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【第8話】優しさが溶け込むフルーツフラッペ
【8-13】
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「はぁ……?」
マレシスカが語る内容を聞き、ジルベールは首を傾げる。
そもそも、魔の者には生殖能力が無いため、カマルティユが自身の子孫をもつことは無いのだが、それはジルベールがわざわざ明言すべきことではない。明かすとしても、カマルティユ自身が話すべきことだ。
だからといって、当然ながらジルベールの子どもなどいるはずがない。嘘でも何でもなく、まったく身に覚えが無いのだから。
そうなると、その水色の髪の子どもの父親だという「凄まじい魔力を持つ男」は何者なのか。魔力の保有量や強度にはかなり個人差があり、微弱な者も強大な者もそれなりに多くいるだろう。
ただ、わざわざ魔力が凄いと主張されるということは、並大抵のものではないはずだ。この世界の人間にとっての常識を尺度にするならば、相当な凄まじさを持ち合わせていなければ魔力は誇れない。魔力は持っているのが当然であり、それが弱ければ肩身が狭い思いをするが、多少強かろうが長所として言い触らせるものでもないのだ。
「その子どもが、誇張して言っているわけではなさそうか?」
「絶対ちがうと思う。だって、ちっちゃいのに大人びてて、しっかりして落ち着いた感じの子だったもん。嘘つきのクソガキって感じはぜんぜんしなかったわ。お父さんのことで本当に困っているみたいで、可哀想だった」
「……認知されていないということは、父親は同族の者ではなさそうだな」
「一緒に暮らしたことは無さそうよ。母親だって、その父親から随分と放置されていたみたいだし」
「大体、お前はどこでその子どもを知ったんだ? この近辺の森の中か?」
「そうよ。ここに来る途中の森の中で、一人ぼっちでいるのを見つけたから馬車を止めて声を掛けたの」
「そうか……、では、やはり、父親ではなく母親が湖畔の一族の者で、父親は金眼を持つ余所者という可能性が高そうだな」
「そうなの?」
ジルベールが出した結論を聞き、マレシスカはきょとんとした顔で小首を傾げる。魔王は物憂げな溜息を零し、自身の考えを説明した。
「湖畔の一族の者は、その名の通り、この近くの湖畔のほとりに住み、他の土地にはよっぽどの理由が無ければ行かない。母親と子どもがこの近辺で暮らしていて、父親がずっと不在ならば、母親が湖畔の一族の者で、父親が余所者の可能性が高い。そして、湖畔の一族の者は皆、青い目をしている。その子どもの金色の瞳は、父親側の血統から遺伝したものだろう」
「はー……なるほどねー……、それなら確かに、ジルが父親じゃないわね! ジルの目は黒いもの!」
「……」
元々は黒眼ではなく緑色だったと反論しようとしたジルベールだが、いずれにせよ金の瞳とは関係ないと思い直し、言葉の代わりに溜息を吐き出す。そして、気を取り直して唇を開いた。
「しかし……、なんだってその男は我が子を認めようとしないのか。普通は可愛く思うだろうに」
その呟きは、見ず知らずの水色髪の少年に対してだけではなく、無意識のうちにミカも含めて考えてのものだった。
ミカもまた、父に捨てられ、母にも見捨てられ、遠縁の男に引き取られた経緯の持ち主である。両親から愛されて育ったジルベールにとって、子の存在を認めなかったり捨てたりする者の心情は理解不能だった。
もう成人しているとはいえ、それでも日々成長しているミカの姿は、ジルベールにとって、とても可愛らしいものだ。それが幼い頃であるなら、尚更そうに違いない。ミカを引き取った「おじさん」は随分と彼を可愛がったようだが、その気持ちが痛いほど分かる。
血の繋がりが無くとも、そう思うのだ。それが我が子ともなれば、何より大事な存在になるだろうに。何故、疎んだりするのか。
「……その子どもは、母からはきちんと愛情を受けているのか?」
見ず知らずの子どもにミカの過去を重ねてしまったジルベールは、思わずそう尋ねていた。そろそろ雑談を切り上げてミカの食事を作ろうと促したかったのだが、不憫な幼子が気になって仕方がない。
「どうかしら……、それもなんだか怪しい感じだったわね……」
「発育状態は? 不自然な外傷があったり、妙に目が虚ろだったりはしていないか?」
「そういうのは無さそうだったし、その子自身も母親を憎んだりはしていなさそうだったわ。ただ、困っているというか……」
ミカだって、周りの者を恨んだりはしていなかった。両親に対しても、他の人間に対しても、ただただ諦めていただけだ。水色髪の少年がますますミカに近いものに感じて密かに動揺している魔王の耳に、更に衝撃的な一言が届けられた。
「もしかしたら、あの子──魔物に育てられているのかも」
「……は? 魔物?」
「うん、魔物を従えていたというか、魔物に守られていたというか……、大型じゃなくてちっちゃいやつだったけど、魔物が何匹か、その子に懐いていたの。それもあって、ジルの隠し子なんじゃないかと思ったのよ」
マレシスカが語る内容を聞き、ジルベールは首を傾げる。
そもそも、魔の者には生殖能力が無いため、カマルティユが自身の子孫をもつことは無いのだが、それはジルベールがわざわざ明言すべきことではない。明かすとしても、カマルティユ自身が話すべきことだ。
だからといって、当然ながらジルベールの子どもなどいるはずがない。嘘でも何でもなく、まったく身に覚えが無いのだから。
そうなると、その水色の髪の子どもの父親だという「凄まじい魔力を持つ男」は何者なのか。魔力の保有量や強度にはかなり個人差があり、微弱な者も強大な者もそれなりに多くいるだろう。
ただ、わざわざ魔力が凄いと主張されるということは、並大抵のものではないはずだ。この世界の人間にとっての常識を尺度にするならば、相当な凄まじさを持ち合わせていなければ魔力は誇れない。魔力は持っているのが当然であり、それが弱ければ肩身が狭い思いをするが、多少強かろうが長所として言い触らせるものでもないのだ。
「その子どもが、誇張して言っているわけではなさそうか?」
「絶対ちがうと思う。だって、ちっちゃいのに大人びてて、しっかりして落ち着いた感じの子だったもん。嘘つきのクソガキって感じはぜんぜんしなかったわ。お父さんのことで本当に困っているみたいで、可哀想だった」
「……認知されていないということは、父親は同族の者ではなさそうだな」
「一緒に暮らしたことは無さそうよ。母親だって、その父親から随分と放置されていたみたいだし」
「大体、お前はどこでその子どもを知ったんだ? この近辺の森の中か?」
「そうよ。ここに来る途中の森の中で、一人ぼっちでいるのを見つけたから馬車を止めて声を掛けたの」
「そうか……、では、やはり、父親ではなく母親が湖畔の一族の者で、父親は金眼を持つ余所者という可能性が高そうだな」
「そうなの?」
ジルベールが出した結論を聞き、マレシスカはきょとんとした顔で小首を傾げる。魔王は物憂げな溜息を零し、自身の考えを説明した。
「湖畔の一族の者は、その名の通り、この近くの湖畔のほとりに住み、他の土地にはよっぽどの理由が無ければ行かない。母親と子どもがこの近辺で暮らしていて、父親がずっと不在ならば、母親が湖畔の一族の者で、父親が余所者の可能性が高い。そして、湖畔の一族の者は皆、青い目をしている。その子どもの金色の瞳は、父親側の血統から遺伝したものだろう」
「はー……なるほどねー……、それなら確かに、ジルが父親じゃないわね! ジルの目は黒いもの!」
「……」
元々は黒眼ではなく緑色だったと反論しようとしたジルベールだが、いずれにせよ金の瞳とは関係ないと思い直し、言葉の代わりに溜息を吐き出す。そして、気を取り直して唇を開いた。
「しかし……、なんだってその男は我が子を認めようとしないのか。普通は可愛く思うだろうに」
その呟きは、見ず知らずの水色髪の少年に対してだけではなく、無意識のうちにミカも含めて考えてのものだった。
ミカもまた、父に捨てられ、母にも見捨てられ、遠縁の男に引き取られた経緯の持ち主である。両親から愛されて育ったジルベールにとって、子の存在を認めなかったり捨てたりする者の心情は理解不能だった。
もう成人しているとはいえ、それでも日々成長しているミカの姿は、ジルベールにとって、とても可愛らしいものだ。それが幼い頃であるなら、尚更そうに違いない。ミカを引き取った「おじさん」は随分と彼を可愛がったようだが、その気持ちが痛いほど分かる。
血の繋がりが無くとも、そう思うのだ。それが我が子ともなれば、何より大事な存在になるだろうに。何故、疎んだりするのか。
「……その子どもは、母からはきちんと愛情を受けているのか?」
見ず知らずの子どもにミカの過去を重ねてしまったジルベールは、思わずそう尋ねていた。そろそろ雑談を切り上げてミカの食事を作ろうと促したかったのだが、不憫な幼子が気になって仕方がない。
「どうかしら……、それもなんだか怪しい感じだったわね……」
「発育状態は? 不自然な外傷があったり、妙に目が虚ろだったりはしていないか?」
「そういうのは無さそうだったし、その子自身も母親を憎んだりはしていなさそうだったわ。ただ、困っているというか……」
ミカだって、周りの者を恨んだりはしていなかった。両親に対しても、他の人間に対しても、ただただ諦めていただけだ。水色髪の少年がますますミカに近いものに感じて密かに動揺している魔王の耳に、更に衝撃的な一言が届けられた。
「もしかしたら、あの子──魔物に育てられているのかも」
「……は? 魔物?」
「うん、魔物を従えていたというか、魔物に守られていたというか……、大型じゃなくてちっちゃいやつだったけど、魔物が何匹か、その子に懐いていたの。それもあって、ジルの隠し子なんじゃないかと思ったのよ」
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