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第2章
【2-13】性別不詳 年齢不詳
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「先ほど、名前と役職だけはお伝えしましたが、ボクはセシルと申します。このお屋敷のフットマンです。エドがどちらかというと外回りに寄ったお仕事内容で、ボクは屋敷内の雑務を担当することが多いですね。メイドとフットマンの間のような立ち位置かもしれません。一般的な家事もしますし、お庭の手入れなどの力仕事もこなしています」
「なるほど……、セシルは屋敷内で色々なお仕事を手がけているのですね」
「はい、色々と挑戦させていただいています。ボクはこんな格好をしていますから非力に見られることも多いですが、実はエドよりも力持ちなんですよ。普通の男の使用人として、お仕事をお申し付けいただけると嬉しいです」
ふんわりと愛らしい外見だが、セシルはハキハキとした口調で話していく。その語り口は、確かに男性的かもしれない。キリエはこくこくと頷き、頭を下げた。
「色々とお世話になることもあると思いますが、よろしくお願いします、セシル」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。……キリエ様は、お優しいですね」
「えっ?」
「ボクやノアと初めてご対面していただいたとき、キリエ様はビックリされていましたけど、ボクらを奇異と見るような視線を向けられませんでした。今だって、どうしてこんな格好をしているのか気になっているはずなのに、問い質されたりはせず、受け入れてくださろうとしています。まだお若いのに、慈しみに満ちた広い御心をお持ちなのだと感じました」
「いえ、そんな……」
「そうだろう? キリエ様は、とても誠実で純朴でお優しい方なんだ」
セシルの言葉を受け、キリエは首を振ったが、リアムはどこか誇らしげに微笑んで頷いた。どうやら、夜霧の騎士は、自分が親しい者が褒められると嬉しくなる性質の人間のようだ。
「キリエ様は踏み込んで訊いてよいものか悩まれたのだと思いますが、セシル本人は特に気に病むことなく、その理由を堂々と語れます。……セシル、話してさしあげてくれ」
「承知いたしました」
リアムに促されたセシルは、気負うことなく自然な笑顔でキリエと向き直り、語り始めた。
「ボクは、男の服よりも女性の服の方が好きなんです。そして、自分にもその方が似合っているという自覚もあります。でも、だからといって、ボクは女の子になりたいわけではないんです。あくまでも、女性の服を着ていたいだけ。このお屋敷では、メイド用の衣装を着たフットマンという特殊な状態をお許しいただいています」
「女の子の服が好き……、うん、確かにセシルによくお似合いだと思います」
「ありがとうございます!」
メイド服を違和感なく着こなしている彼は、確かに女性用の衣服の方が似合うのかもしれない。そう思って心から褒めたキリエの言葉に、セシルは嬉しそうに笑って見せた。
「女性用の服を着て働きたいと言うと、どこからも門前払いを食らってしまいまして。運よくリアム様に拾っていただけて、ボクは本当に幸運でした。先ほど、キリエ様はお優しいと申し上げましたが、リアム様も本当に懐が深く広い御方です」
「いや、俺はそんなことはないと思うが……、仕事をきちんとこなすのなら、ある程度の清潔感がある服装をしていれば特に文句は無いという、それだけの話だ。実際に、セシルはよく働いてくれていて、助かっていることも多い。うちは来客も少ないし、セシルが女性用の服を着ていても特に問題は無いからな」
自身への賛辞を真面目に打ち消してきたリアムだが、彼が広い視野を持っている優しい人物であることは事実だろう。だから、キリエはセシルに加勢することにした。
「僕も、リアムはとっても優しい人だと思っています」
「お、おやめください、キリエ様……」
「そうですよね! キリエ様と同じ気持ちで嬉しいです」
流石に照れているリアムへ追い打ちを掛けるように、セシルがキリエへ同意を返してくれる。そんな明るいやり取りが、あの教会でエステルと交わしていた会話を思い出させて、キリエは楽しげに笑った。
「セシルとは年齢も近そうですし、それもなんだか嬉しいなぁと思います」
無邪気なキリエの言葉に、サリバン邸の一同は一瞬だけ硬直する。どうしたものかと顔を見合わせる彼らを、キリエは小首を傾げて不思議そうに見つめた。結局、咳払いとともに口を開いたのはリアムである。
「……キリエ様に一番年が近いのは、二十歳のエドワードです。そして、次点が私となります」
「エドの次が、リアム……?」
十年前に出会ったときに十五歳だったリアムは、現在は二十五歳のはずだ。キリエとリアムは七歳差であり、セシルとはそれ以上の年齢差があるのだろうか。彼が十一歳以下ということはないだろうから、少なくとも二十六歳以上という予想になる。
「ちなみに、リアム様よりひとつ年上なのがノア、そのもうひとつ年上がわたくしとなります」
「私は、今年で五十になりまして、このお屋敷内では最高齢です」
追加情報から得られた年齢をまとめると、エレノアが二十六歳、キャサリンが二十七歳、ジョセフが五十歳。皆、年齢以上に若く見える。さて、問題のセシルは何歳なのか──、キリエが恐る恐る視線を向けると、メイド服の男はにっこりと笑った。
「ボクの年齢は──、キャサリン以上ジョセフ未満です! 年が近いって思ってくださったのが嬉しいので、そういうことにしておいてくださいね、キリエ様」
性別どころか年齢までも不詳な彼の笑顔には全く裏がなく、ただただ可愛いメイドに見えてしまうのだった。
「なるほど……、セシルは屋敷内で色々なお仕事を手がけているのですね」
「はい、色々と挑戦させていただいています。ボクはこんな格好をしていますから非力に見られることも多いですが、実はエドよりも力持ちなんですよ。普通の男の使用人として、お仕事をお申し付けいただけると嬉しいです」
ふんわりと愛らしい外見だが、セシルはハキハキとした口調で話していく。その語り口は、確かに男性的かもしれない。キリエはこくこくと頷き、頭を下げた。
「色々とお世話になることもあると思いますが、よろしくお願いします、セシル」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。……キリエ様は、お優しいですね」
「えっ?」
「ボクやノアと初めてご対面していただいたとき、キリエ様はビックリされていましたけど、ボクらを奇異と見るような視線を向けられませんでした。今だって、どうしてこんな格好をしているのか気になっているはずなのに、問い質されたりはせず、受け入れてくださろうとしています。まだお若いのに、慈しみに満ちた広い御心をお持ちなのだと感じました」
「いえ、そんな……」
「そうだろう? キリエ様は、とても誠実で純朴でお優しい方なんだ」
セシルの言葉を受け、キリエは首を振ったが、リアムはどこか誇らしげに微笑んで頷いた。どうやら、夜霧の騎士は、自分が親しい者が褒められると嬉しくなる性質の人間のようだ。
「キリエ様は踏み込んで訊いてよいものか悩まれたのだと思いますが、セシル本人は特に気に病むことなく、その理由を堂々と語れます。……セシル、話してさしあげてくれ」
「承知いたしました」
リアムに促されたセシルは、気負うことなく自然な笑顔でキリエと向き直り、語り始めた。
「ボクは、男の服よりも女性の服の方が好きなんです。そして、自分にもその方が似合っているという自覚もあります。でも、だからといって、ボクは女の子になりたいわけではないんです。あくまでも、女性の服を着ていたいだけ。このお屋敷では、メイド用の衣装を着たフットマンという特殊な状態をお許しいただいています」
「女の子の服が好き……、うん、確かにセシルによくお似合いだと思います」
「ありがとうございます!」
メイド服を違和感なく着こなしている彼は、確かに女性用の衣服の方が似合うのかもしれない。そう思って心から褒めたキリエの言葉に、セシルは嬉しそうに笑って見せた。
「女性用の服を着て働きたいと言うと、どこからも門前払いを食らってしまいまして。運よくリアム様に拾っていただけて、ボクは本当に幸運でした。先ほど、キリエ様はお優しいと申し上げましたが、リアム様も本当に懐が深く広い御方です」
「いや、俺はそんなことはないと思うが……、仕事をきちんとこなすのなら、ある程度の清潔感がある服装をしていれば特に文句は無いという、それだけの話だ。実際に、セシルはよく働いてくれていて、助かっていることも多い。うちは来客も少ないし、セシルが女性用の服を着ていても特に問題は無いからな」
自身への賛辞を真面目に打ち消してきたリアムだが、彼が広い視野を持っている優しい人物であることは事実だろう。だから、キリエはセシルに加勢することにした。
「僕も、リアムはとっても優しい人だと思っています」
「お、おやめください、キリエ様……」
「そうですよね! キリエ様と同じ気持ちで嬉しいです」
流石に照れているリアムへ追い打ちを掛けるように、セシルがキリエへ同意を返してくれる。そんな明るいやり取りが、あの教会でエステルと交わしていた会話を思い出させて、キリエは楽しげに笑った。
「セシルとは年齢も近そうですし、それもなんだか嬉しいなぁと思います」
無邪気なキリエの言葉に、サリバン邸の一同は一瞬だけ硬直する。どうしたものかと顔を見合わせる彼らを、キリエは小首を傾げて不思議そうに見つめた。結局、咳払いとともに口を開いたのはリアムである。
「……キリエ様に一番年が近いのは、二十歳のエドワードです。そして、次点が私となります」
「エドの次が、リアム……?」
十年前に出会ったときに十五歳だったリアムは、現在は二十五歳のはずだ。キリエとリアムは七歳差であり、セシルとはそれ以上の年齢差があるのだろうか。彼が十一歳以下ということはないだろうから、少なくとも二十六歳以上という予想になる。
「ちなみに、リアム様よりひとつ年上なのがノア、そのもうひとつ年上がわたくしとなります」
「私は、今年で五十になりまして、このお屋敷内では最高齢です」
追加情報から得られた年齢をまとめると、エレノアが二十六歳、キャサリンが二十七歳、ジョセフが五十歳。皆、年齢以上に若く見える。さて、問題のセシルは何歳なのか──、キリエが恐る恐る視線を向けると、メイド服の男はにっこりと笑った。
「ボクの年齢は──、キャサリン以上ジョセフ未満です! 年が近いって思ってくださったのが嬉しいので、そういうことにしておいてくださいね、キリエ様」
性別どころか年齢までも不詳な彼の笑顔には全く裏がなく、ただただ可愛いメイドに見えてしまうのだった。
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