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14.子供が作った罠
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このパラティヌス遺跡はシエルとグレイの遊び場だった。祭事の時は人が集まるし、定期的に村の大人が持ち回りで掃除に来る。だが、それでも、ゴブリンの様な下級の魔物が荒らしていくことがあった。
「俺たちが退治しようぜ!」
「ええ~、怖いよ~」
息まくグレイに怖がるシエル。だが、子供ながらにグレイはシエルに良いところを見せたかった。
「大丈夫だ! 俺に任せろよ。ゆくゆくは『英霊』をも超える男だぞ?」
「もう~。グレイはいつもそれなんだから。バチがあたるよ?」
……
(……だが、いくらゴブリンと言えど、子供にとっては強力な魔物だ。だから俺は……)
グレイはロープの状態をしっかり確認し、ルナに振り返った。
「この遺跡には俺が子供の頃に設置した罠がある。いくつかはゴブリン共が壊しちまった様だが、まだ残っているのがあった。これを使って脱出するぞ」
ルナが驚き、質問をする。
「子供の頃の罠……? そんなものが魔物に通用するのですか?」
いぶかしむルナに対して、グレイは落ち着いた様子で返事をした。
「どっちにしろ出るために使うしかねえ。俺を信用しろ」
その言葉を発した後、グレイはその言葉に後悔するように付け加えた。
「いや、そうじゃねえな。……今回は悪かった。俺のせいで巻き込んでしまって。……そんな相手に信用も何もねえよな。偉そうなことを言って申し訳ない」
ルナが驚いて何も言えずにいる中、グレイは続けた。
「だが、お前のことは絶対に守る。……いや、守らせてくれ。頼む!」
これはグレイの矜持だった。自分はもういつ死んでも良い。だが、それに他人を巻き込むわけには行かない。そう思って言った言葉で言ったつもりであったが、気が付くとルナは顔を真っ赤にしていた。
「……ん? どうした?」
ルナは一つ咳ばらいをした。
「何でもありません! 行くのでしょう? 行きましょう!」
ルナが先に部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待て! 俺の言う通り動けって言ってるだろう?」
グレイは慌ててその後ろを追って行った。
……
部屋からほど近い通路。そこには3匹ほどのゴブリンが迫っていた。
(分散して見回りをしているようだな。都合が良い)
ルナが銃を構えて傍で構えていた。
「撃ちますか?」
「いや、まだ敵の数も多いはずだ。仲間を呼ばれるのは困る。3体を声も立てさせず仕留めるのは無理だろう?」
それは……と言い、ルナは口ごもる。
「大丈夫だ。これに捕まっていろ」
と言い、地面に繋がっているロープを示す。先ほど、台座の脇にあったロープと同程度の太さでしっかりした物のようだ。
「さっきから、このロープは何なのでしょうか?」
「すぐにわかるよ。しっかり持ってろよ」
「は、はい……」
「行くぞ。3、2、1……ここだ」
ゴブリンの位置を確認しながら、グレイはカウントダウンを行い、タイミングを合わせて二人が持つロープの下の方をカトラスで斬った。
「え? ……きゃあ!」
ロープに引っ張られルナの体が宙に浮く。思わずロープを捕まる手を放しそうになるが、グレイはロープを持たない方の手でカトラスを逆手に持ち、ルナの脇を抱えたことでルナはグレイと一緒に5メートルくらいの高さにある隠し通路に着地した。
「成功したようだな」
グレイがルナを抱える手を放し、ルナを解放する。
「ここに来ることですか?」
ルナは驚きとグレイと密着した恥ずかしさを押し殺しながら質問する。
「それもあるが……。『成功』したのは『あっち』のことだな」
そう言ってグレイは指をさす。その先には剣山の中で絶命している3体のゴブリンがいた。先ほどのロープはゴブリンのいた床を支えるものであったのだ。ロープが切れると同時にそのゴブリンの下にあった床は落ち、その反動でロープが二人を上部の隠し通路に押し上げた。
「3体とも巻き込めることが出来た。他のゴブリンが気が付くまでにしばらく時間がかかるだろう。今のうちに場所を移動するぞ」
そんなグレイの後ろを追いながら思案する。
(市井の子供はこんな遊びをするのですか⁉)
自分が世間知らずなのか、グレイが変わっているのか、ルナには判断できなかった。
「俺たちが退治しようぜ!」
「ええ~、怖いよ~」
息まくグレイに怖がるシエル。だが、子供ながらにグレイはシエルに良いところを見せたかった。
「大丈夫だ! 俺に任せろよ。ゆくゆくは『英霊』をも超える男だぞ?」
「もう~。グレイはいつもそれなんだから。バチがあたるよ?」
……
(……だが、いくらゴブリンと言えど、子供にとっては強力な魔物だ。だから俺は……)
グレイはロープの状態をしっかり確認し、ルナに振り返った。
「この遺跡には俺が子供の頃に設置した罠がある。いくつかはゴブリン共が壊しちまった様だが、まだ残っているのがあった。これを使って脱出するぞ」
ルナが驚き、質問をする。
「子供の頃の罠……? そんなものが魔物に通用するのですか?」
いぶかしむルナに対して、グレイは落ち着いた様子で返事をした。
「どっちにしろ出るために使うしかねえ。俺を信用しろ」
その言葉を発した後、グレイはその言葉に後悔するように付け加えた。
「いや、そうじゃねえな。……今回は悪かった。俺のせいで巻き込んでしまって。……そんな相手に信用も何もねえよな。偉そうなことを言って申し訳ない」
ルナが驚いて何も言えずにいる中、グレイは続けた。
「だが、お前のことは絶対に守る。……いや、守らせてくれ。頼む!」
これはグレイの矜持だった。自分はもういつ死んでも良い。だが、それに他人を巻き込むわけには行かない。そう思って言った言葉で言ったつもりであったが、気が付くとルナは顔を真っ赤にしていた。
「……ん? どうした?」
ルナは一つ咳ばらいをした。
「何でもありません! 行くのでしょう? 行きましょう!」
ルナが先に部屋を出て行こうとする。
「ちょっと待て! 俺の言う通り動けって言ってるだろう?」
グレイは慌ててその後ろを追って行った。
……
部屋からほど近い通路。そこには3匹ほどのゴブリンが迫っていた。
(分散して見回りをしているようだな。都合が良い)
ルナが銃を構えて傍で構えていた。
「撃ちますか?」
「いや、まだ敵の数も多いはずだ。仲間を呼ばれるのは困る。3体を声も立てさせず仕留めるのは無理だろう?」
それは……と言い、ルナは口ごもる。
「大丈夫だ。これに捕まっていろ」
と言い、地面に繋がっているロープを示す。先ほど、台座の脇にあったロープと同程度の太さでしっかりした物のようだ。
「さっきから、このロープは何なのでしょうか?」
「すぐにわかるよ。しっかり持ってろよ」
「は、はい……」
「行くぞ。3、2、1……ここだ」
ゴブリンの位置を確認しながら、グレイはカウントダウンを行い、タイミングを合わせて二人が持つロープの下の方をカトラスで斬った。
「え? ……きゃあ!」
ロープに引っ張られルナの体が宙に浮く。思わずロープを捕まる手を放しそうになるが、グレイはロープを持たない方の手でカトラスを逆手に持ち、ルナの脇を抱えたことでルナはグレイと一緒に5メートルくらいの高さにある隠し通路に着地した。
「成功したようだな」
グレイがルナを抱える手を放し、ルナを解放する。
「ここに来ることですか?」
ルナは驚きとグレイと密着した恥ずかしさを押し殺しながら質問する。
「それもあるが……。『成功』したのは『あっち』のことだな」
そう言ってグレイは指をさす。その先には剣山の中で絶命している3体のゴブリンがいた。先ほどのロープはゴブリンのいた床を支えるものであったのだ。ロープが切れると同時にそのゴブリンの下にあった床は落ち、その反動でロープが二人を上部の隠し通路に押し上げた。
「3体とも巻き込めることが出来た。他のゴブリンが気が付くまでにしばらく時間がかかるだろう。今のうちに場所を移動するぞ」
そんなグレイの後ろを追いながら思案する。
(市井の子供はこんな遊びをするのですか⁉)
自分が世間知らずなのか、グレイが変わっているのか、ルナには判断できなかった。
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