクの為に、ヨハンがアレクの屋敷へ赴くのも慣れた頃。

「そうだ、明日以降は必要であれば、登城しよう。必要であればだがな」

 唐突にアレクから登城する旨の連絡を受けヨハンは喜んだ。

「それは助かります。やはり、その場で議論した方が良い事もありますからね」

「ああ。準備が整ったからな」



 ヨハンはなんの準備だろう? と思ったものの、何故だか、深く突っ込んではいけないような気がして、話を流したのだった。



 ~走馬灯終了~



 走馬灯が流れ終わり再度、綾人を見る。



 綾人の足には、光り輝く長い鎖付きの足枷。

 ……重くは無さそうだ。



 そして、その鎖の行先は、ベットの支柱。

 ……ベットの支柱が無駄に重々しい雰囲気を醸し出している。



 点と点が線に繋がってしまった瞬間だった。



 明らかにヨハンのせいである。



 監禁生活が終わった後のまた監禁。



 ヨハンは申し訳無さで一杯になった。



 ――アヤト様すみません。



 ただ、こればかりはもうヨハンの手を出せる範囲を超えているため、綾人が早く解放される事を祈るばかりだった。
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