87 / 335
第2章
【2-69】共闘か協力か
しおりを挟む
「また、キリエに甘えてしまったな。……すまない」
少しはにかんだリアムが言うと、キリエは小さく首を振った。
「そんなことないです。謝ってもらうことじゃないですし、甘えてくれるというのなら、もっとちゃんと甘えてほしいですよ」
「いや、もう十分に甘えさせてもらっている。俺ももっとしっかりしなくてはな」
気持ちを切り替えるかのように、リアムは長めの吐息を零す。これでこの話題は終わりということだろう。そう察したキリエは、全く違う話題を口にした。
「明日は、ジェイデンとマックスが話をしに来てくれるのでしたね。やはり、来月の中間討論会に向けて……ということでしょうか」
「ああ、そうなるだろうな」
来月──冬の第一月第一週一日目、王城にて次期国王候補たちによる中間討論会が行われる予定になっている。どういった国政を目指すべきか、自身が王位に就いた場合にはどのような働きをするつもりかなど、有力貴族たちの前で意見を交し合う場となるようだ。
討論会の内容は書記が書き留め、王都内で掲示されるらしい。その掲示を見た者が概要をまとめて転記して各地方街へ届けたりもするらしく、どの候補者へ票を入れるべきかを検討するための資料となるのだろう。
「ジェイデン様は、キリエとの共闘を視野に入れていらっしゃるのかもしれないな」
「共闘? ……僕と?」
「共闘というか、協力関係というか……、要はキリエと共に国政を動かすことを考えていらっしゃるのではないか、ということだ」
「……ジェイデンと、僕で?」
首を傾げるキリエに対し、リアムは真面目な顔で頷いた。
「今まで、ジェイデン様は次期国王の座を目指しているのかいないのか、はっきりしていなかった。これはあくまでも俺の個人的な予想でしかないが、キリエが語った言葉の中に何か琴線に触れるものがあって、ジェイデン様ご自身の意思も固まったのかもしれない」
「ジェイデンの意思……、先日、演練場で話したとき、彼は次期国王にかかる負担を懸念しているように感じました。次期国王を目指すと決意したのかもしれませんね」
「ああ。そして、キリエに何かしらの補佐をしてもらえることを期待されているのかもしれない」
「そんな、僕に出来ることなんて殆ど無いのに……」
力無くうなだれるキリエの細い背を撫で、リアムは首を振る。
「そんなことはない。力とは、権力や財力、能力に限ったものではないんだ。確かに、今のキリエにはそういった部分がまだ足りていないかもしれない。だが、他の次期国王候補には無いものを、お前は持っている。おそらくジェイデン様はそこに着目されている」
「そ、そんなもの、僕には……、確かに、変わった色の髪や眼ですし、変な効力みたいなものもあるようですが……」
「そうではない。──ジェイデン様が欲しているのは、キリエの心だ」
真摯な藍紫の瞳がキリエの視線を捉え、励ますかのように見つめてきた。
「貧しい国民の現状を知り、彼らを助けたいと真に願う慈愛の心。嘘をつかず正直でまっすぐな言葉をもって相手と理解しあおうとする、あたたかな真心。……ジェイデン様はきっと、キリエのそんな心根に惹かれるものを感じられたのだろう。そして、もしそうだとするならば、明日の対話は好機となるはずだ」
先日の会話の中で、ジェイデンは「キリエが目指そうとしている国の在り方はおそらく正しい」という旨を語っていた。彼が引っ掛かりをおぼえていたのは、キリエが引いた立ち位置から国の未来を見据えていた点で、それに関しては正直な気持ちを答えられたと思う。
彼がこちらの考えを踏まえたうえで協力を仰ぎたいと思っているならば、それはキリエにとっても目指したい王国の姿へ一歩近づいたとも云えるのではないだろうか。
「ジェイデンの考え次第ではありますが、もしも彼と協力関係になれるのであれば、とても心強いと思います。……僕は、きちんと話ができるでしょうか」
「大丈夫だ。話し合いの場には、俺もいる。何かあればフォローできるようにするから、キリエは自分が思う通り素直に会話を進めてくれればいい」
リアムの声音には、キリエを落ち着かせる力があるのかもしれない。彼の落ち着いた響きながらも力強い励ましを聞き、キリエの胸中に漂っていた不安は薄まっていった。
「ありがとうございます。君が隣にいてくれると、何だって乗り越えられるような気がします」
「それはお互い様だ。俺のほうこそ、キリエの存在に支えられている」
二人は視線を交わして微笑み、しっかりと頷き合った。
少しはにかんだリアムが言うと、キリエは小さく首を振った。
「そんなことないです。謝ってもらうことじゃないですし、甘えてくれるというのなら、もっとちゃんと甘えてほしいですよ」
「いや、もう十分に甘えさせてもらっている。俺ももっとしっかりしなくてはな」
気持ちを切り替えるかのように、リアムは長めの吐息を零す。これでこの話題は終わりということだろう。そう察したキリエは、全く違う話題を口にした。
「明日は、ジェイデンとマックスが話をしに来てくれるのでしたね。やはり、来月の中間討論会に向けて……ということでしょうか」
「ああ、そうなるだろうな」
来月──冬の第一月第一週一日目、王城にて次期国王候補たちによる中間討論会が行われる予定になっている。どういった国政を目指すべきか、自身が王位に就いた場合にはどのような働きをするつもりかなど、有力貴族たちの前で意見を交し合う場となるようだ。
討論会の内容は書記が書き留め、王都内で掲示されるらしい。その掲示を見た者が概要をまとめて転記して各地方街へ届けたりもするらしく、どの候補者へ票を入れるべきかを検討するための資料となるのだろう。
「ジェイデン様は、キリエとの共闘を視野に入れていらっしゃるのかもしれないな」
「共闘? ……僕と?」
「共闘というか、協力関係というか……、要はキリエと共に国政を動かすことを考えていらっしゃるのではないか、ということだ」
「……ジェイデンと、僕で?」
首を傾げるキリエに対し、リアムは真面目な顔で頷いた。
「今まで、ジェイデン様は次期国王の座を目指しているのかいないのか、はっきりしていなかった。これはあくまでも俺の個人的な予想でしかないが、キリエが語った言葉の中に何か琴線に触れるものがあって、ジェイデン様ご自身の意思も固まったのかもしれない」
「ジェイデンの意思……、先日、演練場で話したとき、彼は次期国王にかかる負担を懸念しているように感じました。次期国王を目指すと決意したのかもしれませんね」
「ああ。そして、キリエに何かしらの補佐をしてもらえることを期待されているのかもしれない」
「そんな、僕に出来ることなんて殆ど無いのに……」
力無くうなだれるキリエの細い背を撫で、リアムは首を振る。
「そんなことはない。力とは、権力や財力、能力に限ったものではないんだ。確かに、今のキリエにはそういった部分がまだ足りていないかもしれない。だが、他の次期国王候補には無いものを、お前は持っている。おそらくジェイデン様はそこに着目されている」
「そ、そんなもの、僕には……、確かに、変わった色の髪や眼ですし、変な効力みたいなものもあるようですが……」
「そうではない。──ジェイデン様が欲しているのは、キリエの心だ」
真摯な藍紫の瞳がキリエの視線を捉え、励ますかのように見つめてきた。
「貧しい国民の現状を知り、彼らを助けたいと真に願う慈愛の心。嘘をつかず正直でまっすぐな言葉をもって相手と理解しあおうとする、あたたかな真心。……ジェイデン様はきっと、キリエのそんな心根に惹かれるものを感じられたのだろう。そして、もしそうだとするならば、明日の対話は好機となるはずだ」
先日の会話の中で、ジェイデンは「キリエが目指そうとしている国の在り方はおそらく正しい」という旨を語っていた。彼が引っ掛かりをおぼえていたのは、キリエが引いた立ち位置から国の未来を見据えていた点で、それに関しては正直な気持ちを答えられたと思う。
彼がこちらの考えを踏まえたうえで協力を仰ぎたいと思っているならば、それはキリエにとっても目指したい王国の姿へ一歩近づいたとも云えるのではないだろうか。
「ジェイデンの考え次第ではありますが、もしも彼と協力関係になれるのであれば、とても心強いと思います。……僕は、きちんと話ができるでしょうか」
「大丈夫だ。話し合いの場には、俺もいる。何かあればフォローできるようにするから、キリエは自分が思う通り素直に会話を進めてくれればいい」
リアムの声音には、キリエを落ち着かせる力があるのかもしれない。彼の落ち着いた響きながらも力強い励ましを聞き、キリエの胸中に漂っていた不安は薄まっていった。
「ありがとうございます。君が隣にいてくれると、何だって乗り越えられるような気がします」
「それはお互い様だ。俺のほうこそ、キリエの存在に支えられている」
二人は視線を交わして微笑み、しっかりと頷き合った。
0
お気に入りに追加
56
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる