レディ・クローンズ

蟹虎 夜光

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Headed for the truth

第7話 先輩 あたしが上

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 ある夏の暑い日、セカンダは買い出しを頼まれていた。
「ったく、なんであたしが買い出しなのよ、サーディの奴は何を考えてるの!」
 具材のメモにはマッシュルームや人参、トマトにハヤシライスのルーだとか書いてあって完全にハヤシライス確定なのでは?と思わせる内容だった。
「全くもう……」
 なんて文句を言いながらも買い出しをする彼女の前に、魔物がひっそりと近づいてくる。
「分かってんだよ……」
 彼女はその気配にすぐに気づき、魔物に触れて燃やす。
「あーちょっとそこストップ!」
 日で燃えた魔物の近くに突然現れるツインテールの茶髪の少女。
「周りに配慮して魔法使わないとダメだよー!」
 そう言って持っていたハンマーで彼女は自ら集めていた魔物を混ぜて固める。
「ランド・オーレ!」
 固めた魔物は球体そのもの。彼女はその球体を粉々にして砕く。
「こうすれば汚れないってもんよ!」
「……いや、床凄い土まみれだよ?」
「え……」
 彼女はそう言うと周りを見ては石のように固まった。

「ごっめーん!まさか掃除手伝わせることになるなんて……」
「いや、いいよ……買い出しも終わったし。」
 数時間後、彼女達は公園で集合した。土の魔法使いと火の魔法使い……技は違えど二人とも共通点は山ほどある。
「いやぁよかったよかった!ひとまず終わり!
 あ、自己紹介がまだだったね!」
 そう言うと一歩近づき、彼女は紳士のような振る舞いをセカンダに向けて行う。
「私は土間蘭……あんたは?」
「あたしはセカンダ。」
「苗字とかないの……?」
「苗字?機体番号とか?それとも福瀬ってやつ?」
 彼女達はある程度のモラルや仕組みはわかっているつもりだが、稀にかけたものがこの通り存在する。
「……なんだかゲームのキャラみたい。あ、もしかして……いつだったかニュースになってたクローンってやつ?」
 そう言われるとセカンダはこくりと頷き、目を見る。
「……すごい!本物!?へー、こんな感じなんだ!しかも魔法使いとかゲームそのものじゃん!」
 好奇心旺盛な蘭はまるで芸能人に会ったかのように尊敬の眼差しを示す。
「本物みたい……で、でも!魔法使いとしては?私の方が先輩っぽいし?三年よ?魔法使い歴三年よ?」
「あっそう……」
「もー何よその反応!ひどい!」
 セカンダにとって同じクローン以外の魔法使いの概念は予想外なものであったが、彼女の反応が面白いので少し冷静な反応をする。
「魔法使いには?いつからなったの?」
「私は……数ヶ月経ったくらいかな?」
 はっきりと言えば素質があった時点で生まれた時からというようになるのでバリバリのベテランだぞ!なんて言いたいが彼女のプライドもあるためセカンダなりのちょっとした気の使い方である。
「ふーん、後輩。もし良かったら私が技術とか教えてあげようかな?」
「へー、悪くないわね。」
 内心は面倒くさいって思っているが彼女との少しの会話が面白いとすら思えてきた。

「そう!そんな感じ!」
「んで……こうかな?」
 それから一週間、二人の少女はいつの日か来る戦いに向けて修行を続けた。
「さすが!炎の魔法使いってやっぱ火力の高さよね!」
「そりゃ炎だもの!」
「先輩を尊敬する気持ちも高くならないかなぁ……」
 いつの日か来る戦いが今だということも知らずに。
「……ミツケタ。」
 奇声を上げて近づいてくる謎の魔物。
「なんだコイツ……」
「魔物だよ!戦うしかない!」
 そう言うと彼女は魔法を唱えようとする。
「ランド・スパーキング!」
 土を固め、球体にして蹴り飛ばす蘭。しかしその技は通じない。それどころが傷すらついてない。
「こんな攻撃でうちの子達は……」
 その発言からセカンダはあの時のモンスターの親玉であると確信した。子供を消した魔法使いを探しているのだとしたら辻褄は異常に合う。
「あの時の親玉だ!」
「そんな気する!いくよ、ランド・オー……」
「サセナイ……」
 魔物は固めかけていた土の玉を蹴り飛ばす。
「ヨゴレチャッタ……オマエノマホウノセイ。」
 蜘蛛のような親玉……マザースパイダーはそう言うと蜘蛛の糸を蘭目掛けて飛ばし身動きを取れなくする。
「きゃあ!何これ!」
 前足四つで掴まれた蘭はマザースパイダーに養分を吸収され土の中に埋められた。
「タ…スケ……テ……」
 最後にそう言い残し、彼女は文字通り土に還った。
「サイコウ!ヒサシブリノ……エサ!」
 一瞬の動きでセカンダは理解が追いつかなかったが、マザースパイダーがこちらを見つめ、蘭が身につけていた髪飾りのリボンが地に着いたのを確認するとその光景を理解した。
 絶望なんてしている暇はない、震えながらもセカンダは大剣を構えようとする。
「……蘭…先輩。」
 産まれたての子鹿のように動けない彼女はガクガクと震え目の前の仇も倒せるか分からない。
「アイツ、アッケナイ。ナクナッタ!」
 しかし蘭を侮辱し嘲笑うマザースパイダーを見て、自分の無力さやマザースパイダーに対する怒りが彼女を動かした。
「ツギ、オマエ……ユルサナイ!」
「……先輩……仇撃ちます……!」
「オマエ、ハナシカタ…カワッタ!…ヘンナノ」
「今決めたんだよ!私は土間蘭先輩にしか経緯を示さない!これが最初で最後の『尊敬』だ!だから……見ててください!」
 大剣を上に突き上げゆっくりと先端をマザースパイダーに向けようとする。目は狙撃手、動きは武士そのもの。

「そう!そんな感じ!私の好きなゲームキャラのグランドみたい!」
「……へぇ、面白い。」
 それは一週間の中で蘭に教え込まれた技であり、セカンダにとって初の大技である。
「かっこいい!大剣に火の魔法!これって……技名は……」
「技名か……」
 昔からセンスがないなんて言われていた彼女にとってそれは苦手な作業だった。でもこの時の彼女はふと頭から降りてきた。
「先輩……思いついたよ!」
「お、なんて名前にするの?」

「「グランド・ヴォルケーノ」」

 かつての思い出を頭に入れながらセカンダは剣を真っ直ぐ蜂のようにマザースパイダーに刺す。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!」
 悲鳴をあげ、爆散するマザースパイダー。やったぜ!なんて言いたいが一緒に喜びを味わってくれる先輩はもういない。
「遅くなってしまいましたね……尊敬する気持ち」
 体力を使いガクッと倒れるセカンダ。そんなやりきった彼女の耳元に「遅いよセカンダ」なんて幻聴が聞こえた。
「すみません……」
 彼女は近くのベンチに座る。

 翌日。喫茶店にて。
「なんだ、セカンダのやつ。元気ないな。」
「シーっ!そっとしてあげて!」
 元気の無いセカンダに声をかけようとするも、ファスタは彼女を察してその動きを止める。
「セカンダ、らしくないね。」
「何かあったんだよ……そっとしてあげなよ。」
 フォーサーの動きですら止めるセカンダに気を遣うファスタも内心は事情を知らない。まるで腫れ物を扱うようだ。
「ねぇ、誰か……おつかい行く人いる?」
 そんなみんなの中におつかいのメモを持ってゆっくりと現れるサーディ。
「わ、私行こうかな……」
「そう、じゃあファスタお姉ちゃんに頼もうかな……」
 サーディはメモをファスタにあげようとする。
「いや、外出る用事あるし……私行くよ。」
「そ、そう?ならセカンダお姉ちゃんお願いね。」
「おう……」
 そう言うとセカンダはメモに書いてある今晩の材料と自らの小遣いでかつて技を教えてくれた彼女に手向けるお花を買いに行く。

「……来ましたよ、先輩」
 何も無い公園に彼女は今日も花を残す。

 つづく。
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