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第2章

【2-92】間違い探し

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「私の考えとしては、豊かな国民を増やすために必要なのは貧困層を薄くすることだと思っている。とはいえ、それは現在の貧民を救済しようという意味ではない。餓死したり子どもを捨ててしまう貧民が多いのが現状と云うのなら、それはこの国が維持できる国民の数を超えてしまっているのだろう。貧しい民が口減らしのために子どもを手放すように、ウィスタリア王国全体の国民数を減らす必要があるのではないだろうか?」

 ライアンは、淡々と語る。国民の命を摘み取ることになっても致し方ない、と話す彼の口調はあまりにも冷徹だ。
 理解できない主張を真っ向から受けたキリエは若干の吐き気を感じつつも、その衝動を抑え、努めて冷静に問いかける。

「ライアン。貧しい人々だって、同じ人間です。同じように生まれた命なのです。それを、そんな……、簡単に切り捨ててしまうような政策が正しいのだと、本当に思っているのですか?」
「正しいと思っている。種族が同じであろうとも、立場に違いがある限り命の重さは同じではない。より優れた命が生き残っていくためには、どうしても切り捨てねばならない命があるはずだ。国内の資源には限りがある。その限度の中で豊かな生活を送る者を増やすためには、資源を手にする人口を減らすしかない。一人一人の取り分が増えてゆけば、貧民の貧困具合も改善されてゆくだろう。ゆくゆくは、国民全員が同じだけ豊かになる未来が訪れるかもしれない。──だが、キリエが言うように現在の貧民を手厚く守ってしまっては、結局は国全体が貧しくなっていく一方であろう」

 ライアンの論述を聞き、周囲の有力貴族の多くは頷きで同意を示していた。この場での「正論」の流れは、ライアン寄りになってしまっている。

 生まれたときから王子であったライアンも、豊かな生活しか知らない有力貴族たちも、自らが切り捨てられる心配が無いからこそ、身分が下の立場にある人々の命を道具のようにしか考えられないのかもしれない。
 そう、彼らは分かっていないのだ。苦しい生活をしている国民も同じ人間であり、同じように喜怒哀楽の感情があり、懸命に生きているということを。

「どうだ、キリエ。今の私の話に、何か具体的な反論は出来るか? 綺麗事や絵空事ではなく、しっかりとした根拠のある反論をして見せてくれ」
「それは……」

 何か言い返さなければと必死に考えるが、もともと感情が先行して話を進める傾向にあるキリエは、とっさに理論を纏めることが苦手だ。

 ライアンが語っている内容は間違いだと思うけれど、具体的にどこをどういう理由で否定するべきなのかを上手く言葉に出せそうにない。リアムであれば冷静に言い返せるようにも思えるが、側近騎士といえどもこの場での発言権は無いに等しかった。

「ライアン。キリエにばかり矛先を向けるのはやめたまえよ。君が自身の主張をあらかた並べ終えたというのなら、今度は僕に論述させてくれないか? 僕が、ライアンの翳す正義を木っ端微塵にしてあげよう」
「……何だと?」

 答えに窮したキリエを庇いつつ、ジェイデンがライアンを煽るような発言をする。勝気な笑みを浮かべている金髪の王子を、ライアンは鋭く睨みつけた。

「いいだろう。君のようなお調子者が私を論破できるとは思えないが、何を語るのか興味がある。私の論述は以上で構わん。私の何が間違っているのか示してみろ、ジェイデン」

 挑発に乗ってきた黒髪の王子を眺めたジェイデンは、なんとも愉快そうな笑みを口元へ刻んだ。

「何を間違っているのか示せ、だと? ははっ、面白いことを言ってくれるじゃないか。端的に言えば『全て』なのだよ」
「全て、……だと?」
「ああ。今、ライアンが偉そうに語っていた内容は、僕に言わせれば全て間違っている」

 二人の王子の視線が交わり、まるで火花が散るような緊張感が走る。周囲の皆は、固唾を呑んで彼らの様子を見守った。
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