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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ
【7-19】
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「ノヴァユエに、居残って一緒にごはんを食べて良かった、って思ってもらえるように、頑張って作るね」
そう言って悪魔たちに笑いかけてから、僕は調理に取り掛かる。といっても、要であるピザ生地は鮮度を保つ魔法を掛けてもらって作り置きしたものがあるし、大した作業は無いのだけど。
「生地に具材を載せるときに、ノヴァユエたちにも手伝ってもらうけど、その前の下拵えは僕がやっちゃうね」
カミュは分かっているだろうけど、ノヴァユエのために一言断りを入れてから、僕は手頃な籠を持って保存箱へ近付き、生地や夏野菜やスモークチキン的な鳥肉を取り出してゆく。
量が多いときにはカミュが魔法で取って調理台へ置いてくれたりするけれど、ピザのトッピング用に何種類もちまちまと必要になる今回のような場合は、指示を出すより僕がやってしまったほうが早いんだ。
選び出した野菜を水で洗い、もうすっかり使い慣れた包丁で細かく刻み始めると、一連の流れをジッと見つめていた緑の悪魔が不思議そうに首を傾げた。
「あのさぁ、材料を洗ったり、切ったりするのなんてさー、カマルティユ先輩にやってもらえばよくない? こんな形でーって言えば、特級悪魔なら目隠しして全種類並行してでも余裕で刻めちゃうけど」
「ふふっ、そうだね。カミュなら、簡単にやっちゃうと思うよ。僕がやるより早いだろうしね」
「でしょー? なんでー?」
「だって、僕が食事係なんだから。僕が手を掛けないと、僕が作った料理にはならないでしょ? 僕が作ったものを振る舞いたい、っていう僕のこだわりなんだ」
僕は、電動式の調理器具やレトルト食品・冷凍食品などを否定するつもりは全く無いし、それらを使ったとしても、自身が作りあげたものなら十分立派な「その人の料理」になると考えている。
でも、カミュの魔法は違う。彼自身の力を使ってもらうのだから、材料を洗って切って焼いたり炒めたり盛り付けたり──そういうこと全てをカミュの魔法に頼ってしまうと、それはカミュの料理になってしまうと思うんだ。僕が指示を出しているとしても、それはレシピ代わりにしかならない。
「うっわ……、ミカって、そんな細けぇことをグチグチ考えてんの? 出来上がるものが同じなら、過程とかどーでもよくね?」
うんざりした顔でそう零すノヴァユエに対し、カミュはゆるゆると首を振った。
「まったく同じにはなりませんよ。たとえ、全く同じ調理過程や形や味や出来映えにしてみたとしても、ミカさん自身の手で作られたものと、私の魔法を駆使したものとでは、全然別物です」
「はぁぁ? わっかんねぇなぁ……、そう思ってんのってミカと先輩だけじゃね?」
「少なくとも、あと二人の賛同者がいらっしゃいますよ。ジル様と、マリオさんです」
「マリオ?」
「ミカさんの前任者ですよ。とても明るくて優しい方でした」
「偏屈ばあさんとミカの間にいた食事係ってことか★ そいつもミカと同じこと言ってたの? そいつの話も聞きたーい!」
「えっ? でも、貴方はミカさんの質問に答えるために残ったのですから、そろそろミカさんのお話を聞かないと……」
カミュが窘めるように言うと、ノヴァユエは唇を尖らせながらも反論せず、素直にこくりと頷いている。約束を守ることに誇りを持っているらしい魔の者として、ノヴァユエは納得したのだろう。
……でも、なんだか可哀想だ。せっかく人間に興味を持ってくれたのだから、もっと知ってほしい。それに、マリオさんの話なら、僕も興味がある。
「カミュ。僕が訊きたいことに関しては、石窯を温めている間にでも聞かせてもらうよ。だから、今はマリオさんについて聞かせてくれない?」
「ミカさん、ノヴァユエを甘やかす必要は、」
「ううん、僕が聞きたいんだ。ノヴァユエも興味を持ってくれて嬉しいけど、それ以上に、僕がマリオさんの話を聞かせてほしいんだよ」
「ああ、もう、ミカさん……、貴方はお人好しすぎます。それに、貴方にそう言われてしまっては、私は反対できないじゃないですか」
頭を抱える赤い悪魔を尻目に、緑の悪魔はにんまりと笑って僕に抱きついてきた。
「ミカがいいって言ってくれてるんだから、反対する必要ないじゃん★ ミカ、安心してねっ☆ 後でちゃんとミカの質問にも答えるからねっ★」
「うん、よろしくね」
「はぁ……、まぁ、ミカさんも興味を持ってくださっているようですし、ノヴァユエも珍しく人間に関心を抱いているようですし、マリオさんのことを少しお話ししましょうか」
「ありがとう、カミュ」
最終的に折れてくれたカミュにお礼を言って、僕は再び包丁を握る。そして具材を切り始めると、そのトントンという音に耳を傾けつつ、カミュが穏やかに話し始めた。
「マリオさんが此処にいらしたとき、あの方は四十代半ばほどの年齢でした。とにかく陽気な方で、よく笑い、よく歌い、よく踊り、よく食べる人でしたね。元の世界に未練が無いわけではなかったようですが、召喚した直後、この城の食事係になっていただきたいのだとお話しすると、『君たちに美味しいごはんを作るのが第二の人生での仕事だって!? なんて最高なんだ!』と叫んで唐突に歌い出されたので、私もジル様も驚いて言葉を失ったものです。懐かしい思い出ですね」
そう言って悪魔たちに笑いかけてから、僕は調理に取り掛かる。といっても、要であるピザ生地は鮮度を保つ魔法を掛けてもらって作り置きしたものがあるし、大した作業は無いのだけど。
「生地に具材を載せるときに、ノヴァユエたちにも手伝ってもらうけど、その前の下拵えは僕がやっちゃうね」
カミュは分かっているだろうけど、ノヴァユエのために一言断りを入れてから、僕は手頃な籠を持って保存箱へ近付き、生地や夏野菜やスモークチキン的な鳥肉を取り出してゆく。
量が多いときにはカミュが魔法で取って調理台へ置いてくれたりするけれど、ピザのトッピング用に何種類もちまちまと必要になる今回のような場合は、指示を出すより僕がやってしまったほうが早いんだ。
選び出した野菜を水で洗い、もうすっかり使い慣れた包丁で細かく刻み始めると、一連の流れをジッと見つめていた緑の悪魔が不思議そうに首を傾げた。
「あのさぁ、材料を洗ったり、切ったりするのなんてさー、カマルティユ先輩にやってもらえばよくない? こんな形でーって言えば、特級悪魔なら目隠しして全種類並行してでも余裕で刻めちゃうけど」
「ふふっ、そうだね。カミュなら、簡単にやっちゃうと思うよ。僕がやるより早いだろうしね」
「でしょー? なんでー?」
「だって、僕が食事係なんだから。僕が手を掛けないと、僕が作った料理にはならないでしょ? 僕が作ったものを振る舞いたい、っていう僕のこだわりなんだ」
僕は、電動式の調理器具やレトルト食品・冷凍食品などを否定するつもりは全く無いし、それらを使ったとしても、自身が作りあげたものなら十分立派な「その人の料理」になると考えている。
でも、カミュの魔法は違う。彼自身の力を使ってもらうのだから、材料を洗って切って焼いたり炒めたり盛り付けたり──そういうこと全てをカミュの魔法に頼ってしまうと、それはカミュの料理になってしまうと思うんだ。僕が指示を出しているとしても、それはレシピ代わりにしかならない。
「うっわ……、ミカって、そんな細けぇことをグチグチ考えてんの? 出来上がるものが同じなら、過程とかどーでもよくね?」
うんざりした顔でそう零すノヴァユエに対し、カミュはゆるゆると首を振った。
「まったく同じにはなりませんよ。たとえ、全く同じ調理過程や形や味や出来映えにしてみたとしても、ミカさん自身の手で作られたものと、私の魔法を駆使したものとでは、全然別物です」
「はぁぁ? わっかんねぇなぁ……、そう思ってんのってミカと先輩だけじゃね?」
「少なくとも、あと二人の賛同者がいらっしゃいますよ。ジル様と、マリオさんです」
「マリオ?」
「ミカさんの前任者ですよ。とても明るくて優しい方でした」
「偏屈ばあさんとミカの間にいた食事係ってことか★ そいつもミカと同じこと言ってたの? そいつの話も聞きたーい!」
「えっ? でも、貴方はミカさんの質問に答えるために残ったのですから、そろそろミカさんのお話を聞かないと……」
カミュが窘めるように言うと、ノヴァユエは唇を尖らせながらも反論せず、素直にこくりと頷いている。約束を守ることに誇りを持っているらしい魔の者として、ノヴァユエは納得したのだろう。
……でも、なんだか可哀想だ。せっかく人間に興味を持ってくれたのだから、もっと知ってほしい。それに、マリオさんの話なら、僕も興味がある。
「カミュ。僕が訊きたいことに関しては、石窯を温めている間にでも聞かせてもらうよ。だから、今はマリオさんについて聞かせてくれない?」
「ミカさん、ノヴァユエを甘やかす必要は、」
「ううん、僕が聞きたいんだ。ノヴァユエも興味を持ってくれて嬉しいけど、それ以上に、僕がマリオさんの話を聞かせてほしいんだよ」
「ああ、もう、ミカさん……、貴方はお人好しすぎます。それに、貴方にそう言われてしまっては、私は反対できないじゃないですか」
頭を抱える赤い悪魔を尻目に、緑の悪魔はにんまりと笑って僕に抱きついてきた。
「ミカがいいって言ってくれてるんだから、反対する必要ないじゃん★ ミカ、安心してねっ☆ 後でちゃんとミカの質問にも答えるからねっ★」
「うん、よろしくね」
「はぁ……、まぁ、ミカさんも興味を持ってくださっているようですし、ノヴァユエも珍しく人間に関心を抱いているようですし、マリオさんのことを少しお話ししましょうか」
「ありがとう、カミュ」
最終的に折れてくれたカミュにお礼を言って、僕は再び包丁を握る。そして具材を切り始めると、そのトントンという音に耳を傾けつつ、カミュが穏やかに話し始めた。
「マリオさんが此処にいらしたとき、あの方は四十代半ばほどの年齢でした。とにかく陽気な方で、よく笑い、よく歌い、よく踊り、よく食べる人でしたね。元の世界に未練が無いわけではなかったようですが、召喚した直後、この城の食事係になっていただきたいのだとお話しすると、『君たちに美味しいごはんを作るのが第二の人生での仕事だって!? なんて最高なんだ!』と叫んで唐突に歌い出されたので、私もジル様も驚いて言葉を失ったものです。懐かしい思い出ですね」
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