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第4章(最終章)
【4-6】加護の繋がり
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元々そこまで騒がしいわけではなかった室内が、更にしんと静まり返る。誰もが渋い顔で立ち尽くしていた。
緑色の毛髪は魔族の特徴のひとつであるという情報は、一般国民にも公にしている。魔族の特徴に該当する怪しい人物を見かけた際にはすぐに騎士か役人へ通報するように、という指示も、王都はもちろん遠い田舎町に至るまで出しており、往来に掲示されているはずだ。
その情報を把握しているからこそ、エドワードは扉の向こうにいた緑髪の人物に慌てふためき即座にジョセフへ報告し、そのジョセフもまた判断に困ってすぐに報告してきたのである。
「エドワード、こちらへ」
「はっ、はいっ」
リアムに手招かれたエドワードは、半泣きの顔ながらも素早く近づいてきた。
「相手に敵意はありそうか?」
「へっ? い、いえ、オ、オレにはそんな判断んんん」
「落ち着け。お前に判断を委ねているわけではない。ただ、お前の直感でいいから、ざっくりとした印象を教えて欲しいだけだ」
リアムはエドワードを宥めるように、背中を軽くぽんぽんと叩く。少しは気持ちが落ち着いたのか、長身のフットマンは眉尻を下げながらも、たどたどしく語り始めた。
「え、えっとぉ……、なんか、おとなしい感じというか……、こっちを攻撃してやるぞって感じではなくて、ギラギラした感じでもなくて、かなり落ち着いてたっす」
「エドは何も言わずに逃げてきたのか?」
「いいえ!オレでも流石に一言お断りを入れたっす。お通しして大丈夫かオレじゃ分かんないんで、ちょっと確認して来てもいいですかーって。相手もどうぞって言ってくれました」
「……本当にお前は相変わらずというか、いつでもブレないというか」
「へっ?」
「いや、いい。何でもない」
三国が協力して立ち向かおうとしている敵の一味かもしれない相手に対し、エドワードは通常通りの対応をしてきたらしい。多少は慌てているとはいえ、ある意味、肝の据わった男だとも云える。
気を取り直したリアムは、軽く咳払いをしてから最後の質問を投げ掛けた。
「──それで、その来訪者たちは玄関先でおとなしく待っているわけか?」
「はい。ここで待ってる、ゆっくりで構わない、って女の人のほうが言ってくれたっす。男の人はずっと黙ってたんすけど、だからって睨まれたりもしてないっす」
「なるほど……」
キリエを名指ししつつ話があると此処に来ているのだから、相手がリアムの存在を知っている可能性は高い。おそらく、対応したエドワードが相談するのが家主であるリアムになると把握したうえで、時間がかかってもいいから待つと言ってきたはずだ。
その言葉を素直に受け取るのであれば、訪問者たちは自分たちがどう捉われる存在であるのを理解し、歩み寄ってきているようにも思える。リアムが軽く気配を探ってみても、殺意はまるで感じない。
そもそも、此処にいる人間の襲撃が目的であればとっくに突入しているだろうし、そのような気配を感じ取ればジョセフが判断に迷うはずがないのだ。そう考えたリアムは、皆の顔を順番に見ながら発言した。
「皆様、私は玄関で対応して参ります。リツ様、チェット様、ならびに王族の皆様は、騎士たちの傍を離れませぬようお願い申し上げます。レオンさん、騎士たちをまとめて指示と警戒をお願いいたします。ジョセフとルーナはレオンさんを補佐して、もしもの場合には囮役を頼む。エレノアとセシルはキャサリンをフォローしながら、自分たちの身の安全は自分たちで確保してくれ。エドワードは俺と共に来てくれ」
リアムの言葉を聞いた一同は、それぞれ頷く。キリエはリアムやエドワードの身に危険があるのではと気がかりだったが、だからといって更に良い代打案を出せるわけでもない。自分が代わりに行くと言っても、誰もがキリエを止めるだろうことも、それを振り切ろうとしたら他の人たちも付いてくると言い出しかねないことも、よく分かっていた。
「……リアム、手を貸してください」
「はい……?」
不思議そうに目を瞬かせながらも、リアムは素直に主君へ手を預ける。己より一回り大きな手を握り、キリエは祈るように言う。
「リアム、君自身にもエドにも危険が及ばないよう、十分に気をつけてください。命を何よりも大事にしてくださいね」
そう言いながら、キリエは周囲に悟られぬよう密かに精霊の加護をリアムに分け与えた。キリエが半妖精人であることは周知の事実となったが、どの程度の特性を持っているのかはごく一部の者しか知らず、リアムとの魂結びの件もジェイデンとマクシミリアン以外の誰にも伝えていない。キリエの半妖精人としての能力でリアムに力を分け与えているという認識をしている者もいるが、だからといってそれを明るみに出しているわけでもない。
精霊の加護の気配を察したリアムはハッとしたが、それには何も言及せず、「承知いたしました」と静かに答える。加護を通じてキリエの様子を察することも出来るため、こうして傍を離れざるをえない場合にはありがたい繋がりだ。リアムは視線でキリエに礼を伝えてから、エドワードを伴って食堂を出た。
緑色の毛髪は魔族の特徴のひとつであるという情報は、一般国民にも公にしている。魔族の特徴に該当する怪しい人物を見かけた際にはすぐに騎士か役人へ通報するように、という指示も、王都はもちろん遠い田舎町に至るまで出しており、往来に掲示されているはずだ。
その情報を把握しているからこそ、エドワードは扉の向こうにいた緑髪の人物に慌てふためき即座にジョセフへ報告し、そのジョセフもまた判断に困ってすぐに報告してきたのである。
「エドワード、こちらへ」
「はっ、はいっ」
リアムに手招かれたエドワードは、半泣きの顔ながらも素早く近づいてきた。
「相手に敵意はありそうか?」
「へっ? い、いえ、オ、オレにはそんな判断んんん」
「落ち着け。お前に判断を委ねているわけではない。ただ、お前の直感でいいから、ざっくりとした印象を教えて欲しいだけだ」
リアムはエドワードを宥めるように、背中を軽くぽんぽんと叩く。少しは気持ちが落ち着いたのか、長身のフットマンは眉尻を下げながらも、たどたどしく語り始めた。
「え、えっとぉ……、なんか、おとなしい感じというか……、こっちを攻撃してやるぞって感じではなくて、ギラギラした感じでもなくて、かなり落ち着いてたっす」
「エドは何も言わずに逃げてきたのか?」
「いいえ!オレでも流石に一言お断りを入れたっす。お通しして大丈夫かオレじゃ分かんないんで、ちょっと確認して来てもいいですかーって。相手もどうぞって言ってくれました」
「……本当にお前は相変わらずというか、いつでもブレないというか」
「へっ?」
「いや、いい。何でもない」
三国が協力して立ち向かおうとしている敵の一味かもしれない相手に対し、エドワードは通常通りの対応をしてきたらしい。多少は慌てているとはいえ、ある意味、肝の据わった男だとも云える。
気を取り直したリアムは、軽く咳払いをしてから最後の質問を投げ掛けた。
「──それで、その来訪者たちは玄関先でおとなしく待っているわけか?」
「はい。ここで待ってる、ゆっくりで構わない、って女の人のほうが言ってくれたっす。男の人はずっと黙ってたんすけど、だからって睨まれたりもしてないっす」
「なるほど……」
キリエを名指ししつつ話があると此処に来ているのだから、相手がリアムの存在を知っている可能性は高い。おそらく、対応したエドワードが相談するのが家主であるリアムになると把握したうえで、時間がかかってもいいから待つと言ってきたはずだ。
その言葉を素直に受け取るのであれば、訪問者たちは自分たちがどう捉われる存在であるのを理解し、歩み寄ってきているようにも思える。リアムが軽く気配を探ってみても、殺意はまるで感じない。
そもそも、此処にいる人間の襲撃が目的であればとっくに突入しているだろうし、そのような気配を感じ取ればジョセフが判断に迷うはずがないのだ。そう考えたリアムは、皆の顔を順番に見ながら発言した。
「皆様、私は玄関で対応して参ります。リツ様、チェット様、ならびに王族の皆様は、騎士たちの傍を離れませぬようお願い申し上げます。レオンさん、騎士たちをまとめて指示と警戒をお願いいたします。ジョセフとルーナはレオンさんを補佐して、もしもの場合には囮役を頼む。エレノアとセシルはキャサリンをフォローしながら、自分たちの身の安全は自分たちで確保してくれ。エドワードは俺と共に来てくれ」
リアムの言葉を聞いた一同は、それぞれ頷く。キリエはリアムやエドワードの身に危険があるのではと気がかりだったが、だからといって更に良い代打案を出せるわけでもない。自分が代わりに行くと言っても、誰もがキリエを止めるだろうことも、それを振り切ろうとしたら他の人たちも付いてくると言い出しかねないことも、よく分かっていた。
「……リアム、手を貸してください」
「はい……?」
不思議そうに目を瞬かせながらも、リアムは素直に主君へ手を預ける。己より一回り大きな手を握り、キリエは祈るように言う。
「リアム、君自身にもエドにも危険が及ばないよう、十分に気をつけてください。命を何よりも大事にしてくださいね」
そう言いながら、キリエは周囲に悟られぬよう密かに精霊の加護をリアムに分け与えた。キリエが半妖精人であることは周知の事実となったが、どの程度の特性を持っているのかはごく一部の者しか知らず、リアムとの魂結びの件もジェイデンとマクシミリアン以外の誰にも伝えていない。キリエの半妖精人としての能力でリアムに力を分け与えているという認識をしている者もいるが、だからといってそれを明るみに出しているわけでもない。
精霊の加護の気配を察したリアムはハッとしたが、それには何も言及せず、「承知いたしました」と静かに答える。加護を通じてキリエの様子を察することも出来るため、こうして傍を離れざるをえない場合にはありがたい繋がりだ。リアムは視線でキリエに礼を伝えてから、エドワードを伴って食堂を出た。
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