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【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー
【10-8】
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「面倒くさい……というと……?」
オピテルさんがコテンと首を傾げると、カミュは小さく嘆息した。
「ノヴァユエは、ある意味ではとても悪魔らしいといいますか……、自分の領域に抱え込んでいると思い込んでいる対象へ手を出されることを非常に嫌っています。彼の厄介なところは、実際に『彼のもの』というわけではない対象へも、並々ならぬ執着を持っているところでして。私やセレーナも、その『対象』なのです」
オピテルさんはまだピンときてないみたいだけれど、僕は、そして恐らくはジルも、納得できている。夏に襲来した際のノヴァユエの様子を思い出せば、彼が身内に執着しているのはよく分かるし、かといってカミュがノヴァユエの管理下に置かれている存在ではないこともよく知っている。
「そのぉ、ノヴァユエさんは、『彼のもの』にちょっかいをかけた相手をどうされるのですかぁ? カミュさんが面倒とまで仰るので、なんだか怖いのですけどもぉ」
「無駄に怯えさせるつもりはないのですが……、まぁ、下手すると、貴方の命を狙いかねません。命までは奪わなくとも、暴力に訴える可能性は高いですし、大怪我をしてしまう恐れは十分に考えられます」
「あぁ……、暴力的な喧嘩は、ぼくたちは苦手ですからねぇ。一瞬でボコボコにされちゃいそうですぅ」
ふるふると震えているオピテルさんに、つい同情的な視線を向けてしまう。ふわふわなウサギ天使は、どう見ても戦闘能力は高くなさそうだ。ガチギレしているノヴァユエの暴れっぷりを知っている身としては、心配になってしまうのは当然だろう。
だけど、カミュはそんな僕の様子を見て、困ったように笑った。
「ミカさん。今、オピテル殿の身の危険を案じていらしたと思いますが、本当に危ないのはノヴァユエのほうなのですよ」
「えっ? そうなの……?」
「ええ。確かに、オピテル殿は腕力ではノヴァユエに敵わないでしょうし、お怪我をされる可能性もあります。──ですが、彼ら聖なる者は、魂を取り扱う方々です。必要があれば、相手の魂を抜き取ってしまうことが可能ですので。魔の者にとって『死』はあってないようなものですけれども、流石に魂を抜かれてしまっては『死んだ』と云わざるをえません」
つまり、ノヴァユエがオピテルさんを殺すことは不可能だけれど、逆は可能だということだ。勿論、ノヴァユエが暴れてオピテルさんが怪我をしたり痛い思いをするのは嫌だけど、でも、ノヴァユエが死んでしまうのも嫌だと思う。
「ぼくたちだって、好き好んで相手の魂を奪ったりなんてしないですぅ。ただ、防衛本能といいますかぁ、身の危険を感じてしまうと、どうしても無意識にそうしちゃうみたいなんですよねぇ」
「ええ、そうでしょうとも。聖なる者の方々が、自ら相手へ攻撃を加えたり死に至らしめるだなんて、考えるはずがありません。……ですが、躾が行き届いていないとはいえ、それでも魔の者の本能に従って行動していることには変わりない同胞が魂を喪いかねない展開は避けたいのです」
「えーっとぉ……、つまり……?」
「つまり、もしかしたらノヴァユエはセレーナの居場所を知っているかもしれませんし、そのノヴァユエの居場所を私は知っておりますが、それを貴方に教えることは避けたいというのが正直な気持ちです」
カミュの静かな言葉を受けたオピテルさんは、あからさまに肩を落としたりはしないけれども、残念そうに円らな瞳をしょぼしょぼさせている。
暫し続いた静寂を打ち破ったのは、黙って成り行きを見守っていたジルだった。
「──俺にはまだ、魔の者のことはよく分かっていないし、聖なる者に関しては、それ以上に未知数なんだが。魔の者を統べているのは『父』である創造主なんだろう? ノヴァユエを介さず、直接『父』に交渉することは出来ないのか?」
魔王の疑問を聞いて、美しい悪魔とウサギ天使は揃って首を振る。
「それは難しいですね。我らが『父』は、面会を好みません。我々『子どもたち』の前にも滅多に姿を現しませんし、対面を望んで呼び出すのもごく一部のお気に入りだけです。聖なる者の方とも、おそらくは、そちらの主様以外とは会わないでしょう」
「はいぃ、ぼくもそう思いますぅ。ぼくたちをまとめている『主』からも、魔の者の創造主様との接触は禁じられておりますしぃ。そもそも、そんな気軽にお会いできる方じゃないですしねぇ。……ノヴァユエさんに、こちらから丁寧にご挨拶に伺っても、セレーナさんについてお訊きするのは難しいでしょうかぁ?」
「ええ、おそらくは。──セレーナからノヴァユエに相談なり報告なりをした上で、あちらから接触を望んできたのなら、或いは上手くいくかもしれませんが。オピテル殿から接触を計ることはお勧めできません」
その後も、似たようなやり取りを言葉を変えながら何周かしたけれども、結局は、現時点でオピテルさん側から出来ることは無く、カミュが口を挟めるような状況でもなく、とりあえずはセレーナさんに動きがあるのを待つしかないのではという結論が出て、異種族だらけの話し合いは終了した。
セレーナさん側の何らかの情報を得たら教えてほしいというオピテルさんの頼みを快く受け入れたものの、カミュは暫くは何の動きも無いだろうと考えていたようだ。
そんな彼の予測が外れたと思い知ることになるのは、わずか翌日の出来事になるだなんて、今日の僕たちが知る由も無かった。
オピテルさんがコテンと首を傾げると、カミュは小さく嘆息した。
「ノヴァユエは、ある意味ではとても悪魔らしいといいますか……、自分の領域に抱え込んでいると思い込んでいる対象へ手を出されることを非常に嫌っています。彼の厄介なところは、実際に『彼のもの』というわけではない対象へも、並々ならぬ執着を持っているところでして。私やセレーナも、その『対象』なのです」
オピテルさんはまだピンときてないみたいだけれど、僕は、そして恐らくはジルも、納得できている。夏に襲来した際のノヴァユエの様子を思い出せば、彼が身内に執着しているのはよく分かるし、かといってカミュがノヴァユエの管理下に置かれている存在ではないこともよく知っている。
「そのぉ、ノヴァユエさんは、『彼のもの』にちょっかいをかけた相手をどうされるのですかぁ? カミュさんが面倒とまで仰るので、なんだか怖いのですけどもぉ」
「無駄に怯えさせるつもりはないのですが……、まぁ、下手すると、貴方の命を狙いかねません。命までは奪わなくとも、暴力に訴える可能性は高いですし、大怪我をしてしまう恐れは十分に考えられます」
「あぁ……、暴力的な喧嘩は、ぼくたちは苦手ですからねぇ。一瞬でボコボコにされちゃいそうですぅ」
ふるふると震えているオピテルさんに、つい同情的な視線を向けてしまう。ふわふわなウサギ天使は、どう見ても戦闘能力は高くなさそうだ。ガチギレしているノヴァユエの暴れっぷりを知っている身としては、心配になってしまうのは当然だろう。
だけど、カミュはそんな僕の様子を見て、困ったように笑った。
「ミカさん。今、オピテル殿の身の危険を案じていらしたと思いますが、本当に危ないのはノヴァユエのほうなのですよ」
「えっ? そうなの……?」
「ええ。確かに、オピテル殿は腕力ではノヴァユエに敵わないでしょうし、お怪我をされる可能性もあります。──ですが、彼ら聖なる者は、魂を取り扱う方々です。必要があれば、相手の魂を抜き取ってしまうことが可能ですので。魔の者にとって『死』はあってないようなものですけれども、流石に魂を抜かれてしまっては『死んだ』と云わざるをえません」
つまり、ノヴァユエがオピテルさんを殺すことは不可能だけれど、逆は可能だということだ。勿論、ノヴァユエが暴れてオピテルさんが怪我をしたり痛い思いをするのは嫌だけど、でも、ノヴァユエが死んでしまうのも嫌だと思う。
「ぼくたちだって、好き好んで相手の魂を奪ったりなんてしないですぅ。ただ、防衛本能といいますかぁ、身の危険を感じてしまうと、どうしても無意識にそうしちゃうみたいなんですよねぇ」
「ええ、そうでしょうとも。聖なる者の方々が、自ら相手へ攻撃を加えたり死に至らしめるだなんて、考えるはずがありません。……ですが、躾が行き届いていないとはいえ、それでも魔の者の本能に従って行動していることには変わりない同胞が魂を喪いかねない展開は避けたいのです」
「えーっとぉ……、つまり……?」
「つまり、もしかしたらノヴァユエはセレーナの居場所を知っているかもしれませんし、そのノヴァユエの居場所を私は知っておりますが、それを貴方に教えることは避けたいというのが正直な気持ちです」
カミュの静かな言葉を受けたオピテルさんは、あからさまに肩を落としたりはしないけれども、残念そうに円らな瞳をしょぼしょぼさせている。
暫し続いた静寂を打ち破ったのは、黙って成り行きを見守っていたジルだった。
「──俺にはまだ、魔の者のことはよく分かっていないし、聖なる者に関しては、それ以上に未知数なんだが。魔の者を統べているのは『父』である創造主なんだろう? ノヴァユエを介さず、直接『父』に交渉することは出来ないのか?」
魔王の疑問を聞いて、美しい悪魔とウサギ天使は揃って首を振る。
「それは難しいですね。我らが『父』は、面会を好みません。我々『子どもたち』の前にも滅多に姿を現しませんし、対面を望んで呼び出すのもごく一部のお気に入りだけです。聖なる者の方とも、おそらくは、そちらの主様以外とは会わないでしょう」
「はいぃ、ぼくもそう思いますぅ。ぼくたちをまとめている『主』からも、魔の者の創造主様との接触は禁じられておりますしぃ。そもそも、そんな気軽にお会いできる方じゃないですしねぇ。……ノヴァユエさんに、こちらから丁寧にご挨拶に伺っても、セレーナさんについてお訊きするのは難しいでしょうかぁ?」
「ええ、おそらくは。──セレーナからノヴァユエに相談なり報告なりをした上で、あちらから接触を望んできたのなら、或いは上手くいくかもしれませんが。オピテル殿から接触を計ることはお勧めできません」
その後も、似たようなやり取りを言葉を変えながら何周かしたけれども、結局は、現時点でオピテルさん側から出来ることは無く、カミュが口を挟めるような状況でもなく、とりあえずはセレーナさんに動きがあるのを待つしかないのではという結論が出て、異種族だらけの話し合いは終了した。
セレーナさん側の何らかの情報を得たら教えてほしいというオピテルさんの頼みを快く受け入れたものの、カミュは暫くは何の動きも無いだろうと考えていたようだ。
そんな彼の予測が外れたと思い知ることになるのは、わずか翌日の出来事になるだなんて、今日の僕たちが知る由も無かった。
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