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第2章
【2-74】キリエの危険性
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「リアム。私も席を外したほうが良いのならそうするけれど、どうする?」
ジョセフを見送ったあと、マクシミリアンがリアムへ尋ねる。リアムは静かに首を振った。
「いや、マクシミリアンも共に聞いてもらったほうが良いと俺は思う。……いかがでしょうか、キリエ様」
「僕はマックスに聞いてもらっても大丈夫です。……ジョセフにだって、聞かれても構わなかったのですが」
「……差し出がましいことをいたしまして、申し訳ございませんでした」
「あっ、いえ、……リアムを責めたいわけではないのですが、少し納得できなかっただけです。すみません」
潔く頭を下げてきたリアムに対し、キリエは眉尻を下げて戸惑ってしまう。悶々とした気持ちがあるのは確かだが、だからといってリアムの判断に文句を言いたいわけではない。
キリエの複雑な心中を察したのか、ジェイデンはあえて明るい声で発言してきた。
「キリエ。僕も、リアムの判断は正しかったと思うのだよ」
「そうですよね、……それは、分かっています」
「うんうん、だがまぁ、君がモヤモヤと考えてしまう気持ちも分からなくはない。特に、キリエは平等な優しさを大切にしているようだからな」
「平等な優しさ……?」
「ああ、そうだとも」
ジェイデンは穏やかに頷きつつ、のんびりと先を続ける。
「それは君の美点でもあるし、素晴らしい慈愛の心だとも思うが……、時には特別な存在を選別しなくてはならないのが僕たちの立場なのだよ。キリエがこれから何を打ち明けてくれるのかは分からないが、君の騎士は、彼が信頼しているバトラーの同席さえ拒んだ。それだけの重要機密ということだ。キリエにその自覚が無いのかもしれないが、君が口にしようとしている情報は国家機密に相当するものなんだろう」
「えっ……、そ、そうなのですか?」
自身の体質がそこまで重要問題として扱われるものだという自覚が皆無だったキリエは驚き、思わず隣のリアムを見上げた。リアムは微苦笑と共に、首肯する。
「はい。とても重大な機密かと存じます。相手への信頼度の高さに関わらず、あの事実を知る人間の数は少ないに越したことはないのではないかと考え、ジョセフに退席を命じた次第です」
「そうだったのですね。……すみません、僕の問題がそこまでの厄介事だとは思っていなかったので、君にも嫌な態度を取りました。重要な秘密は、知ってしまった人を危険に晒してしまう可能性があるのですよね。だから、リアムはジョセフを守ってくれたわけで……、いえ、そんなに危ないことであるのなら、ジェイデンやマックスにも話さないほうがいいのかもしれません」
自覚が足りなかった己を恥じ、自身が持つ妙な資質が異様なものだと再認識し、キリエはどんどん落ち込んでゆく。明らかに気落ちしているキリエを見て、リアムは慌てたように首を振った。
「いえ、決してキリエ様を貶めているわけではなく、貴方を問題視しているわけでもありません。私の言葉が足りないばかりに、ご不快に思わせてしまったのならば、誠に申し訳ございません」
「違います。君が悪いのではなくて、僕が……」
「はいはい、そこまで! そこまでなのだよ!」
ジェイデンが手を打ち鳴らし、キリエとリアムは我に返って彼の方を向く。金髪の王子はやや呆れ顔で、大げさな溜息をついた。
「君たちは、どちらも悪くない。リアムがキリエに偏見の目を向けるはずがなかろう。リアムの発言に特に問題は無い。キリエの語る内容がどんな危険を孕んでいたとしても、僕は聞く。僕が聞くなら、当然マックスも聞く。何故なら、側近騎士だけは主君と全ての情報を共有しておくべきだからだ。重要な秘密であるのなら、バトラーは退席させておいたほうが彼自身の安全にも繋がる。よって、この四人で話を進めるのが最適解だ。──というわけで、どうぞ語ってくれたまえ」
テキパキと結論を出したジェイデンは、最後に手のひらを向けてキリエを促してくる。キリエがおずおずとリアムを見ると、彼は安心させるような眼差しで頷いた。チラリとマクシミリアンの様子も窺うと、彼は柔和な笑顔ながらも真摯な目でキリエを見つめてくる。
キリエは意を決し、己の不思議な体質について打ち明けた。──人から悪意を向けられづらい体質、時々瞳が紅くなり不可思議な現象が起きること、キリエ自身にはそれらを実行している感覚が無いこと。
ジェイデンとマクシミリアンは真剣に耳を傾け、リアムもまた少々心配そうに真顔で見守っていた。
「──以上、です」
「うーん、なるほど……。うん、キリエ、お疲れ様なのだよ」
キリエが語り終えると、ジェイデンは微笑んでねぎらってくれる。もしも嫌悪感や拒絶の態度を見せられてしまったらどうしようと内心で不安だったキリエは、ジェイデンやマクシミリアンの様子に変化が見られないことに安堵した。
「確かに、リアムが重要機密と考えたのも無理はない。これは外部に漏らさないほうがいい。僕とマックスも、自身の胸にしまっておくことにしよう」
「……僕は、そんなに厄介な存在なのでしょうか。やはり、協力体制を作るのはやめたほうが、」
「何を言っているのだよ! そうじゃない。リアムや僕が心配しているのは、キリエを狙う悪い輩が増えないかということだ」
ジェイデンの言葉に、リアムとマクシミリアンも頷いて同意を示す。困惑するキリエへ、ジェイデンはきっぱりと言い放った。
「はっきり言っておこう。キリエ、君のその不思議な体質は、権力者が知れば勇んで悪用するだろう。そのくらい、危険なものだ。君自身が危険なのではなく、君に危険が及ぶ可能性が高いのだよ」
ジョセフを見送ったあと、マクシミリアンがリアムへ尋ねる。リアムは静かに首を振った。
「いや、マクシミリアンも共に聞いてもらったほうが良いと俺は思う。……いかがでしょうか、キリエ様」
「僕はマックスに聞いてもらっても大丈夫です。……ジョセフにだって、聞かれても構わなかったのですが」
「……差し出がましいことをいたしまして、申し訳ございませんでした」
「あっ、いえ、……リアムを責めたいわけではないのですが、少し納得できなかっただけです。すみません」
潔く頭を下げてきたリアムに対し、キリエは眉尻を下げて戸惑ってしまう。悶々とした気持ちがあるのは確かだが、だからといってリアムの判断に文句を言いたいわけではない。
キリエの複雑な心中を察したのか、ジェイデンはあえて明るい声で発言してきた。
「キリエ。僕も、リアムの判断は正しかったと思うのだよ」
「そうですよね、……それは、分かっています」
「うんうん、だがまぁ、君がモヤモヤと考えてしまう気持ちも分からなくはない。特に、キリエは平等な優しさを大切にしているようだからな」
「平等な優しさ……?」
「ああ、そうだとも」
ジェイデンは穏やかに頷きつつ、のんびりと先を続ける。
「それは君の美点でもあるし、素晴らしい慈愛の心だとも思うが……、時には特別な存在を選別しなくてはならないのが僕たちの立場なのだよ。キリエがこれから何を打ち明けてくれるのかは分からないが、君の騎士は、彼が信頼しているバトラーの同席さえ拒んだ。それだけの重要機密ということだ。キリエにその自覚が無いのかもしれないが、君が口にしようとしている情報は国家機密に相当するものなんだろう」
「えっ……、そ、そうなのですか?」
自身の体質がそこまで重要問題として扱われるものだという自覚が皆無だったキリエは驚き、思わず隣のリアムを見上げた。リアムは微苦笑と共に、首肯する。
「はい。とても重大な機密かと存じます。相手への信頼度の高さに関わらず、あの事実を知る人間の数は少ないに越したことはないのではないかと考え、ジョセフに退席を命じた次第です」
「そうだったのですね。……すみません、僕の問題がそこまでの厄介事だとは思っていなかったので、君にも嫌な態度を取りました。重要な秘密は、知ってしまった人を危険に晒してしまう可能性があるのですよね。だから、リアムはジョセフを守ってくれたわけで……、いえ、そんなに危ないことであるのなら、ジェイデンやマックスにも話さないほうがいいのかもしれません」
自覚が足りなかった己を恥じ、自身が持つ妙な資質が異様なものだと再認識し、キリエはどんどん落ち込んでゆく。明らかに気落ちしているキリエを見て、リアムは慌てたように首を振った。
「いえ、決してキリエ様を貶めているわけではなく、貴方を問題視しているわけでもありません。私の言葉が足りないばかりに、ご不快に思わせてしまったのならば、誠に申し訳ございません」
「違います。君が悪いのではなくて、僕が……」
「はいはい、そこまで! そこまでなのだよ!」
ジェイデンが手を打ち鳴らし、キリエとリアムは我に返って彼の方を向く。金髪の王子はやや呆れ顔で、大げさな溜息をついた。
「君たちは、どちらも悪くない。リアムがキリエに偏見の目を向けるはずがなかろう。リアムの発言に特に問題は無い。キリエの語る内容がどんな危険を孕んでいたとしても、僕は聞く。僕が聞くなら、当然マックスも聞く。何故なら、側近騎士だけは主君と全ての情報を共有しておくべきだからだ。重要な秘密であるのなら、バトラーは退席させておいたほうが彼自身の安全にも繋がる。よって、この四人で話を進めるのが最適解だ。──というわけで、どうぞ語ってくれたまえ」
テキパキと結論を出したジェイデンは、最後に手のひらを向けてキリエを促してくる。キリエがおずおずとリアムを見ると、彼は安心させるような眼差しで頷いた。チラリとマクシミリアンの様子も窺うと、彼は柔和な笑顔ながらも真摯な目でキリエを見つめてくる。
キリエは意を決し、己の不思議な体質について打ち明けた。──人から悪意を向けられづらい体質、時々瞳が紅くなり不可思議な現象が起きること、キリエ自身にはそれらを実行している感覚が無いこと。
ジェイデンとマクシミリアンは真剣に耳を傾け、リアムもまた少々心配そうに真顔で見守っていた。
「──以上、です」
「うーん、なるほど……。うん、キリエ、お疲れ様なのだよ」
キリエが語り終えると、ジェイデンは微笑んでねぎらってくれる。もしも嫌悪感や拒絶の態度を見せられてしまったらどうしようと内心で不安だったキリエは、ジェイデンやマクシミリアンの様子に変化が見られないことに安堵した。
「確かに、リアムが重要機密と考えたのも無理はない。これは外部に漏らさないほうがいい。僕とマックスも、自身の胸にしまっておくことにしよう」
「……僕は、そんなに厄介な存在なのでしょうか。やはり、協力体制を作るのはやめたほうが、」
「何を言っているのだよ! そうじゃない。リアムや僕が心配しているのは、キリエを狙う悪い輩が増えないかということだ」
ジェイデンの言葉に、リアムとマクシミリアンも頷いて同意を示す。困惑するキリエへ、ジェイデンはきっぱりと言い放った。
「はっきり言っておこう。キリエ、君のその不思議な体質は、権力者が知れば勇んで悪用するだろう。そのくらい、危険なものだ。君自身が危険なのではなく、君に危険が及ぶ可能性が高いのだよ」
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