上 下
138 / 246
【第7話】悪魔をもてなす夏野菜たっぷり辛口ピッツァ

【7-4】

しおりを挟む
「つまり、秋の感謝祭であれば、マティアスが連れ歩いている相手は恋人だの愛人だのと思われて、そう勘違いした周囲が気を利かせてそっとしておいてもらえるだろう、ということだ」

 面倒くさそうに吐き出されたジルの言葉を聞き、驚いてしまう。いくらローブを着ているといっても、僕が男だということはバレちゃう可能性も──、ああ、いや、そういえば、この世界では性別はそんなに大事じゃないんだっけ。同性同士の結婚も珍しいものではないと、キカさんから前に聞いたことがある。
 ……いや、王子様が男の恋人と逢引していること自体が問題無かったとしても、そもそも、そういう相手がいるってこと自体がまずかったりしないか?

「──マティ様には、本当の恋人はいないんですか? もし、他の誰かと逢引しているなんて知れたら……、」
「私には、そういった相手はいない。感謝祭までに誰かと恋仲になる可能性も無いし、生涯未婚のままである予定だから、全く問題ない」
「そ、そうなんですか……」

 あまりにもキッパリと言い切られてしまうと、それ以上、突っ込んで訊くことは憚られてしまう。マティ様にも何かポリシーがあるのかもしれないし、プライバシーを詮索する必要もない。マティ様が恋人らしい存在を連れ歩いていても問題が無いというのなら、次の問題点を考えるべきだ。

「ジル。そのお祭りの時に僕が王都へ行くのは、そうじゃない時と比べたら安全なのかな?」
「うぅん……、まぁ、何も無い時期に王都を訪れてマティアスに連れられているよりはマシか。祭りを見物しているマティアスには厳重に護衛がつけられるはずだし、人が多ければ魔鳥が飛んでいてもそんなに目立たない。他の魔鳥も色々と飛んでいるだろうしな。祭りの間、少しだけということであれば、俺が付き添えないこともない。黒の外衣を身に着ければ、この角も隠せるだろうからな」

 そう言って、ジルは銀色の角をそっと撫でた。魔王化の証として、黒髪黒眼になるというものがあるけれど、この世界でもサリハさんのように元々その色を持って生まれた人もいる。それでも、角が生える人物は魔王以外にいない。角を隠した状態でウロウロしていても怪しまれないというのは、ジル的にも重要なポイントなんだろう。

「ミカがマティアスの逢引相手、俺はミカの護衛役ということであれば、マティアスへ受け渡すまで俺が付いていても、ミカが戻ってくるまで近場で待機していても問題ない。ミカに何かあっても、俺・クック・ポッポが傍にいれば対処できるはずだ」
「じゃあ、マティ様に協力できそう? ……あ、でも、ジルが城を空けちゃうことになるのか。それはまずいよね」
「いや……、感謝祭が開催されているときにわざわざ魔王の城を訪れる者はいないだろうし、カミュを留守番させておけば、何かあっても即座に戻って対応できる」
「じゃあ……」
「ああ。協力できなくはない。──それまで、俺たちが健康であればな」

 ジルが静かに添えた一言に、心臓をチクリと刺されたような気がした。彼は「健康」と表現していたけれど、それはつまり「生存」ということだ。以前、マティ様自身が指摘していたように、ジルの中の魔王の魂の欠片がいつ暴走するのかという懸念は、日々つきまとっているのだから。

「──秋が訪れたら、一度、賢者を連れて来る予定だ」
「賢者を? ……何か進展があったのか」
「あるにはあったが、まだ明るい展望の域には達していない。どちらにせよ、一度、ジルに説明をしに行きたいと申していたゆえ、連れて来よう」
「分かった」

 賢者って、確か、国中を探してもそんなに存在しない凄腕の魔法使いだよね。大魔法使いの、更に上で──呪文の詠唱も杖も必要無い凄い人、って感じだったはず。その賢者も、魔王を助ける方法を探っているマティ様の協力者なのだろうか。

「ミカには世話を掛けたり頼みごとをしたりと、面倒を言ってばかりですまないな」
「いいえ、そんなことないです! むしろ、僕のほうこそ色々と気に掛けていただいていて……、何かお手伝いできることは、何でもお力になりたいです。魔力が無いということも、カイ様のお役に立てるなら嬉しいですし」
「そうか。そう言ってもらえるのは、ありがたい。感謝する。……そして、ミカは以前よりも良い顔をするようになったな」
「……良い顔、ですか?」

 思わず首を傾げると、銀髪の王子様はわずかながらも柔和な微笑を浮かべて頷いた。

「瞳が生き生きとしていて、笑い方にも活力がある。ここでの生活にもだいぶ慣れて、ジルやカミュとも良い関係を築けているのだろう」
「はい、おかげさまで。……あと、クックとポッポとも」
「クッ!」
「ポッ!」

 大切な家族として忘れてはならない愛鳥たちの名を並べると、彼らは得意気にドヤ顔を披露しつつ高らかに鳴く。そんな僕たちの姿を見て、マティ様は優しく目を細めた。

「そうか。それは良いことだ。……これからも、どうか健やかに。感謝祭までも、その後も」

 僕たちの無事を心底願ってくれるマティ様に同調するように、ジルも深く頷く。ここにいないカミュもきっと同じ気持ちだろうから、彼の分も合わせる気持ちで、僕も力強く頷きを返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で作ろう!夢の快適空間in亜空間ワールド

風と空
ファンタジー
並行して存在する異世界と地球が衝突した!創造神の計らいで一瞬の揺らぎで収まった筈なのに、運悪く巻き込まれた男が一人存在した。 「俺何でここに……?」「え?身体小さくなってるし、なんだコレ……?[亜空間ワールド]って……?」 身体が若返った男が異世界を冒険しつつ、亜空間ワールドを育てるほのぼのストーリー。時折戦闘描写あり。亜空間ホテルに続き、亜空間シリーズとして書かせて頂いています。採取や冒険、旅行に成長物がお好きな方は是非お寄りになってみてください。 毎日更新(予定)の為、感想欄の返信はかなり遅いか無いかもしれない事をご了承下さい。 また更新時間は不定期です。 カクヨム、小説家になろうにも同時更新中

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

処理中です...