110 / 335
第2章
【2-92】間違い探し
しおりを挟む
「私の考えとしては、豊かな国民を増やすために必要なのは貧困層を薄くすることだと思っている。とはいえ、それは現在の貧民を救済しようという意味ではない。餓死したり子どもを捨ててしまう貧民が多いのが現状と云うのなら、それはこの国が維持できる国民の数を超えてしまっているのだろう。貧しい民が口減らしのために子どもを手放すように、ウィスタリア王国全体の国民数を減らす必要があるのではないだろうか?」
ライアンは、淡々と語る。国民の命を摘み取ることになっても致し方ない、と話す彼の口調はあまりにも冷徹だ。
理解できない主張を真っ向から受けたキリエは若干の吐き気を感じつつも、その衝動を抑え、努めて冷静に問いかける。
「ライアン。貧しい人々だって、同じ人間です。同じように生まれた命なのです。それを、そんな……、簡単に切り捨ててしまうような政策が正しいのだと、本当に思っているのですか?」
「正しいと思っている。種族が同じであろうとも、立場に違いがある限り命の重さは同じではない。より優れた命が生き残っていくためには、どうしても切り捨てねばならない命があるはずだ。国内の資源には限りがある。その限度の中で豊かな生活を送る者を増やすためには、資源を手にする人口を減らすしかない。一人一人の取り分が増えてゆけば、貧民の貧困具合も改善されてゆくだろう。ゆくゆくは、国民全員が同じだけ豊かになる未来が訪れるかもしれない。──だが、キリエが言うように現在の貧民を手厚く守ってしまっては、結局は国全体が貧しくなっていく一方であろう」
ライアンの論述を聞き、周囲の有力貴族の多くは頷きで同意を示していた。この場での「正論」の流れは、ライアン寄りになってしまっている。
生まれたときから王子であったライアンも、豊かな生活しか知らない有力貴族たちも、自らが切り捨てられる心配が無いからこそ、身分が下の立場にある人々の命を道具のようにしか考えられないのかもしれない。
そう、彼らは分かっていないのだ。苦しい生活をしている国民も同じ人間であり、同じように喜怒哀楽の感情があり、懸命に生きているということを。
「どうだ、キリエ。今の私の話に、何か具体的な反論は出来るか? 綺麗事や絵空事ではなく、しっかりとした根拠のある反論をして見せてくれ」
「それは……」
何か言い返さなければと必死に考えるが、もともと感情が先行して話を進める傾向にあるキリエは、とっさに理論を纏めることが苦手だ。
ライアンが語っている内容は間違いだと思うけれど、具体的にどこをどういう理由で否定するべきなのかを上手く言葉に出せそうにない。リアムであれば冷静に言い返せるようにも思えるが、側近騎士といえどもこの場での発言権は無いに等しかった。
「ライアン。キリエにばかり矛先を向けるのはやめたまえよ。君が自身の主張をあらかた並べ終えたというのなら、今度は僕に論述させてくれないか? 僕が、ライアンの翳す正義を木っ端微塵にしてあげよう」
「……何だと?」
答えに窮したキリエを庇いつつ、ジェイデンがライアンを煽るような発言をする。勝気な笑みを浮かべている金髪の王子を、ライアンは鋭く睨みつけた。
「いいだろう。君のようなお調子者が私を論破できるとは思えないが、何を語るのか興味がある。私の論述は以上で構わん。私の何が間違っているのか示してみろ、ジェイデン」
挑発に乗ってきた黒髪の王子を眺めたジェイデンは、なんとも愉快そうな笑みを口元へ刻んだ。
「何を間違っているのか示せ、だと? ははっ、面白いことを言ってくれるじゃないか。端的に言えば『全て』なのだよ」
「全て、……だと?」
「ああ。今、ライアンが偉そうに語っていた内容は、僕に言わせれば全て間違っている」
二人の王子の視線が交わり、まるで火花が散るような緊張感が走る。周囲の皆は、固唾を呑んで彼らの様子を見守った。
ライアンは、淡々と語る。国民の命を摘み取ることになっても致し方ない、と話す彼の口調はあまりにも冷徹だ。
理解できない主張を真っ向から受けたキリエは若干の吐き気を感じつつも、その衝動を抑え、努めて冷静に問いかける。
「ライアン。貧しい人々だって、同じ人間です。同じように生まれた命なのです。それを、そんな……、簡単に切り捨ててしまうような政策が正しいのだと、本当に思っているのですか?」
「正しいと思っている。種族が同じであろうとも、立場に違いがある限り命の重さは同じではない。より優れた命が生き残っていくためには、どうしても切り捨てねばならない命があるはずだ。国内の資源には限りがある。その限度の中で豊かな生活を送る者を増やすためには、資源を手にする人口を減らすしかない。一人一人の取り分が増えてゆけば、貧民の貧困具合も改善されてゆくだろう。ゆくゆくは、国民全員が同じだけ豊かになる未来が訪れるかもしれない。──だが、キリエが言うように現在の貧民を手厚く守ってしまっては、結局は国全体が貧しくなっていく一方であろう」
ライアンの論述を聞き、周囲の有力貴族の多くは頷きで同意を示していた。この場での「正論」の流れは、ライアン寄りになってしまっている。
生まれたときから王子であったライアンも、豊かな生活しか知らない有力貴族たちも、自らが切り捨てられる心配が無いからこそ、身分が下の立場にある人々の命を道具のようにしか考えられないのかもしれない。
そう、彼らは分かっていないのだ。苦しい生活をしている国民も同じ人間であり、同じように喜怒哀楽の感情があり、懸命に生きているということを。
「どうだ、キリエ。今の私の話に、何か具体的な反論は出来るか? 綺麗事や絵空事ではなく、しっかりとした根拠のある反論をして見せてくれ」
「それは……」
何か言い返さなければと必死に考えるが、もともと感情が先行して話を進める傾向にあるキリエは、とっさに理論を纏めることが苦手だ。
ライアンが語っている内容は間違いだと思うけれど、具体的にどこをどういう理由で否定するべきなのかを上手く言葉に出せそうにない。リアムであれば冷静に言い返せるようにも思えるが、側近騎士といえどもこの場での発言権は無いに等しかった。
「ライアン。キリエにばかり矛先を向けるのはやめたまえよ。君が自身の主張をあらかた並べ終えたというのなら、今度は僕に論述させてくれないか? 僕が、ライアンの翳す正義を木っ端微塵にしてあげよう」
「……何だと?」
答えに窮したキリエを庇いつつ、ジェイデンがライアンを煽るような発言をする。勝気な笑みを浮かべている金髪の王子を、ライアンは鋭く睨みつけた。
「いいだろう。君のようなお調子者が私を論破できるとは思えないが、何を語るのか興味がある。私の論述は以上で構わん。私の何が間違っているのか示してみろ、ジェイデン」
挑発に乗ってきた黒髪の王子を眺めたジェイデンは、なんとも愉快そうな笑みを口元へ刻んだ。
「何を間違っているのか示せ、だと? ははっ、面白いことを言ってくれるじゃないか。端的に言えば『全て』なのだよ」
「全て、……だと?」
「ああ。今、ライアンが偉そうに語っていた内容は、僕に言わせれば全て間違っている」
二人の王子の視線が交わり、まるで火花が散るような緊張感が走る。周囲の皆は、固唾を呑んで彼らの様子を見守った。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる