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【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-21】

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  ◇


「う、うわぁぁ……っ、す、っごい……!」

 調理場に積まれていた木箱の中を順番に眺めて、僕は今まで出したことのないような喜びの声を上げてしまった。いや、もう、奇声の域に達している。
 でも、そんなことを気にしている余裕もないくらい、僕の目はその品々に釘付けになってしまった。

「……ミカが、今までに見たことが無いくらい目を輝かせている」
「ふふっ、ちっちゃい子みたいで微笑ましいですね」
「なんだ、やはりジルとカミュの予想が当たったのか。それならば運んだ甲斐があるな」

 外野三人の声も気にならないくらい、僕は搬入物に夢中になってしまう。
 だって! この、どう見ても西洋ファンタジーみたいな世界で! まさか、かつおぶしに出会えるとは思わないじゃないか!
 いや、まだ味見していないから見た目がかつおぶしなだけの別物かもしれないけど、たぶんかつおぶしにちかいものだと思う! それに、出汁をとる昆布のようなものと思われる、海草を乾燥させたものもあるし! 醤油かポン酢みたいな色味の調味液っぽいものもあるし! かなり黒に近い色味だけど味噌っぽい感じのものもある!

「……どうだ、ミカ。嬉しいか?」

 密かに興奮している僕の頭に手を置きながら、ジルが背後から首を伸ばすようにして顔を覗き込んでくる。その近距離すら気にならないくらいテンションが上がっている僕は、何度も頷いた。

「うん、嬉しい! ありがとう、ジル、カミュ! マティ様も、本当にありがとうございます!」
「よかったな」
「よかったですね」

 大喜びしている僕と、それを微笑ましげに見守るジルとカミュ。その光景を眺めながら、マティ様は溜息をついた。

「……まったく、そんなに情を移して。私は知らんぞ」

 呆れたような忠告の声を受け止めたジルは、僕の頭を撫でながら、穏やかにマティ様を振り返る。

「何の考えもなく可愛がっているようにでも見えるか、マティアス? ……俺だって、きちんと考えている。ミカには長生きしてほしいからな」

 ──えっ?
 沸いていた脳内が、一気に冷えていく。なんだろう……、今のジルの一言は、決して聞き逃してはいけないものだった気がする。
 僕が長生きするには、暴走したジルに殺されることを回避するのが最低条件になると思うのだけれど、それはつまり下手したら間近に迫っていると思われる暴走化を止めるか先送りにするような方法が見つかったということ……?
 いや、それならマティ様も知っているはずだ。現に、目の前の王子様は、ほぼ無表情ながらも腑に落ちないといった面持ちになっている。

 僕が心の中で不安を渦巻かせ始めたのを察したのか否か、ジルは素知らぬ顔でのんびりと質問を投げかけてきた。

「これらの食材をどう使うのか、俺にはまったく検討もつかないが、ミカならば分かるんだろう? 何を作ってくれるんだ?」
「え、えぇと……」
「ミカの手料理はどれも美味いからな。未知のものでも安心して食べられる。楽しみだ」

 静かな口調ながらも、ワクワクしてくるのが伝わってくる、そんなジルの呟きへ一番最初に反応したのは、意外にもマティ様だった。

「ミカの……手料理……」

 なんとなく……、本当になんとなくだけど、マティ様の無表情もだいぶ見分けられるようになってきたかもしれない。たぶん、今、彼は僕の作るごはんに興味を持っている。それも、物凄く。アイスブルーの瞳がめちゃくちゃキラキラしているから、きっと間違いない。
 ──そっか、そうだよね。ここにあるホラマロバ王国の食材は、マティ様が仕入れて運んでくれたもの。ここはプレカシオン王国なのだし、他国の食材を用意してくれたってことだ。王子様の権限を使ったとしても、きっと大変だったと思う。

 苦労をして仕入れて、届けて、喜ばれている、自分には馴染みのない食材。興味もあるだろうし、食べてみたいと心惹かれる感覚もあるんじゃないかな。
 そう考えた僕は、思いきって、ひとつの提案をしてみる。

「あの、マティ様。よろしければ、一緒にごはんを召し上がりませんか? お持ちいただいたホラマロバ王国の食材を使って、頑張って作りますので!」
「……、……は?」

 マティ様は見たことがないほど目をまんまるくして、ぽかんと口を開いた。ジルとカミュも呆気にとられたように、僕を凝視してくる。三人から突き刺さる視線を受け止めながら、僕はもう一度、めげずにお誘いした。

「お持ちいただいた食材を、もう少しきちんと確認してみないと確実なことは言えないですけど、でも、たぶん、この材料でしゃぶしゃぶが出来ると思うんです。えっと、僕は一人鍋しかしたことないんですけど、鍋はみんなで一緒に食べたほうがきっとずっと美味しいはずで……、つまり、その、僕はマティ様と一緒に鍋パーティーがしたいです!」
「……何がしたいって?」

 マティ様は混乱した様子を見せつつも、そう訊き返してくれた。
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