12 / 26
12.遺跡の最奥にて
しおりを挟む
シエルが飛び立ってからもグレイはその場から動けなかった。
(あいつは……シエルは俺に復讐をするために一緒に居たのか)
シエルと再会した日、彼女は村では決して見せたこともない、凍った眼をしていたことは今でも覚えている。あの時は黙って出て行った結果が浮浪者であったことを軽蔑していると思っていた。
(単純に恨みを晴らすべき相手の情けなさに落胆していただけだったのかもな)
その後、シエルはグレイを無理やり連れだし、ややあって二人は共に渡り鳥になって生計を立てることになった。
(そういえば俺、アイツが村を出てからの事を何にも知らねえ)
一緒に過ごしてきた一年、シエルとの会話は最低限のものだった。怖くて聞けなかったのだ。村が滅んだあと、どうやって過ごしてきたのか。『約束』を反故にして村を出た自分をどう思っているのか。その回答を聞くのが恐ろしく怖かった。
「……レイ」
意識の遠くで誰かの声がした。
「グレイ! しっかりしてください! グレイ‼」
気が付くとルナが肩を揺さぶっている。どうやらグレイはシエルが去った後、意識を失っていたようだった。先ほどの話がよほど堪えたらしい。
「良かった。気が付いたのですね」
気を巡らすと隣でルナが胸を撫で下ろしていた。
「俺は……」
「詳しい話は後です。ここは長居をするところではありません。まずは早く出ましょう」
グオオオオオオオオオオオオオオオン。
ルナの言葉が終わるか否かのタイミング、遺跡の入り口の方から魔物の咆哮が響き渡った。
「! あの声は⁉」
どうやら遅かったようだ。遺跡の中のゴブリン共はシエルがせん滅している。それを外から帰ってきた仲間はどう思うか? そんなこと、人間だろうが魔物だろうが同じようなものだろう。ましてや、あの巨大な咆哮は通常のゴブリンのものではない。となると相手はここの親玉と見て十中八九間違いない。
「ど、どうしましょう……」
ルナがか細い声を出す。先のクラーケンとの闘いでは勇ましかったが、やはり冒険に不慣れなのだろう。この様な場合にどのように対応すべきか分からず狼狽しているようだ。
(巻き込んじまったからな)
グレイは己一人であれば、もう死んでも良いと考えていた。生きる目標をとっくに見失い、ただただ惰性で生きてきた。その上、自分のせいで両親も友も全て無くしたことが分かり、若き日に将来を誓っていた相手がずっと自分に恨みを晴らす機会を狙っていたことを知った。グレイは彼女の――シエル—―の望み通り、ここで死にたいと思う気持ちで全ての力を失っていた。だが、それに他人を巻き込むことは、彼の矜持に反していた。
「どうしましょう。このままでは……」
ルナが泣きそうな声で繰り返す。
「まずは静かにしろ。奴らに気づかれる」
ルナの口を押えて遺跡内に響く音に耳を澄ます。
(5、7、9……数はそこまで多くない。動きもまばらで統率も取れていない様だ)
この分だとボスも頭が良い魔物では無さそうだ。いける。
「ルナ、俺の言う通り動けるか? ここを出るぞ」
(あいつは……シエルは俺に復讐をするために一緒に居たのか)
シエルと再会した日、彼女は村では決して見せたこともない、凍った眼をしていたことは今でも覚えている。あの時は黙って出て行った結果が浮浪者であったことを軽蔑していると思っていた。
(単純に恨みを晴らすべき相手の情けなさに落胆していただけだったのかもな)
その後、シエルはグレイを無理やり連れだし、ややあって二人は共に渡り鳥になって生計を立てることになった。
(そういえば俺、アイツが村を出てからの事を何にも知らねえ)
一緒に過ごしてきた一年、シエルとの会話は最低限のものだった。怖くて聞けなかったのだ。村が滅んだあと、どうやって過ごしてきたのか。『約束』を反故にして村を出た自分をどう思っているのか。その回答を聞くのが恐ろしく怖かった。
「……レイ」
意識の遠くで誰かの声がした。
「グレイ! しっかりしてください! グレイ‼」
気が付くとルナが肩を揺さぶっている。どうやらグレイはシエルが去った後、意識を失っていたようだった。先ほどの話がよほど堪えたらしい。
「良かった。気が付いたのですね」
気を巡らすと隣でルナが胸を撫で下ろしていた。
「俺は……」
「詳しい話は後です。ここは長居をするところではありません。まずは早く出ましょう」
グオオオオオオオオオオオオオオオン。
ルナの言葉が終わるか否かのタイミング、遺跡の入り口の方から魔物の咆哮が響き渡った。
「! あの声は⁉」
どうやら遅かったようだ。遺跡の中のゴブリン共はシエルがせん滅している。それを外から帰ってきた仲間はどう思うか? そんなこと、人間だろうが魔物だろうが同じようなものだろう。ましてや、あの巨大な咆哮は通常のゴブリンのものではない。となると相手はここの親玉と見て十中八九間違いない。
「ど、どうしましょう……」
ルナがか細い声を出す。先のクラーケンとの闘いでは勇ましかったが、やはり冒険に不慣れなのだろう。この様な場合にどのように対応すべきか分からず狼狽しているようだ。
(巻き込んじまったからな)
グレイは己一人であれば、もう死んでも良いと考えていた。生きる目標をとっくに見失い、ただただ惰性で生きてきた。その上、自分のせいで両親も友も全て無くしたことが分かり、若き日に将来を誓っていた相手がずっと自分に恨みを晴らす機会を狙っていたことを知った。グレイは彼女の――シエル—―の望み通り、ここで死にたいと思う気持ちで全ての力を失っていた。だが、それに他人を巻き込むことは、彼の矜持に反していた。
「どうしましょう。このままでは……」
ルナが泣きそうな声で繰り返す。
「まずは静かにしろ。奴らに気づかれる」
ルナの口を押えて遺跡内に響く音に耳を澄ます。
(5、7、9……数はそこまで多くない。動きもまばらで統率も取れていない様だ)
この分だとボスも頭が良い魔物では無さそうだ。いける。
「ルナ、俺の言う通り動けるか? ここを出るぞ」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる