レディ・クローンズ

蟹虎 夜光

文字の大きさ
上 下
6 / 24
Headed for the truth

第6話 観光 夏休みにはバカンス!

しおりを挟む
「海サイコー!」
 今俺はなぜこうなっているのかその答えは分からない。
「おいお前らスイカ割りしようぜ!」
「スイカ持ってくるわね!」
 あぁ……夏休み。
「ちょっと凍らせてやろ……ふひひ」
 綺麗なお兄さんやお姉さんが海いっぱいに広がる景色に沢山存在している。まるで前回の物語を忘れるかのように暑い日差しを浴びながらも俺達は快適な海にいる。
「ほら!いっちゃんも遊ぼ!」
「アッハイ」

 およそ一週間前。アトーンマントにて。
「……」
 俺はホプスとの話の後、一人不貞腐れていた。彼女達が生まれた意味を今になって達成しているのはいいがそれまでの間、存在する意味が無いから彼女達は俺の世話係……。
「はぁ……」
 今までの彼女達に存在意義があるとすればそれはなんだろうか。怪物が現れたから遅くなっちゃったけど魔法少女になるべき素質を持つ彼女たちを魔法少女に今からさせてみようってことになりました……はぁ!?
 店に閉じこもり、俺は自然と思っていた事に対して怒りを露わにする。
「いっちゃん……どうしたの?顔怖いよ?」
 その苛立ちはファスタにも気づかれるほどに分かりやすいほどであった。
「……ごめん。」
「ちょっとちょっと!何謝ってるの!?どうした?いつものいっちゃんらしくないよ!」
 いつもの俺らしくない……か。確かに俺は感情を露わにするような性格はしていない。
「元気出してよ!ほら!海とかいってさ?」
「海って……いつ行くの。」
「一週間後とかなら良いでしょ!だっていっちゃん夏休みじゃん!」
 エコーボイスで脳内に直接やってくる夏休みじゃん!って声。展開的に次のシーンでは海に戻されるやつだ……。

「おりゃあ!」
 ほらね!スイカ割りをするセカンダがパーン!と決め込むシーンだよ!
「流石よ!セカンダちゃん!」
「ったりめぇよ!あたしを舐めんじゃねえ!」
 スイカ割りは盛り上がっていた。彼女達は用済みなんて事も知らずに楽しく遊んでいる。
「楽しくねぇのかい?フクスケちゃん?」
「あ、いやぁ……いきなりファスタが提案した事がこんなにも早く採用されるなんて思ってなかったし……」
 そう、こんなにも早いなんて誰が想像できたか。
「安心しなよ、私がドライバーとして雇われてるんだからすぐ出来るに決まってんだろ?」
 誰が三十路のファンキーなお姉さんがバスの免許持ってるから借りて行こうぜなんて想像するんだ!ありがとうございます!一生ついて行きます!
「いやぁ……あはは」
「なんだい文句でもあるんかい?全く君って子は暗いねぇ。なんかあの子達に言い難いことでもあるんだろ?」
「え!?」
「私だって下の子がいたりしたんだからなんでも分かるさ。ほら言ってみな?」
「そ、その……」
 俺はとりあえずカヌーレさんに全て話すことにした。

「なるほどね。」
「はい……ホプスが言ってることにホプスが悪いわけじゃないのにこの間はすごくイラつきましたし……彼女達にそんなの言えるわけ。」
「ふーん、なるほどね。言っちゃえばいいじゃない。」
「言っちゃえば……いい?」
「不知火だってあんな子達になるか不安だったんだ。それにホプスはキザっぽいのかわからんけどあたしゃ態度がムカつくんだよ。むしろ話聞いてフクスケちゃんが代わりに怒りぶつけて少し気持ち良いなんて思った。」
「……魔法少女の研究のために作られた子がまさか自分の世話係だったなんて。人間って本当の役割が分からないのに生きてる……それに対してクローンは作られる事自体に目的があるんですよね……。」
「天職だとかそういうの……人間は考えたこともないしね。実は歌が上手くて歌手になって売れてるかもしれないしね。」
「カヌーレさんが歌手かぁ。」
 なんだろう、ヴィジュアル系すぎる。もはやそれ以外の何者でもない。
「……想像つく。」
「そうかいそうかい……」
 そう言うとカヌーレさんは笑いながら、クローン達の元へと向かう。
「私にもスイカ分けてくれよー!」
「もちろんありますよー!」
 なんだか、変に考えてる自分が馬鹿らしいのかもな。カヌーレさんみたいに俺も楽しく生きてみようかな。
 ……それにしても、彼女達は子供達には刺激が強すぎるのかもしれない。制作者の趣味が全開に出ている。
「……はぁ」
 クローンじゃなくてもスタイルの良いカヌーレさんもいるんだ、傍から見たら美女5人が遊んでいるだけの綺麗な空間なんだよな……。
「おい!お前も来いよ!」
「……分かったよ、今行く。」
 セカンダに言われた通りに俺は彼女たちの元へ近づく。なんかこういうの男として悪くないな。
「せっかくだし……写真撮ろ?」
 断られるかもなんて考えているフォーサーがカメラを持ってくる。可愛いヤツめ……カメラは俺が構えてやる。
「んじゃ写真撮るぞー」
 ピントを合わせてみんなで並ぶ……。3……2……1。
 綺麗な夕焼けとも重なり良い写真が撮れた……ん?いやちょっと待てよ。この写真逆に最悪だ。
「……おいおいおいおい」
「どしたのいっちゃん?」
「俺達が夕陽の影になって……全員シークレットキャラみたいになってるんだけどぉぉぉ!?」
 俺にカメラのセンスはアホかと言われるぐらいに絶望的だったのだろう。夜になるにつれて俺はこの写真の暗さをよりいっそう実感した。

「……みんな寝ちゃってるわね。」
「そうですね……」
 帰り道、起きているのは俺とカヌーレさんの二人だった。
「ゲームをしてた頃は家庭環境で苦労をしてるなんて知らなかったしそれどころかこんな可愛い子たちと生きてきたなんてね……。」
「……いい人生ですよ。」
「なんだか嬉しそうね。」
「そ、そうですか?」
「最初はあんなに暗い表情してたのに。なんだか嬉しそうな表情してるわよ。」
 悩みを抱えての海だったが、嫌いじゃない一日だった。素直に言えば、楽しいなんて言葉が出るくらいには。
「ほら、顔に出てる。」
「ちょっとからかわないでくださいよ。」
「弟持ってたんだ、男の子の考えくらい分かるわ。」
「そ、そんなぁ……」
「私、この子達見てたらなんだか甘えさせたくなるのよ。有り余った母性本能って奴かな?」
「は、はぁ……」
「どういう反応よ……。まぁ彼女たちも君も私をお母さんみたいに頼りなさいな、一之輔。」
「……はい」
 少しばかり甘えてみてもいいかもな、そう思わせてしまうほど彼女は寛大な心で接してくれた。
「……何泣いてんだよ。もうすぐ着いちまうから起こしてあげな。ここで寝かせてたら体痛めるよ。」
 涙が出るほどの優しさだったのだろうか……。今までの悲惨な数年が報われるかのようなそんな気持ちになった。父が蒸発したと思えば数年経って限界を感じたかのようにして母が自殺……今思えば我ながら過酷である。
 でも彼女たちが支えてくれて、一緒に悩んで一緒に助け合える……良い関係だ。父が昔に言っていた言葉が幼い俺には分からなかったが今思い出してわかった気がする。

 ある日の出来事。
「おとうさん、僕ね……友達と喧嘩したの。あの子がいじめられるのが見てて嫌だったから!」
「……そうか。いいか、一之輔……よく覚えとけ、その子を守れたなら誇っていい、それは親切って奴だ。……まぁ、喧嘩をしたのは良くないが親切ってのは親に縁を切られないような人間の心から起きる行動だ、忘れるなよ。」
「わかんないけど……わかった!」
「はは……そうか。」
 
 お父さん、今何してるかな。ふと思った疑問は外の風と一緒にまるで存在がなかったように消えていく。
 
「もうすぐ着くぞー。」

 つづく。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

海道一の弓取り~昨日なし明日またしらぬ、人はただ今日のうちこそ命なりけれ~

海野 入鹿
SF
高校2年生の相場源太は暴走した車によって突如として人生に終止符を打たれた、はずだった。 再び目覚めた時、源太はあの桶狭間の戦いで有名な今川義元に転生していた― これは現代っ子の高校生が突き進む戦国物語。 史実に沿って進みますが、作者の創作なので架空の人物や設定が入っております。 不定期更新です。 SFとなっていますが、歴史物です。 小説家になろうでも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》

小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です ◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ ◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます! ◆クレジット表記は任意です ※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください 【ご利用にあたっての注意事項】  ⭕️OK ・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用 ※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可 ✖️禁止事項 ・二次配布 ・自作発言 ・大幅なセリフ改変 ・こちらの台本を使用したボイスデータの販売

処理中です...