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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと
【11-9】
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緑色の髪をふわりと靡かせて着地したノヴァユエは、眼鏡をクイッと上げてご機嫌に笑う。そして、感謝祭の衣装を着ている僕を見て、更に笑みを深めた。
「ミカ~★ よく似合ってるじゃん☆ そんな格好してるとさぁ、普通にこの世界の人間に見えちゃうけどさー、でもやっぱりミカはボクちんの特別っ★」
「到着するなり、何を言っているんですか貴方は。無遠慮に触らないでください。せっかく綺麗におめかししていただいたんですから」
浮かれた口調で言いながら僕へ伸ばしてきたノヴァユエの手を、カミュが冷たく叩き落とす。緑の悪魔は気分を害した様子もなく、ヘラヘラと笑い続けていた。
「ノヴァユエ、こんにちは。褒めてくれてありがとう。カミュが作ってくれた衣装、素敵でしょ?」
「うん! カマルティユ先輩ってば、裁縫まで得意なんてほんと非が無さすぎるよねー★」
嬉しい言葉を掛けてくれたノヴァユエへ挨拶すると、彼は嬉しそうなニコニコ笑顔を返してくる。僕の隣に立つカミュは咳払いし、眉間に僅かな皺を刻む。……まぁ、ただの照れ隠しなんだろうけど。
「──ノヴァユエ。約束通りに来てくれたことに、まずは感謝しましょう。私たちが留守にしている間、ジル様のことをくれぐれも頼みましたよ。特別なお世話は必要ありませんが、様子がおかしくないか気をつけてさしあげていてください」
「りょーかいっ★ よろしくね~、プレカシオンの魔王っ☆」
「……ああ。すまないな、世話になる」
そう言って軽く頭を下げる魔王を、緑の悪魔は驚いたように凝視する。
「えっ!? なんだよ~、急に! 今までそんな畏まった感じじゃなかったじゃーん!」
「今回は特別だ。……場合によってはお前も危険な目に遭うかもしれないのに、それでもこうして協力してくれている。ましてや、他国の魔王のことなどノヴァユエにはどうでもいい存在のはずだ」
「……別に、お前のためじゃねぇし。ミカとカマルティユ先輩のためだし。……でも、別にお前のことも嫌いじゃねーけどさぁ」
もごもごと呟くノヴァユエの顔は、さっきのカミュみたいに照れ隠しと不機嫌が混在している表情だ。たぶん、照れ隠しの比重のほうがずっと大きいはず。
「お昼ごはんに、スープとサンドイッチとサラダ、あとはおやつにアップルパイ──って言ってもノヴァユエには分からないと思うけど、食べられるものを色々と用意してあるから、二人で一緒に食べてね」
食事係としてごはんとおやつに関することを伝えると、ノヴァユエの顔がパァッと輝く。
「ミカの作ったもん!? ボクも一緒に食べていいのっ!?」
「勿論だよ。温め直したりするのはジルがしてくれると思うし、一緒に楽しんで食べてね」
「わーいっ★ 嬉しいっ☆」
無邪気に笑うノヴァユエと、それを穏やかに見守るジル。そんな二人の姿を見て、カミュは少し安心したように柔らかな表情をしていた。本来であれば友好関係を築くことが難しいであろう彼らが一緒にいても問題無さそうな雰囲気を醸し出していることに安堵しているのだろうし、嬉しくもあるんだろう。その気持ちは、僕にもよく分かる。
今のこの光景は、ジルとカミュがそれぞれ魔王・悪魔としての役割よりも平和を望む自身の心を大事にしているからこそ、そして、僕やノヴァユエのような周りの者たちも彼らの在り方に感化されているからこそのものだ。
響き合い、重なり合って繋がっていく関係が、とても温かい。この優しい温度を、これからも守っていけたらいいと、心からそう願っている。
「……ミカさん、そろそろ参りましょうか」
「うん。……じゃあ、ジル、ノヴァユエ、行ってきます」
カミュに促され、出発の挨拶をする僕の両肩に、クックとポッポが乗ってきた。そして、留守番組の魔王と緑の悪魔は、柔らかな笑顔で頷いてくれる。
「ああ、気をつけて行ってこい。無事な帰りを待っている」
「こっちのことは気にしないで、楽しんできてねーっ★」
悪い方向の「もしも」を想定しているからこそ、ジルではなくカミュが僕に同行し、ノヴァユエがここにいるわけだけれども、誰もそのことに触れたりはしない。きっと大丈夫だと、そう信じているからこその、明るい挨拶だ。
これは、現実逃避なんかじゃない。
それほど強く、優しい未来を思い描いているからだ。
自分の心に言い聞かせるようにしつつ、ジルとノヴァユエをしっかりと見つめてから、僕はカミュの手を借りて馬車へと乗り込む。クックとポッポは着席した僕の膝へと舞い降り、励ましのドヤ顔を披露してくれた。
「では、ミカさん、参りますよ。貴方に直接ではなく、馬車に転移魔法を掛けるので安全だとは思いますが、もしも少しでも気分が優れなければ、到着後にすぐに仰ってください」
「うん、分かった。よろしくね、カミュ」
「お任せください。──では、目を閉じてくださいね」
カミュの言葉に従って、僕がぎゅっと目を瞑った。
----------------------------------------------------------------------
【おしらせ】
体調と仕事の関係で、毎日更新が厳しくなってきてしまい不定期更新になってしまっております。
でも、完結まできちんと書き上げる気持ちでおりますので、今後ものんびりとお付き合いいただけますと嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
「ミカ~★ よく似合ってるじゃん☆ そんな格好してるとさぁ、普通にこの世界の人間に見えちゃうけどさー、でもやっぱりミカはボクちんの特別っ★」
「到着するなり、何を言っているんですか貴方は。無遠慮に触らないでください。せっかく綺麗におめかししていただいたんですから」
浮かれた口調で言いながら僕へ伸ばしてきたノヴァユエの手を、カミュが冷たく叩き落とす。緑の悪魔は気分を害した様子もなく、ヘラヘラと笑い続けていた。
「ノヴァユエ、こんにちは。褒めてくれてありがとう。カミュが作ってくれた衣装、素敵でしょ?」
「うん! カマルティユ先輩ってば、裁縫まで得意なんてほんと非が無さすぎるよねー★」
嬉しい言葉を掛けてくれたノヴァユエへ挨拶すると、彼は嬉しそうなニコニコ笑顔を返してくる。僕の隣に立つカミュは咳払いし、眉間に僅かな皺を刻む。……まぁ、ただの照れ隠しなんだろうけど。
「──ノヴァユエ。約束通りに来てくれたことに、まずは感謝しましょう。私たちが留守にしている間、ジル様のことをくれぐれも頼みましたよ。特別なお世話は必要ありませんが、様子がおかしくないか気をつけてさしあげていてください」
「りょーかいっ★ よろしくね~、プレカシオンの魔王っ☆」
「……ああ。すまないな、世話になる」
そう言って軽く頭を下げる魔王を、緑の悪魔は驚いたように凝視する。
「えっ!? なんだよ~、急に! 今までそんな畏まった感じじゃなかったじゃーん!」
「今回は特別だ。……場合によってはお前も危険な目に遭うかもしれないのに、それでもこうして協力してくれている。ましてや、他国の魔王のことなどノヴァユエにはどうでもいい存在のはずだ」
「……別に、お前のためじゃねぇし。ミカとカマルティユ先輩のためだし。……でも、別にお前のことも嫌いじゃねーけどさぁ」
もごもごと呟くノヴァユエの顔は、さっきのカミュみたいに照れ隠しと不機嫌が混在している表情だ。たぶん、照れ隠しの比重のほうがずっと大きいはず。
「お昼ごはんに、スープとサンドイッチとサラダ、あとはおやつにアップルパイ──って言ってもノヴァユエには分からないと思うけど、食べられるものを色々と用意してあるから、二人で一緒に食べてね」
食事係としてごはんとおやつに関することを伝えると、ノヴァユエの顔がパァッと輝く。
「ミカの作ったもん!? ボクも一緒に食べていいのっ!?」
「勿論だよ。温め直したりするのはジルがしてくれると思うし、一緒に楽しんで食べてね」
「わーいっ★ 嬉しいっ☆」
無邪気に笑うノヴァユエと、それを穏やかに見守るジル。そんな二人の姿を見て、カミュは少し安心したように柔らかな表情をしていた。本来であれば友好関係を築くことが難しいであろう彼らが一緒にいても問題無さそうな雰囲気を醸し出していることに安堵しているのだろうし、嬉しくもあるんだろう。その気持ちは、僕にもよく分かる。
今のこの光景は、ジルとカミュがそれぞれ魔王・悪魔としての役割よりも平和を望む自身の心を大事にしているからこそ、そして、僕やノヴァユエのような周りの者たちも彼らの在り方に感化されているからこそのものだ。
響き合い、重なり合って繋がっていく関係が、とても温かい。この優しい温度を、これからも守っていけたらいいと、心からそう願っている。
「……ミカさん、そろそろ参りましょうか」
「うん。……じゃあ、ジル、ノヴァユエ、行ってきます」
カミュに促され、出発の挨拶をする僕の両肩に、クックとポッポが乗ってきた。そして、留守番組の魔王と緑の悪魔は、柔らかな笑顔で頷いてくれる。
「ああ、気をつけて行ってこい。無事な帰りを待っている」
「こっちのことは気にしないで、楽しんできてねーっ★」
悪い方向の「もしも」を想定しているからこそ、ジルではなくカミュが僕に同行し、ノヴァユエがここにいるわけだけれども、誰もそのことに触れたりはしない。きっと大丈夫だと、そう信じているからこその、明るい挨拶だ。
これは、現実逃避なんかじゃない。
それほど強く、優しい未来を思い描いているからだ。
自分の心に言い聞かせるようにしつつ、ジルとノヴァユエをしっかりと見つめてから、僕はカミュの手を借りて馬車へと乗り込む。クックとポッポは着席した僕の膝へと舞い降り、励ましのドヤ顔を披露してくれた。
「では、ミカさん、参りますよ。貴方に直接ではなく、馬車に転移魔法を掛けるので安全だとは思いますが、もしも少しでも気分が優れなければ、到着後にすぐに仰ってください」
「うん、分かった。よろしくね、カミュ」
「お任せください。──では、目を閉じてくださいね」
カミュの言葉に従って、僕がぎゅっと目を瞑った。
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【おしらせ】
体調と仕事の関係で、毎日更新が厳しくなってきてしまい不定期更新になってしまっております。
でも、完結まできちんと書き上げる気持ちでおりますので、今後ものんびりとお付き合いいただけますと嬉しいです。
よろしくお願いいたします。
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