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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-12】
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「もうすぐカミュが来るはずだから、そしたらサリハさんたちの分のお茶とお菓子を渡して、僕たちもお茶にしようね」
そう言いながら、そっと手を離したとき、遠くから翼が羽ばたく音が聞こえてくる。クックとポッポは近くの棚の上から僕たちを観察しているし、この羽音の主は一人しか思い浮かばない。──カミュだ。
そう思い至ったとき、調理場の前で翼の音は鳴り止み、静かにドアが開かれた。そこには、予想通りカミュが立っている。
「おや。フィラスさんも、こちらにおいででしたか」
「ああ。ミカの手際の良さと懐の深さに、感銘を受けていたところなのだ」
「だ、だから、そんな大げさな……!」
「そうでしょう、そうでしょう。ジル様は本当に食事係に恵まれていらっしゃいます。ミカさんも、とても素敵な人でしょう?」
「ああ、素晴らしい!」
「素晴らしいですよね」
「我が心の友は、とても、とても素晴らしい!」
「二人とも、やめてよ……!」
褒められ慣れていないから、頬が火照ってしまう。きっと真っ赤になっているだろう僕を、カミュもフィラスもにこやかに見つめてくる。からかわれているような気がしてならない。
ひとつ咳払いをして気を取り直し、僕はカミュにトレーを手渡した。トレーの上には、カボ茶をミルク割りにして冷やしたものを詰めたポット、カップを二つ、ホールサイズのシフォンケーキを載せた大皿、取り皿とフォークとナイフを二セット、給仕用の大きめのナイフ、生クリームをたっぷりと入れた小ボールなどが並んでいる。
「ありがとうございます。シホンケェクィ、相変わらずとても美味しそうですね」
シフォンケーキを上手く発音できないカミュは、ニコニコと満面の笑みを浮かべながらトレーを受け取った。
「カミュの分も、ちゃんと用意してあるからね。お給仕が終わったら食べてくれると嬉しいな」
「こちらこそ、喜んで! そんなに幸せなご褒美がいただけるのなら、それに見合った働きをしなければ。サリハ様のお世話はきちんといたしますから、フィラスさんもミカさんとお菓子で長旅の疲れを癒してくださいね」
「お心遣い感謝する、カミュ殿」
きっちりとした姿勢で一礼するフィラスを微笑ましげに眺めてから、カミュは「行ってまいります」と言い残して退室してゆく。主と客人を待たせているからか、再び飛行して行ったようで、羽音が遠ざかっていった。
「さて……、じゃあ、僕たちもお茶にしようか」
「オレも何か手伝おう」
「ううん、大丈夫だよ。僕に任せて」
「だが……」
「じゃあ、食堂に行くときに扉を開けてもらってもいい?これを持ってると、両手が塞がっちゃうから」
僕たちの分のお茶セットを載せたトレーを持って見せると、フィラスにそれを奪われてしまう。
「それなら、オレが運ぶ。ミカの華奢な腕には重かろう」
「そんなことない、大丈夫だよ!僕だって男なんだから」
「性別の問題ではない。女でも力強い者はいるし、男でも腕力が無い者はいる。少なくとも、オレはミカよりは腕力が強かろう。友よ、任せてくれ」
「うーん……、じゃあ、お願いしようかな……?」
断ろうとしても、たぶんフィラスは納得してくれないだろうし、素直にお願いしよう。食堂へ続いている扉へ向かって歩き出そうとすると、二羽の愛鳥が飛んできて、僕の両肩それぞれへ乗った。器用にバランスを取りながら、フィラスを見つめてドヤ顔をしている。
褐色肌の青年は、トレーを持ったまま身を少し屈めて鳥たちを見つめ返し、金色の瞳を瞬かせた。
「この魔鳥たちは、随分とミカに懐いているな。それに、ずっと屋内にいるというのも珍しい」
「白い子が、クック。黒い子が、ポッポ。ジルの魔法のおかげで、普通の魔鳥よりも僕の傍にいてくれるようになっているんだ」
「クッ!」
「ポッ!」
クックとポッポは、よろしくと言わんばかりに胸を張り、更にドヤ顔を輝かせる。それを見たフィラスは破顔して、鳥たちへ向かってご丁寧に軽く頭を下げ、挨拶を返してくれた。
「フィラスという。ミカの友は、オレの友。オレのことも、友のように思ってほしい」
「ククッ!」
「ポォ、ポッ!」
クックとポッポも、フィラスのことが気に入ったみたいだ。機嫌よく鳴いている。大型犬と鳥たちが交流しているのを見守っているような感じで、こちらまでほのぼのとした気持ちになる。
「クックとポッポも一緒に行こうか。みんなでおやつにしようね。僕たちはケーキ、君たちは木の実だよ」
「クークッ!」
「ポポポッ!」
「ははっ。喜んでるな。魔鳥がこんなに人間の傍にいるだなんて、本当に珍しい。新鮮で面白いし、微笑ましい」
みんなご機嫌で、外で大雨が降っているとは思えないほど明るい雰囲気だ。ジルやカミュと過ごしている穏やかで楽しい時間とも、少し違う。……友だち同士って、こんな感じなのかな。僕は友情にも縁が無かったから、なんだかくすぐったくて、少し嬉しい。
「さぁ、みんなで食堂でお茶にしようね」
食堂に続くドアを開けると、鳥たちが先導するように飛んで行き、それをフィラスが追って、最後に僕も続いた。
そう言いながら、そっと手を離したとき、遠くから翼が羽ばたく音が聞こえてくる。クックとポッポは近くの棚の上から僕たちを観察しているし、この羽音の主は一人しか思い浮かばない。──カミュだ。
そう思い至ったとき、調理場の前で翼の音は鳴り止み、静かにドアが開かれた。そこには、予想通りカミュが立っている。
「おや。フィラスさんも、こちらにおいででしたか」
「ああ。ミカの手際の良さと懐の深さに、感銘を受けていたところなのだ」
「だ、だから、そんな大げさな……!」
「そうでしょう、そうでしょう。ジル様は本当に食事係に恵まれていらっしゃいます。ミカさんも、とても素敵な人でしょう?」
「ああ、素晴らしい!」
「素晴らしいですよね」
「我が心の友は、とても、とても素晴らしい!」
「二人とも、やめてよ……!」
褒められ慣れていないから、頬が火照ってしまう。きっと真っ赤になっているだろう僕を、カミュもフィラスもにこやかに見つめてくる。からかわれているような気がしてならない。
ひとつ咳払いをして気を取り直し、僕はカミュにトレーを手渡した。トレーの上には、カボ茶をミルク割りにして冷やしたものを詰めたポット、カップを二つ、ホールサイズのシフォンケーキを載せた大皿、取り皿とフォークとナイフを二セット、給仕用の大きめのナイフ、生クリームをたっぷりと入れた小ボールなどが並んでいる。
「ありがとうございます。シホンケェクィ、相変わらずとても美味しそうですね」
シフォンケーキを上手く発音できないカミュは、ニコニコと満面の笑みを浮かべながらトレーを受け取った。
「カミュの分も、ちゃんと用意してあるからね。お給仕が終わったら食べてくれると嬉しいな」
「こちらこそ、喜んで! そんなに幸せなご褒美がいただけるのなら、それに見合った働きをしなければ。サリハ様のお世話はきちんといたしますから、フィラスさんもミカさんとお菓子で長旅の疲れを癒してくださいね」
「お心遣い感謝する、カミュ殿」
きっちりとした姿勢で一礼するフィラスを微笑ましげに眺めてから、カミュは「行ってまいります」と言い残して退室してゆく。主と客人を待たせているからか、再び飛行して行ったようで、羽音が遠ざかっていった。
「さて……、じゃあ、僕たちもお茶にしようか」
「オレも何か手伝おう」
「ううん、大丈夫だよ。僕に任せて」
「だが……」
「じゃあ、食堂に行くときに扉を開けてもらってもいい?これを持ってると、両手が塞がっちゃうから」
僕たちの分のお茶セットを載せたトレーを持って見せると、フィラスにそれを奪われてしまう。
「それなら、オレが運ぶ。ミカの華奢な腕には重かろう」
「そんなことない、大丈夫だよ!僕だって男なんだから」
「性別の問題ではない。女でも力強い者はいるし、男でも腕力が無い者はいる。少なくとも、オレはミカよりは腕力が強かろう。友よ、任せてくれ」
「うーん……、じゃあ、お願いしようかな……?」
断ろうとしても、たぶんフィラスは納得してくれないだろうし、素直にお願いしよう。食堂へ続いている扉へ向かって歩き出そうとすると、二羽の愛鳥が飛んできて、僕の両肩それぞれへ乗った。器用にバランスを取りながら、フィラスを見つめてドヤ顔をしている。
褐色肌の青年は、トレーを持ったまま身を少し屈めて鳥たちを見つめ返し、金色の瞳を瞬かせた。
「この魔鳥たちは、随分とミカに懐いているな。それに、ずっと屋内にいるというのも珍しい」
「白い子が、クック。黒い子が、ポッポ。ジルの魔法のおかげで、普通の魔鳥よりも僕の傍にいてくれるようになっているんだ」
「クッ!」
「ポッ!」
クックとポッポは、よろしくと言わんばかりに胸を張り、更にドヤ顔を輝かせる。それを見たフィラスは破顔して、鳥たちへ向かってご丁寧に軽く頭を下げ、挨拶を返してくれた。
「フィラスという。ミカの友は、オレの友。オレのことも、友のように思ってほしい」
「ククッ!」
「ポォ、ポッ!」
クックとポッポも、フィラスのことが気に入ったみたいだ。機嫌よく鳴いている。大型犬と鳥たちが交流しているのを見守っているような感じで、こちらまでほのぼのとした気持ちになる。
「クックとポッポも一緒に行こうか。みんなでおやつにしようね。僕たちはケーキ、君たちは木の実だよ」
「クークッ!」
「ポポポッ!」
「ははっ。喜んでるな。魔鳥がこんなに人間の傍にいるだなんて、本当に珍しい。新鮮で面白いし、微笑ましい」
みんなご機嫌で、外で大雨が降っているとは思えないほど明るい雰囲気だ。ジルやカミュと過ごしている穏やかで楽しい時間とも、少し違う。……友だち同士って、こんな感じなのかな。僕は友情にも縁が無かったから、なんだかくすぐったくて、少し嬉しい。
「さぁ、みんなで食堂でお茶にしようね」
食堂に続くドアを開けると、鳥たちが先導するように飛んで行き、それをフィラスが追って、最後に僕も続いた。
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