悪のそし記

蟹虎 夜光

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序章・成長編

第5話 正義の探求者と邪悪な正義

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第5話 正義の探求者と邪悪な正義

 正義ってなんなんだろう。この間の事件の結末がヒーロー組織による犯行であるとしたらそれは何故だろうか。考えれば考えるほどに僕は分からなくなってきた。
「まだあの事件の結末に納得がいってないようだね。」
「えぇ……はい……そういえば、三ツ矢さんって前にヒーローだったんですよね。」
「まぁ……ね。それも高校の頃の出来事さ。せっかくだしひとつヒーローとして伝えておこう。」
「なんですか?」
「……世の中は正義だけで回せるほど平和じゃない。」
 三ツ矢さんはそう言い残して、屋上を去った。
「正義だけじゃダメ……なのか。」
 たった今、ヒーローに言われた現実的で辛い言葉が僕の心の中に強く残った。

 翌日。社宅にて。
 この短い間に色んなことが起きたが、この生活にも不思議となれてきたものである。さて今日も納豆で朝飯を食べるとしますか。
「いっただっきまー」
 すを言おうとしたその一瞬にて、斬撃が襲いかかる。
「なんだよ!この生活に慣れてきた時に!」
「慣れは時に人を疎かにしてしまう……教訓になったな。」
 なんだコイツは。それに只者ではない。
「お前は一体……」
「戦い中に喋れるのは余裕のある奴だけだ。」
 全身が黒装飾でビシッと決まっており、まるでその姿は気取ってる余裕のある人間性を表している。
「……」
 僕は狼の力で戦うしかない……。この戦いにおいて僕の武器はこれしかないからだ。
光身こうしん……」
 黒装飾の男は全身を光に包み、ヒーローの姿に変える。
「これ以上この街の真実を知ろうとするなら……次はお前の組織ごと巻き込むからな、狼怪人」
 ゆっくりとその場を去り、彼はいなくなった。
「なんなんだアイツ……」
 僕は食事を終え、職場へと向かった。

「おはようございま……」
 職場ではクームが体を拘束され、三ツ矢さんと有栖さんに遊ばれていた。
「おぉ、結城くん。おはよう。」
「ど、どういう状況ですか……」
「決まってるだろ?悪い社員のお猿さんにはいやーなお仕置きをってわけさ。」
 有栖さんの台詞から恐怖をヒシヒシと感じさせる。
「……おい!やべぇよ!助けてくれ!」
「よく……喋るね。」
 クームはその三ツ矢さんの台詞と共に謎の拷問器具によって何かを失った。その失ったものはあとから分かった。
「……ウッキー!」
 恐らくプライドだ。
「全く会社の冷蔵庫の中身が無くなったかと思えばコイツの仕業とはねぇ……猿なのに人の知恵がついてる。」
「まぁ人である分はマシさ……元の性格を治さないとね。」
 三ツ矢さんはニヤリと笑い、社長室に入った。僕はさっきあった出来事を今この部屋にいる人に伝える事にした。

「……なるほどね。」
 社長室から戻った三ツ矢さんは僕の話を聞くと閃いたかのように僕の方を見た。
「……白夜 清之助。おそらく彼だろうな。」
「その人は?」
「俺の後輩で同じヒーローだった。いや、彼は今もか……。」
「どういう事ですか?」
「機会があれば話そう、今日の業務はクームが使い物にならんから……カイスと一緒に動いてね。」
 そう言うと三ツ矢さんは社長室に入った。
 今日の業務の内容は……と確認すると迷子の犬の調査依頼らしい。

 僕とカイスと現場まで向かっている。
「俺さぁ思ったんだけどさぁ……これ罠じゃね?」
「わ、罠……?」
「あぁ、完全に罠だよ……逃げようぜ?」
「そ、そんなこと言われても……仕事だし……」
「てかお前初対面の頃から思ってたけど……タメ口だよな」
「す、すみません……なんかその……」
 カイス……さんは不思議と昔の馴染みみたいななんかそんな空気を不思議と醸し出している。だからふと……。
「まぁ……堅苦しい空気をあの職場で好むのは三ツ矢ぐらいだよ。別にそこまで気にしてねえ。」
「は、はい……」
 まさか……実はどこかでカイスさんは知り合いだったりするのだろうか。僕はそんな事を思いながら現場に少し近づく。
「ところで……なんでお前もいるんだよ!」
「……いいだろ、別に」
 大宮さんは一緒についていってくれた。三ツ矢さんの話だと過去にカイスが怪物になる前にとある揉め事があり、二人は複雑な交流になっているのだとか。一体どんなことがあってそんな事が……。
「……まんまと騙されてくれたな、お前ら」
「なんなんだ、お前は」
「カイス、大宮さん……今朝のやつです。」
 目の前に突然現れたのは白夜だった。
「覚えてくれて何よりだよ、狼怪人。」
「自分から絡むなって言っておいて……なんで依頼を出してんだよ。」
「事情が変わった。お前、プログラミング前のあいつの兄らしいな。」
 プログラミング?あいつの兄?ということは……僕の妹は改造されたという事だろうか。
「グルルルルルルルァァァ……」
 もうどうなっても知らない、痛かっただろうなあかり……。お兄ちゃんがコイツを倒してお前を治してやるからな。
「おい待て落ち着け!何も殺してる訳じゃ!」
「カイス!コイツは暴走したらまずいタイプだ!総司ちゃんと一緒だ!」
「……おいおいそれじゃあ」
 カイスと大宮さんが慌てている。コイツ始末したら後はもう妹治すだけですから。
「グルルルルルルルァァァ……!!!」
 僕は泥臭いような戦い方をする。この後どうなるか分からない。でも彼に対する怒りは止まるようなものじゃない。
「こうなったら逃げてやる!逃げるが勝ちってな!」
「逃げんなぁ!」
 狼怪人の姿で僕は彼の後を追う。狙った獲物は逃がしたくない。
「おい待てあっちって……」
「……街の中心部だ。」

 街の中心部にて。
「ここなら安心だ!光身!」
 ヒーローに姿を変えることにより、周りの人は注目する。
「狼怪人!貴様の好きなようにはさせない!」
「さっきまで逃げておいてなんのつもりだ!」
 人はやはりヒーローを応援する。小さい子供が彼の顔が描かれたリュックサックを背負っている。
「私は正義のヒーロー!ブライトソルジャー!」
 そうか、ヒーローのパフォーマンスにすることで街の中心部で注目を集めさせる。
 今ここで僕を倒したらパフォーマンスとして彼の評価は上がり、逆に倒せなければ僕はおそらく……指名手配犯のような扱いになるということだろうか。
 周りの人が写真を撮り始めた。つまり僕は……彼にはめられたという事だろうか。
「……今更、気づいたか。新人くん。」
「大宮さん!この状況完全に不利です!」
「……やっと冷静さを保ってくれたか。でもね新人くん、逆にこの状況……乗らない手はないだろ?」
 乗らない手はない?何を言っているんだ彼は。僕をこのまま始末されたら僕の命はないし僕が勝ってもネットに晒されて挙句の果てに僕を追いかけてきた人が組織にまで近づいてみんなに迷惑をかけるかもしれないんだぞ。
 いや、待てよ……。それもそうか……。これはあくまでヒーローのパフォーマンスによるもの。ならば僕は何をするべきか……。
「……どうした!怪人!まさかこの私に退治されるのが怖くなったか!」
「……だったらさっさと退治しろよおしゃべりクソパフォーマー。」
「ほう?」
「そっちこそ、退治できるか分からなくて怯えてんじゃないの?……ほら、来いよ。」
「ハッハッハッー!そいつァ最高の悪役にでもなってくれるのか?でも、お前は俺の一話で終わらせてやる!」
「なってやるよ、最高の悪役ってやつに。」
 今俺がなるべきは可哀想な怪人でも分からない正義を追うものでもない。今は悪になる時間そのものだ!
 
「……総司ちゃん、彼面白いよ。良い人材になりそうだ。」
「そうだな、大宮」

 to be continued
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