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第2章

【2-69】共闘か協力か

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「また、キリエに甘えてしまったな。……すまない」

 少しはにかんだリアムが言うと、キリエは小さく首を振った。

「そんなことないです。謝ってもらうことじゃないですし、甘えてくれるというのなら、もっとちゃんと甘えてほしいですよ」
「いや、もう十分に甘えさせてもらっている。俺ももっとしっかりしなくてはな」

 気持ちを切り替えるかのように、リアムは長めの吐息を零す。これでこの話題は終わりということだろう。そう察したキリエは、全く違う話題を口にした。

「明日は、ジェイデンとマックスが話をしに来てくれるのでしたね。やはり、来月の中間討論会に向けて……ということでしょうか」
「ああ、そうなるだろうな」

 来月──冬の第一月第一週一日目、王城にて次期国王候補たちによる中間討論会が行われる予定になっている。どういった国政を目指すべきか、自身が王位に就いた場合にはどのような働きをするつもりかなど、有力貴族たちの前で意見を交し合う場となるようだ。
 討論会の内容は書記が書き留め、王都内で掲示されるらしい。その掲示を見た者が概要をまとめて転記して各地方街へ届けたりもするらしく、どの候補者へ票を入れるべきかを検討するための資料となるのだろう。

「ジェイデン様は、キリエとの共闘を視野に入れていらっしゃるのかもしれないな」
「共闘? ……僕と?」
「共闘というか、協力関係というか……、要はキリエと共に国政を動かすことを考えていらっしゃるのではないか、ということだ」
「……ジェイデンと、僕で?」

 首を傾げるキリエに対し、リアムは真面目な顔で頷いた。

「今まで、ジェイデン様は次期国王の座を目指しているのかいないのか、はっきりしていなかった。これはあくまでも俺の個人的な予想でしかないが、キリエが語った言葉の中に何か琴線に触れるものがあって、ジェイデン様ご自身の意思も固まったのかもしれない」
「ジェイデンの意思……、先日、演練場で話したとき、彼は次期国王にかかる負担を懸念しているように感じました。次期国王を目指すと決意したのかもしれませんね」
「ああ。そして、キリエに何かしらの補佐をしてもらえることを期待されているのかもしれない」
「そんな、僕に出来ることなんて殆ど無いのに……」

 力無くうなだれるキリエの細い背を撫で、リアムは首を振る。

「そんなことはない。力とは、権力や財力、能力に限ったものではないんだ。確かに、今のキリエにはそういった部分がまだ足りていないかもしれない。だが、他の次期国王候補には無いものを、お前は持っている。おそらくジェイデン様はそこに着目されている」
「そ、そんなもの、僕には……、確かに、変わった色の髪や眼ですし、変な効力みたいなものもあるようですが……」
「そうではない。──ジェイデン様が欲しているのは、キリエの心だ」

 真摯な藍紫の瞳がキリエの視線を捉え、励ますかのように見つめてきた。

「貧しい国民の現状を知り、彼らを助けたいと真に願う慈愛の心。嘘をつかず正直でまっすぐな言葉をもって相手と理解しあおうとする、あたたかな真心。……ジェイデン様はきっと、キリエのそんな心根に惹かれるものを感じられたのだろう。そして、もしそうだとするならば、明日の対話は好機となるはずだ」

 先日の会話の中で、ジェイデンは「キリエが目指そうとしている国の在り方はおそらく正しい」という旨を語っていた。彼が引っ掛かりをおぼえていたのは、キリエが引いた立ち位置から国の未来を見据えていた点で、それに関しては正直な気持ちを答えられたと思う。
 彼がこちらの考えを踏まえたうえで協力を仰ぎたいと思っているならば、それはキリエにとっても目指したい王国の姿へ一歩近づいたとも云えるのではないだろうか。

「ジェイデンの考え次第ではありますが、もしも彼と協力関係になれるのであれば、とても心強いと思います。……僕は、きちんと話ができるでしょうか」
「大丈夫だ。話し合いの場には、俺もいる。何かあればフォローできるようにするから、キリエは自分が思う通り素直に会話を進めてくれればいい」

 リアムの声音には、キリエを落ち着かせる力があるのかもしれない。彼の落ち着いた響きながらも力強い励ましを聞き、キリエの胸中に漂っていた不安は薄まっていった。

「ありがとうございます。君が隣にいてくれると、何だって乗り越えられるような気がします」
「それはお互い様だ。俺のほうこそ、キリエの存在に支えられている」

 二人は視線を交わして微笑み、しっかりと頷き合った。
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