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20.大旋風
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「ロージアス王国でクーデターがあったらしいぞ」
「シウニキス一家がまた大手の海賊団を傘下にいれたらしいな」
道行く人々の噂話を小耳にはさみながら、グレイとルナは闘技場への道を進む。
「チャンピオン。またもや危なげのない試合でしたね。それでは次の試合は……」
歓声が上がっていた試合は既に終わってしまったようだった。
「しまったな。もう少し早く来ればここのチャンピオンを見ることが出来たのか」
「次はルーキーの……」
客が席を立ち、出口へと向かい出した。
「終わっちまったみたいだな」
グレイはこの街には何度か来たことがあったが、闘技場に入ったのは初めてであった。そのため、チャンピオンの試合を一度も見たことが無い。
「せっかくなので見てみたかったですね、チャンピオン」
ルナが残念そうにつぶやいた。
(まさかスカウトする気だったんじゃねえだろうな?)
だとしたら先ほどの反省が全く生かされていない。ルナはしっかりしているようでどこか抜けている。これからのことを思うとグレイは軽くため息をついた。
「ぎゃははは! なんだそれは」
「さすがの『大旋風』様だな!」
観衆のあざける笑いが聞こえてきた。どうやらルーキーの試合が始まっていた様だ。ルーキーと言っても初参加の者を指すのではなく、闘技者のランクとしての呼称の様で、何度か試合に出ている者が現在戦っている様だ。選手にあだ名がつけられていることからもそれがうかがえる。
「くそっ‼ 当たれ! 当たれよ‼」
恐らく『大旋風』であろう闘技者が吠える。褐色の肌に紫色の髪をなびかせ、白と赤のビキニアーマーを身にまとう、彼(か)の女戦士は巨大な斧を振り回すが、相手に届かない。次第に疲れが溜まってきたのか、動きが鈍くなってきたところに対戦相手の剣を突き付けられ、あえなく降参した。
「なんだよ、またかよ~」
「アイツ、いつも降参しちまうんだよな~。そこまでは見ていて笑えるんだが」
「だが、殺されるにはもったいねえじゃねえか。あれはあれで良い体してるぜ?」
「馬鹿野郎‼ あんな斧を振り回してるんだぜ? 全身筋肉でガッチガチに決まってんだろう?」
観客が口々に勝手なことを言っている。
「ルーキー……の方みたいですね」
ルナがあまり興味無さそうに呟く。
「そうだな……」
だが、対象的にグレイは目を輝かせていた。
(あんな斧を振り回せる膂力……あんな奴、滅多にお目にかかれねえ)
かのシウニキス一家の船長が振り回していた武器ですら、『大旋風』と呼ばれる闘技者の斧に比べたら二回り以上も小さい。
「もしかしたら、掘り出し物かもしれねえぞ?」
闘技者としての地位は低く、恐らく収入も少ないであろう。現状に不満はあるはずだ。であれば、十分に交渉の余地はある。
「アイツに声をかけてみよう」
いぶかしむルナを横目にグレイはニヤリと笑った。
「シウニキス一家がまた大手の海賊団を傘下にいれたらしいな」
道行く人々の噂話を小耳にはさみながら、グレイとルナは闘技場への道を進む。
「チャンピオン。またもや危なげのない試合でしたね。それでは次の試合は……」
歓声が上がっていた試合は既に終わってしまったようだった。
「しまったな。もう少し早く来ればここのチャンピオンを見ることが出来たのか」
「次はルーキーの……」
客が席を立ち、出口へと向かい出した。
「終わっちまったみたいだな」
グレイはこの街には何度か来たことがあったが、闘技場に入ったのは初めてであった。そのため、チャンピオンの試合を一度も見たことが無い。
「せっかくなので見てみたかったですね、チャンピオン」
ルナが残念そうにつぶやいた。
(まさかスカウトする気だったんじゃねえだろうな?)
だとしたら先ほどの反省が全く生かされていない。ルナはしっかりしているようでどこか抜けている。これからのことを思うとグレイは軽くため息をついた。
「ぎゃははは! なんだそれは」
「さすがの『大旋風』様だな!」
観衆のあざける笑いが聞こえてきた。どうやらルーキーの試合が始まっていた様だ。ルーキーと言っても初参加の者を指すのではなく、闘技者のランクとしての呼称の様で、何度か試合に出ている者が現在戦っている様だ。選手にあだ名がつけられていることからもそれがうかがえる。
「くそっ‼ 当たれ! 当たれよ‼」
恐らく『大旋風』であろう闘技者が吠える。褐色の肌に紫色の髪をなびかせ、白と赤のビキニアーマーを身にまとう、彼(か)の女戦士は巨大な斧を振り回すが、相手に届かない。次第に疲れが溜まってきたのか、動きが鈍くなってきたところに対戦相手の剣を突き付けられ、あえなく降参した。
「なんだよ、またかよ~」
「アイツ、いつも降参しちまうんだよな~。そこまでは見ていて笑えるんだが」
「だが、殺されるにはもったいねえじゃねえか。あれはあれで良い体してるぜ?」
「馬鹿野郎‼ あんな斧を振り回してるんだぜ? 全身筋肉でガッチガチに決まってんだろう?」
観客が口々に勝手なことを言っている。
「ルーキー……の方みたいですね」
ルナがあまり興味無さそうに呟く。
「そうだな……」
だが、対象的にグレイは目を輝かせていた。
(あんな斧を振り回せる膂力……あんな奴、滅多にお目にかかれねえ)
かのシウニキス一家の船長が振り回していた武器ですら、『大旋風』と呼ばれる闘技者の斧に比べたら二回り以上も小さい。
「もしかしたら、掘り出し物かもしれねえぞ?」
闘技者としての地位は低く、恐らく収入も少ないであろう。現状に不満はあるはずだ。であれば、十分に交渉の余地はある。
「アイツに声をかけてみよう」
いぶかしむルナを横目にグレイはニヤリと笑った。
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