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【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-12】

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「カミュがジルを殺すなんて、そんな……」
「ありえないとは言い切れないんじゃない? ──だって、今のプレカシオン王国の魔王は様子がおかしい。今の代の魔王になってから、カマルティユ先輩の様子もおかしい。まぁ、正確に言えば、先代の魔王が殺されるちょっと前からだけど★ つまり、ボクがワンダネロンドの魔王のお目付け役になってすぐ、カマルティユ先輩はおかしくなったからさ☆ 最初はボクが何かしたのかと思ったんだけどー、そうじゃないよね★」

 揶揄を含んだ軽い笑顔を見せたノヴァユエだけど、すぐにそれを引っ込めて真顔に戻る。

「今の魔王は、人間を殺したがらない。魔王であることを謳歌することを望まない。その影響を受けて、カマルティユ先輩も人間を護る側の動きをしてる。──そーやって考えればさ、ひとつの予測を立てられるじゃん」
「……カミュが、ジルを、……暴走化する前に?」
「そーゆーことっ★ ……暴走しちゃえば、人間を殺して回るのを自分の意思で止めることは出来ない。可愛がってるミカのことも、真っ先に殺しちゃうもん。魔王は耐えられないっしょ?んで。そんな魔王の望みなんか無視して任務遂行すりゃいいけど、今の先輩にそれは難しいと思うよ。だって、カマルティユ先輩自身が人間を可愛いと思っちゃってんだもん」

 ──ああ、そうか。そういうことだったんだ。前から感じていた嫌な予感と、ジルとカミュの歯切れの悪い応答と、ノヴァユエの懸念が、ひとつに繋がっていく。

 マティ様がジルを解放できる方法を見つけられなかったとき、ジルはカミュに自分を殺すように頼んでいるのだろう。暴走する前に魂ごと殺してくれと。そして、特級悪魔であるカミュにはそれが可能なんだ。
 ただ、その場合、カミュは何らかの罰を受けて殺されてしまう。そして、その罰は、結局はこの世界もしくは他の星々の人間たちを危険に晒すんだ。でも、その影響は魔の?と聖なる者が戦争を起こすほどではない規模のもので、だからこそ、現在の七人の魔王システムも継続されてきたんだろう。

「何か、良い方法は無いのかな……。ジルが魔王の魂から解放されて、カミュも罰を受けることなく、この星の人たちも傷つかなくなる方法が……」
「さぁ? 無いんじゃね?」

 ノヴァユエはあっさりと即答した。それは嫌味でも皮肉でも挑発でもなく、心底からそう考えているという答え方だ。僕は思わず肩を落としてしまう。
 そんな僕を真正面から見つめて、ノヴァユエは獣のように低く、そして長く唸り始めた。何事かと思いきや、どうやら何か考えていたらしい。しばらく唸った後に思いついたことがあったのか、緑の悪魔は舌をペロリと出して笑いながら手を叩く。

「うん、やっぱ無理★ この星の人間まるごと助けるとか、七人の魔王全員をどうこうするとかは、誰がやっても絶対無理☆」
「あ、うん……、そ、そうだよね」
「だけど、場合によっちゃ、この魔王だけならどうにかなんじゃね? あと、カマルティユ先輩も★ 人間のことはどーでもいいけど、ミカもどーにかなるかも?」
「ほんとっ? どうしたらいいのかな?」
「具体的な方法は分かんねー★」
「え、……そ、そうなんだ……」

 緑の悪魔が見出した希望に縋り付きたくて前のめりになった身体を元の姿勢に戻すと、ノヴァユエはへらへらと笑った。

「具体的な方法は分かんねぇけど、理論なら分かるよーん★」
「……えっ?」
「要はさ、カマルティユ先輩はただの傍観者の状態で、魔王が完全に暴走する前に倒せる奴が倒して、敗北した肉体を離れようとする魔王の魂の欠片を封印できる奴が封印すればいいんだよ★」
「……、……ちなみに、その倒せそうな人とか封印できそうな人に心当たりは……?」
「あるわけねーじゃん」
「ですよねー……」
「そもそも、欠片とはいえ元特級悪魔の魂を封印できる魔法があるとは思えねぇし、そんな魔法があったところで、そんなのブチかませるほどの魔力を持った人間がいるとも思えねぇかな★ 大賢者とかでも無理じゃね?」

 無邪気に笑うノヴァユエから、視線をそっとジルへと向けてみる。魔王は物憂げな表情ではあるものの、それは通常運転の面持ちだ。今の話に衝撃を受けた様子は無く、もしかしたら同じような考え方でマティ様も研究を進めているのかもしれない。カミュの様子を窺うと、彼は美しい顔に哀しみを湛えているようだった。
 家族の心情を心配していると、正面からノヴァユエの手が伸びてきて、おもむろに手首を掴まれる。そして、緑の悪魔はこてんと首を傾げた。

「ねー、ねー、やっぱりさー、ミカも魔王に殺されるのってイヤ? 怖い?」
「うーん……、殺されるのが怖くないって言ったら嘘になるけど、それより、僕を殺した後でもしもジルが正気に戻ったら悲しむだろうなって、傍で見ているカミュも悲しむだろうなって、そっちのほうが嫌かなぁ」

 素直な気持ちを打ち明けたら、緑と赤と黒の三対の瞳が驚いたように見つめてきた。
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