4 / 34
第三話 知己との再会
しおりを挟む
中庭にて懐かしい面々に出会い、ここではゆっくり話ができないのでとシャローテの部屋に移動した私たち。彼女の部屋は広く、九人が集まってもまだ余裕がある。足りない椅子を余所から持って来て、ようやく落ち着いて話が出来るようになる。
「姉様…っ、本当に、お目覚めになられて良かったです…!」
「ええ、本当に喜ばしいことです母上」
口を開いたのは豊かな金色の髪を束ねた少女と灰色の髪の青年。私が眠ってしまってから神界を治めてくれているフェリスニーアとフィルスだ。
フェリスニーアが私を姉様と呼ぶのは、私のことを姉のような存在だと思ってくれているかららしい。いつからこう呼んでいるかは忘れてしまったけど、どうして姉様と呼ぶのか、と聞いたときに姉様は姉様ですから、と答えられた。あまり姉のような行動を取った覚えはないけど、フェリスニーアが可愛いので容認している。
フィルスは私とグランの力で生み出した存在だから、私のことを母と呼んでいる。厳密に言えば子供とは違うが、彼がそう呼びたいらしいのでそのままにしている。
「うん。フェリスとフィルスも、神界を取りまとめてくれてありがとう。これからもよろしくね」
「…姉様がお目覚めになられたのなら、神界のまとめ役も姉様にお任せするのが良いかと思うのですが…」
「ううん。ここまで治めてきたのはフェリスたちだし、私が眠っている間に生まれた神は私のことを知らないだろうし、これまで通りフェリスたちに任せるよ。まあ、二人でどうにも出来ない事態があったときは手を貸すけどね」
「ご心配には及びません、母上。俺とフェリス様に任せて、どうぞゆっくりとお休みください」
「ありがとうフィルス」
フェリスは少し残念そうだけど、私にゆっくり休んで欲しいという気持ちはフィルスと同じらしく、彼の言葉にうんうんと頷いている。まあ、神界は二人に任せておけば大丈夫だろう。
「グラン様。お目覚めになられたこともそうですが、ようやくミーフェ様と結婚ですか」
「父さん奥手だからなぁ」
「……ノルア、フィザス。二人はもっとこう、フェリスやフィルスのような感じはないのか」
呆れたように、それでも嬉しそうにグランへ声を掛けたのは白銀の髪と同色の角を生やした竜人姿のノルアクランとフィルスと同じ髪色で同じ顔立ちのフィザスだ。
ノルアクランはグランが自分の身を割いて生まれた竜の一匹で、いまは竜界を治める長の役割をしているらしい。本来は白銀の鱗を持つ竜だが、私たちに合わせて人に近い姿をしているのだろう。
フィザスがフィルスと同じ髪色、顔立ちなのは彼も私とグランの力から生み出された存在だからだ。彼がグランを父と呼ぶのもフィルスと同様の理由だ。ちなみにどちらが兄で弟かは決まっていない。
私とフェリスたちに比べるとかなり気安い態度の二人だが、グランは特に咎めることもない。
「僕たちは表に出ないだけだよ。父さんが目覚めたのは嬉しいと思ってるけど、母さんとやっと結婚かぁっていうのが強いだけ」
「本当に、私ども竜はずっとやきもきしていましたから」
「…はあ、まあいい。竜界はつつがなく回っているか?」
「はい。皆、気ままに過ごしていますし、そこまで纏めなければならないこともありませんので。あの大戦の折に人界に残っていた竜の子孫も、特に問題はありませんね」
「ふむ、そうか。私は竜界へ戻るつもりはないから、今後も二人に任せる」
「うんうん。僕とノルアに任せて、父さんは母さんといちゃいちゃしてればいいよ」
フィザスの言葉にグランは少し困ったような笑みを零して頷いた。彼も竜界のことは二人に任せれば大丈夫だと考えているのだろう。
「最後になってしまいましたが、ミーフェ様、グラン様、本当に良かったです」
「いやー、本当に良かったよなぁ!」
嬉しそうににこにこと笑顔を向けてくれる少女と青年に私とグランも笑みを返す。
肩に掛かるくらいの茶色い髪の少女はフィーリといって、大戦の折に人々を守りたいと願いそれを私が聞き届けて神器『ヴァルキュライズ』を授けた子だ。数多の死線を潜り抜けて人の段階を一つ上がり、人間の上位種へと上り詰めた彼女は自ら希望して神々の祝福を受け、不老不死になった。
金色の髪をところどころはねさせている青年はフェイラスと言って、彼もまた大戦を生き抜いた一人だ。その時代の全ての技術を集結させた超弩級決戦兵器剣型、通称リュミエラードを用いて人々を守って戦った。彼には特に祝福を授けたわけではないから、通常の寿命のはずだけど…。
「ん?あ、俺?なーんか俺、呪われてるらしいんだよな。そのせいで不老不死みたいになってるらしいんだけど、俺にはあんまり害がないんだよなー」
「は、え?!呪われてるの?!解呪は?!」
「シャローテにもフェリス様にも出来なくてさー。ま、別に死なないからいっかって」
「よ、良くないよ!」
今の私に解呪出来るだけの力はないけど、その分が溜まったら真っ先に彼の呪いを解かないと…。
そんなことを考えている私に、シャローテがなんとも言えないような表情を浮かべて私に声を掛けた。
「あの、ミーフェリアス様。呪いなのですが、不老不死になる以外の効果がないのです。定期的に死んで生き返るだとか、他の害になる効果がないのです」
「……え?」
「うん、シャローテとフェリス様たちが言うのには、本当に不老不死になっただけなんだよ。能力が下がってるとかなーんにもないんだよなぁ、これが」
「ええ…?どういうこと…?」
「推測ですが、不老不死以外の呪いはフェイラスに効かなかったのではないかと。邪神が結託して掛けた呪いでしょうが、不老不死以外の呪いはフェイラスの格に弾かれたのではと…」
フィルスの推測にええ、と声が漏れる。じゃあなんで不老不死の呪いは弾かれなかったんだと思うけど、まあこれは呪いの格が違うからかなぁ。邪神もこれに力を入れていただろうし。
「うーん…フェイラスは身体に不調とかない?」
「全くない!」
「そっか。不老不死は望んだことじゃないだろうし、私が解呪出来るようになったらするね」
「いや、別にいいぞ。元々、祝福を受けようと思ってたし、特に不都合なことはないしな」
あっけらかんと言い放つフェイラス。いやいや、そういう問題じゃない。いつか不都合が起こるかもしれないし、何かあってからでは遅いわけで。
「そういう訳にはいかないよ。呪いなんてないほうがいいし…」
「あー、じゃあ解呪したら祝福を授けて欲しい。それならいいだろ?」
「んー…まあいいかな。解呪までに時間は掛かるけど、その間に何かあったらすぐに教えてね」
「おう!」
あんまり不老不死を授けるのは良くないんだけど、本人が希望してるのならいいかな。知り合いがいるのなら道を踏み外してしまう心配も減るし。なるべく早く解呪出来るように、何か考えないとなぁ。
「フィーリは何か困ったこととかない?」
「私は大丈夫ですよ。祝福を授かっていますし、頼れる友人もいるので」
にこにことしてフィーリはフェイラスとシャローテに視線を向ける。長年の友人であるこの三人はそこそこ喧嘩もするけれど、信頼しあっている。関係性は変わってないようだ。
とりあえずこれで皆と話は出来た、かな?
「ああ、そうですわ。ミーフェリアス様、グランヴァイルス様、お二人の新居が決まりました。シンファールのミルスマギナというそれほど大きくない街にある家ですわ」
そう言ってシャローテのその一戸建ての外観が描かれた絵を見せてくれる。白い壁に緑の屋根の家で二人で住むには少し大きいような気がするが、私が調合師として仕事をするのなら必要な広さだろう。
「ふむ、良い家だ。広さも申し分ないな」
「だねぇ。私が仕事をしたとしても十分な広さだね。で、ええと、ミルスマギナってどういう街?」
「近くに迷宮が幾つかありますのでそれなりに栄えていますし、たしか魔法学園があると聞いています。賑わいのある街ですが、騒がしいほどではないかと。住民も穏やかな方が多いですし、暮らしやすいところだと思いますわ」
迷宮とは世界各地に点在している不可思議な建造物の事だ。半分は善神が作り出した試練で、最奥に進めば秘宝を得ることが出来る。もう半分は邪神が自らを顕現させるために作り出した祭壇の役割を持つ迷宮だ。試練迷宮は放置しても問題ないが、祭壇迷宮は放置すると邪神が顕現してしまうため定期的に浄化をしなければならないらしい。
シャローテに聞いただけなので詳しいことは知らないけれど。
「ミルスマギナの迷宮はどちらも存在していますけど、それほど困難なものではないので大丈夫ですわ」
「そう…。まあグランがいれば何かあっても大丈夫かな」
「迷宮の魔物如きに遅れは取らないとも。もし邪神が顕現したとしても問題あるまい」
「んー、色々と面倒そうだから顕現させない方向でね」
「ああ、分かっているよ」
その他にもミルスマギナの近くにある森や魔法学園の話に、特産品や観光名所などを聞く。街に着いたらまずグランと一緒に歩いて、場所の把握をしよう。うん、デートも出来るし。
「そういえば、お二人は式を挙げますか?」
思い出したようにシャローテがそう問う。式…って、結婚式のことかな。うーん、憧れはあるけど、グランは人の結婚式に出くわしてもあんまり興味なさそうだったしなぁ。
「当然、挙げるつもりだ。どうすればいいのか、詳しいことは君たちに聞くことになるだろうが…」
「え、あれ、結婚式するの?グラン、興味なさそうだったのに」
「そんな事はない。君のあの純白のドレス姿を見てみたいと、ずっと思っていた」
「グラン…」
真っ直ぐと見つめられてそう言われるとちょっと照れてしまう。どうやら人の式に興味がなかっただけで、私とする結婚式はずっと思い描いていたものらしい。
グランのことは分かっているつもりだったけど、わかってなかったなぁ。
「ふふふ…式を挙げるのであれば盛大に致しましょう。場所はこの大神殿で、全て私たちで用意いたしますわ。ああ、ドレスはミーフェリアス様とグランヴァイルス様の希望に合うものにしますわね」
「すまない、何から何まで世話になる」
「いいえ。お二人の結婚式を挙げられるとは、なんとも光栄なことですわ」
全て用意すると言うシャローテに私たちはお願いするしか出来ない。なんていっても私たちは無一文であるし、何をどうすればいいかもわからないからだ。これはもう彼女へのお礼は豪華にしなければ。
結婚式を挙げると聞いた神界側と竜界側の二人は、誰を参加させるかという話を始めているようだ。
「ああ、竜界の方をお呼びするのは構いませんがそのままの姿では色々と問題があるので、人型か竜人の姿でお願いいたします。神界の方も神気は纏わないように。この世界が大変なことになりますので」
「確かに…。私たちのことも色々と伏せておかないといけないかな」
「そうですわね…」
神が何柱も降りてきたとなれば大変どころではない騒ぎだろう。ううん、七大神の子らはそれなりに良識があるから心配要らないかな。事前に言っておけばそうしてくれるはず。来るかどうかは分からないけど。
グランは心配事があるのか少し眉間に皺が寄っている。ああ、うん…七竜は癖が強いから…。
「まあ、詳しい話は明日に致しましょう。もう日が沈んでしまいましたし、私も資料を用意いたしますので」
「では私とフィルスも一度、神界へ戻ります。日にちが決まったら教えてください」
「私とフィザスも戻ります。こちらに来そうな竜には何とか話を聞かせますので」
そう言ってフェリスとフィルス、ノルアとフィザスは部屋を出てすぐさま自分たちの世界へ帰って行った。彼らの気配はすぐさまなくなり、残った私たちも部屋へと戻ろうかと話をする。
「私とフェイラスはしばらくここで厄介になりますね。式のお手伝いもしますよ!」
「よく分からないけど手伝うぞ!」
「ふふ、助かりますわ。では私は二人を部屋に案内しますので、お二方も部屋でお休みください」
シャローテの言葉に頷いて、私たちは用意されている部屋に戻る。
戻った私はいつものように寝台へ腰掛け、グランはそんな私を後ろから抱きしめる。これが一番落ち着くらしい。
「人は神に愛を誓うらしいが、私たちは誰に愛を誓えばいいのだろうな」
ふとグランがそう口にする。確かに。上位の存在にその愛を誓うのなら、私たちの上位の存在はいないから…うーん、そこは悩みどころかもしれない。
「…んー、それならグランは私に、私はグランに誓えばいいんじゃないかな。式にいるのは私たちの知り合いだけだろうし、不思議に思われることもないと思うよ」
「ふむ…そうだな。ではそうしよう」
グランの納得した言葉以降、特に会話をすることもなくもう寝ようかと寝台へ寝転がる。ぎゅうっと抱きしめられたままで、私は目を閉じる。
そういえば結婚したその夜にすることがあるとないとか、そんな話を聞いたような…。その話を思い出すことなく私はゆっくりと眠りに落ちていった。
「姉様…っ、本当に、お目覚めになられて良かったです…!」
「ええ、本当に喜ばしいことです母上」
口を開いたのは豊かな金色の髪を束ねた少女と灰色の髪の青年。私が眠ってしまってから神界を治めてくれているフェリスニーアとフィルスだ。
フェリスニーアが私を姉様と呼ぶのは、私のことを姉のような存在だと思ってくれているかららしい。いつからこう呼んでいるかは忘れてしまったけど、どうして姉様と呼ぶのか、と聞いたときに姉様は姉様ですから、と答えられた。あまり姉のような行動を取った覚えはないけど、フェリスニーアが可愛いので容認している。
フィルスは私とグランの力で生み出した存在だから、私のことを母と呼んでいる。厳密に言えば子供とは違うが、彼がそう呼びたいらしいのでそのままにしている。
「うん。フェリスとフィルスも、神界を取りまとめてくれてありがとう。これからもよろしくね」
「…姉様がお目覚めになられたのなら、神界のまとめ役も姉様にお任せするのが良いかと思うのですが…」
「ううん。ここまで治めてきたのはフェリスたちだし、私が眠っている間に生まれた神は私のことを知らないだろうし、これまで通りフェリスたちに任せるよ。まあ、二人でどうにも出来ない事態があったときは手を貸すけどね」
「ご心配には及びません、母上。俺とフェリス様に任せて、どうぞゆっくりとお休みください」
「ありがとうフィルス」
フェリスは少し残念そうだけど、私にゆっくり休んで欲しいという気持ちはフィルスと同じらしく、彼の言葉にうんうんと頷いている。まあ、神界は二人に任せておけば大丈夫だろう。
「グラン様。お目覚めになられたこともそうですが、ようやくミーフェ様と結婚ですか」
「父さん奥手だからなぁ」
「……ノルア、フィザス。二人はもっとこう、フェリスやフィルスのような感じはないのか」
呆れたように、それでも嬉しそうにグランへ声を掛けたのは白銀の髪と同色の角を生やした竜人姿のノルアクランとフィルスと同じ髪色で同じ顔立ちのフィザスだ。
ノルアクランはグランが自分の身を割いて生まれた竜の一匹で、いまは竜界を治める長の役割をしているらしい。本来は白銀の鱗を持つ竜だが、私たちに合わせて人に近い姿をしているのだろう。
フィザスがフィルスと同じ髪色、顔立ちなのは彼も私とグランの力から生み出された存在だからだ。彼がグランを父と呼ぶのもフィルスと同様の理由だ。ちなみにどちらが兄で弟かは決まっていない。
私とフェリスたちに比べるとかなり気安い態度の二人だが、グランは特に咎めることもない。
「僕たちは表に出ないだけだよ。父さんが目覚めたのは嬉しいと思ってるけど、母さんとやっと結婚かぁっていうのが強いだけ」
「本当に、私ども竜はずっとやきもきしていましたから」
「…はあ、まあいい。竜界はつつがなく回っているか?」
「はい。皆、気ままに過ごしていますし、そこまで纏めなければならないこともありませんので。あの大戦の折に人界に残っていた竜の子孫も、特に問題はありませんね」
「ふむ、そうか。私は竜界へ戻るつもりはないから、今後も二人に任せる」
「うんうん。僕とノルアに任せて、父さんは母さんといちゃいちゃしてればいいよ」
フィザスの言葉にグランは少し困ったような笑みを零して頷いた。彼も竜界のことは二人に任せれば大丈夫だと考えているのだろう。
「最後になってしまいましたが、ミーフェ様、グラン様、本当に良かったです」
「いやー、本当に良かったよなぁ!」
嬉しそうににこにこと笑顔を向けてくれる少女と青年に私とグランも笑みを返す。
肩に掛かるくらいの茶色い髪の少女はフィーリといって、大戦の折に人々を守りたいと願いそれを私が聞き届けて神器『ヴァルキュライズ』を授けた子だ。数多の死線を潜り抜けて人の段階を一つ上がり、人間の上位種へと上り詰めた彼女は自ら希望して神々の祝福を受け、不老不死になった。
金色の髪をところどころはねさせている青年はフェイラスと言って、彼もまた大戦を生き抜いた一人だ。その時代の全ての技術を集結させた超弩級決戦兵器剣型、通称リュミエラードを用いて人々を守って戦った。彼には特に祝福を授けたわけではないから、通常の寿命のはずだけど…。
「ん?あ、俺?なーんか俺、呪われてるらしいんだよな。そのせいで不老不死みたいになってるらしいんだけど、俺にはあんまり害がないんだよなー」
「は、え?!呪われてるの?!解呪は?!」
「シャローテにもフェリス様にも出来なくてさー。ま、別に死なないからいっかって」
「よ、良くないよ!」
今の私に解呪出来るだけの力はないけど、その分が溜まったら真っ先に彼の呪いを解かないと…。
そんなことを考えている私に、シャローテがなんとも言えないような表情を浮かべて私に声を掛けた。
「あの、ミーフェリアス様。呪いなのですが、不老不死になる以外の効果がないのです。定期的に死んで生き返るだとか、他の害になる効果がないのです」
「……え?」
「うん、シャローテとフェリス様たちが言うのには、本当に不老不死になっただけなんだよ。能力が下がってるとかなーんにもないんだよなぁ、これが」
「ええ…?どういうこと…?」
「推測ですが、不老不死以外の呪いはフェイラスに効かなかったのではないかと。邪神が結託して掛けた呪いでしょうが、不老不死以外の呪いはフェイラスの格に弾かれたのではと…」
フィルスの推測にええ、と声が漏れる。じゃあなんで不老不死の呪いは弾かれなかったんだと思うけど、まあこれは呪いの格が違うからかなぁ。邪神もこれに力を入れていただろうし。
「うーん…フェイラスは身体に不調とかない?」
「全くない!」
「そっか。不老不死は望んだことじゃないだろうし、私が解呪出来るようになったらするね」
「いや、別にいいぞ。元々、祝福を受けようと思ってたし、特に不都合なことはないしな」
あっけらかんと言い放つフェイラス。いやいや、そういう問題じゃない。いつか不都合が起こるかもしれないし、何かあってからでは遅いわけで。
「そういう訳にはいかないよ。呪いなんてないほうがいいし…」
「あー、じゃあ解呪したら祝福を授けて欲しい。それならいいだろ?」
「んー…まあいいかな。解呪までに時間は掛かるけど、その間に何かあったらすぐに教えてね」
「おう!」
あんまり不老不死を授けるのは良くないんだけど、本人が希望してるのならいいかな。知り合いがいるのなら道を踏み外してしまう心配も減るし。なるべく早く解呪出来るように、何か考えないとなぁ。
「フィーリは何か困ったこととかない?」
「私は大丈夫ですよ。祝福を授かっていますし、頼れる友人もいるので」
にこにことしてフィーリはフェイラスとシャローテに視線を向ける。長年の友人であるこの三人はそこそこ喧嘩もするけれど、信頼しあっている。関係性は変わってないようだ。
とりあえずこれで皆と話は出来た、かな?
「ああ、そうですわ。ミーフェリアス様、グランヴァイルス様、お二人の新居が決まりました。シンファールのミルスマギナというそれほど大きくない街にある家ですわ」
そう言ってシャローテのその一戸建ての外観が描かれた絵を見せてくれる。白い壁に緑の屋根の家で二人で住むには少し大きいような気がするが、私が調合師として仕事をするのなら必要な広さだろう。
「ふむ、良い家だ。広さも申し分ないな」
「だねぇ。私が仕事をしたとしても十分な広さだね。で、ええと、ミルスマギナってどういう街?」
「近くに迷宮が幾つかありますのでそれなりに栄えていますし、たしか魔法学園があると聞いています。賑わいのある街ですが、騒がしいほどではないかと。住民も穏やかな方が多いですし、暮らしやすいところだと思いますわ」
迷宮とは世界各地に点在している不可思議な建造物の事だ。半分は善神が作り出した試練で、最奥に進めば秘宝を得ることが出来る。もう半分は邪神が自らを顕現させるために作り出した祭壇の役割を持つ迷宮だ。試練迷宮は放置しても問題ないが、祭壇迷宮は放置すると邪神が顕現してしまうため定期的に浄化をしなければならないらしい。
シャローテに聞いただけなので詳しいことは知らないけれど。
「ミルスマギナの迷宮はどちらも存在していますけど、それほど困難なものではないので大丈夫ですわ」
「そう…。まあグランがいれば何かあっても大丈夫かな」
「迷宮の魔物如きに遅れは取らないとも。もし邪神が顕現したとしても問題あるまい」
「んー、色々と面倒そうだから顕現させない方向でね」
「ああ、分かっているよ」
その他にもミルスマギナの近くにある森や魔法学園の話に、特産品や観光名所などを聞く。街に着いたらまずグランと一緒に歩いて、場所の把握をしよう。うん、デートも出来るし。
「そういえば、お二人は式を挙げますか?」
思い出したようにシャローテがそう問う。式…って、結婚式のことかな。うーん、憧れはあるけど、グランは人の結婚式に出くわしてもあんまり興味なさそうだったしなぁ。
「当然、挙げるつもりだ。どうすればいいのか、詳しいことは君たちに聞くことになるだろうが…」
「え、あれ、結婚式するの?グラン、興味なさそうだったのに」
「そんな事はない。君のあの純白のドレス姿を見てみたいと、ずっと思っていた」
「グラン…」
真っ直ぐと見つめられてそう言われるとちょっと照れてしまう。どうやら人の式に興味がなかっただけで、私とする結婚式はずっと思い描いていたものらしい。
グランのことは分かっているつもりだったけど、わかってなかったなぁ。
「ふふふ…式を挙げるのであれば盛大に致しましょう。場所はこの大神殿で、全て私たちで用意いたしますわ。ああ、ドレスはミーフェリアス様とグランヴァイルス様の希望に合うものにしますわね」
「すまない、何から何まで世話になる」
「いいえ。お二人の結婚式を挙げられるとは、なんとも光栄なことですわ」
全て用意すると言うシャローテに私たちはお願いするしか出来ない。なんていっても私たちは無一文であるし、何をどうすればいいかもわからないからだ。これはもう彼女へのお礼は豪華にしなければ。
結婚式を挙げると聞いた神界側と竜界側の二人は、誰を参加させるかという話を始めているようだ。
「ああ、竜界の方をお呼びするのは構いませんがそのままの姿では色々と問題があるので、人型か竜人の姿でお願いいたします。神界の方も神気は纏わないように。この世界が大変なことになりますので」
「確かに…。私たちのことも色々と伏せておかないといけないかな」
「そうですわね…」
神が何柱も降りてきたとなれば大変どころではない騒ぎだろう。ううん、七大神の子らはそれなりに良識があるから心配要らないかな。事前に言っておけばそうしてくれるはず。来るかどうかは分からないけど。
グランは心配事があるのか少し眉間に皺が寄っている。ああ、うん…七竜は癖が強いから…。
「まあ、詳しい話は明日に致しましょう。もう日が沈んでしまいましたし、私も資料を用意いたしますので」
「では私とフィルスも一度、神界へ戻ります。日にちが決まったら教えてください」
「私とフィザスも戻ります。こちらに来そうな竜には何とか話を聞かせますので」
そう言ってフェリスとフィルス、ノルアとフィザスは部屋を出てすぐさま自分たちの世界へ帰って行った。彼らの気配はすぐさまなくなり、残った私たちも部屋へと戻ろうかと話をする。
「私とフェイラスはしばらくここで厄介になりますね。式のお手伝いもしますよ!」
「よく分からないけど手伝うぞ!」
「ふふ、助かりますわ。では私は二人を部屋に案内しますので、お二方も部屋でお休みください」
シャローテの言葉に頷いて、私たちは用意されている部屋に戻る。
戻った私はいつものように寝台へ腰掛け、グランはそんな私を後ろから抱きしめる。これが一番落ち着くらしい。
「人は神に愛を誓うらしいが、私たちは誰に愛を誓えばいいのだろうな」
ふとグランがそう口にする。確かに。上位の存在にその愛を誓うのなら、私たちの上位の存在はいないから…うーん、そこは悩みどころかもしれない。
「…んー、それならグランは私に、私はグランに誓えばいいんじゃないかな。式にいるのは私たちの知り合いだけだろうし、不思議に思われることもないと思うよ」
「ふむ…そうだな。ではそうしよう」
グランの納得した言葉以降、特に会話をすることもなくもう寝ようかと寝台へ寝転がる。ぎゅうっと抱きしめられたままで、私は目を閉じる。
そういえば結婚したその夜にすることがあるとないとか、そんな話を聞いたような…。その話を思い出すことなく私はゆっくりと眠りに落ちていった。
0
お気に入りに追加
33
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
魔導書転生。 最強の魔導王は気がついたら古本屋で売られていた。
チョコレート
ファンタジー
最強の魔導王だったゾディアは気がついたら古本屋に売られている魔導書に転生していた。
名前以外のほとんどの記憶を失い、本なので自由に動く事も出来ず、なにもする事が無いままに本棚で数十年が経過していた。
そして念願の購入者が現れることにより運命は動き出す……
元最強の魔導書と魔導が苦手な少女の話。
デスゲームを終えてから500年後の未来に転生した
アストレイ
ファンタジー
主人公はデスゲームで単騎ラスボスに挑み、倒し人々をデスゲームから解放することができた。自分もログアウトしようとしたところで、突如、猛烈な眠気に襲われ意識を失う。
次に目を覚ましたらリフレイン侯爵家の赤ん坊、テレサに生まれ変わっていた。
最初は貴族として楽に生きていけると思っていた。しかし、現実はそうはいかなかった。
母が早期に死期してすぐに父は後妻と数か月しか変わらない妹を連れてきた。
テレサはこいつも前世の親のようにくず野郎と見切りをつけ一人で生きていくことにした。
後に分かったことでデスゲームの時に手に入れた能力やアイテム、使っていた装備がそのまま使えた。
そして、知った。この世界はデスゲームを終えてから500年後の未来であることを。
テレサは生き残っていた仲間たちと出会いこの世界を旅をする。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】番を監禁して早5年、愚かな獣王はようやく運命を知る
紺
恋愛
獣人国の王バレインは明日の婚儀に胸踊らせていた。相手は長年愛し合った美しい獣人の恋人、信頼する家臣たちに祝われながらある女の存在を思い出す。
父が他国より勝手に連れてきた自称"番(つがい)"である少女。
5年間、古びた離れに監禁していた彼女に最後の別れでも伝えようと出向くと、そこには誰よりも美しく成長した番が待ち構えていた。
基本ざまぁ対象目線。ほんのり恋愛。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる