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12.遺跡の最奥にて
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シエルが飛び立ってからもグレイはその場から動けなかった。
(あいつは……シエルは俺に復讐をするために一緒に居たのか)
シエルと再会した日、彼女は村では決して見せたこともない、凍った眼をしていたことは今でも覚えている。あの時は黙って出て行った結果が浮浪者であったことを軽蔑していると思っていた。
(単純に恨みを晴らすべき相手の情けなさに落胆していただけだったのかもな)
その後、シエルはグレイを無理やり連れだし、ややあって二人は共に渡り鳥になって生計を立てることになった。
(そういえば俺、アイツが村を出てからの事を何にも知らねえ)
一緒に過ごしてきた一年、シエルとの会話は最低限のものだった。怖くて聞けなかったのだ。村が滅んだあと、どうやって過ごしてきたのか。『約束』を反故にして村を出た自分をどう思っているのか。その回答を聞くのが恐ろしく怖かった。
「……レイ」
意識の遠くで誰かの声がした。
「グレイ! しっかりしてください! グレイ‼」
気が付くとルナが肩を揺さぶっている。どうやらグレイはシエルが去った後、意識を失っていたようだった。先ほどの話がよほど堪えたらしい。
「良かった。気が付いたのですね」
気を巡らすと隣でルナが胸を撫で下ろしていた。
「俺は……」
「詳しい話は後です。ここは長居をするところではありません。まずは早く出ましょう」
グオオオオオオオオオオオオオオオン。
ルナの言葉が終わるか否かのタイミング、遺跡の入り口の方から魔物の咆哮が響き渡った。
「! あの声は⁉」
どうやら遅かったようだ。遺跡の中のゴブリン共はシエルがせん滅している。それを外から帰ってきた仲間はどう思うか? そんなこと、人間だろうが魔物だろうが同じようなものだろう。ましてや、あの巨大な咆哮は通常のゴブリンのものではない。となると相手はここの親玉と見て十中八九間違いない。
「ど、どうしましょう……」
ルナがか細い声を出す。先のクラーケンとの闘いでは勇ましかったが、やはり冒険に不慣れなのだろう。この様な場合にどのように対応すべきか分からず狼狽しているようだ。
(巻き込んじまったからな)
グレイは己一人であれば、もう死んでも良いと考えていた。生きる目標をとっくに見失い、ただただ惰性で生きてきた。その上、自分のせいで両親も友も全て無くしたことが分かり、若き日に将来を誓っていた相手がずっと自分に恨みを晴らす機会を狙っていたことを知った。グレイは彼女の――シエル—―の望み通り、ここで死にたいと思う気持ちで全ての力を失っていた。だが、それに他人を巻き込むことは、彼の矜持に反していた。
「どうしましょう。このままでは……」
ルナが泣きそうな声で繰り返す。
「まずは静かにしろ。奴らに気づかれる」
ルナの口を押えて遺跡内に響く音に耳を澄ます。
(5、7、9……数はそこまで多くない。動きもまばらで統率も取れていない様だ)
この分だとボスも頭が良い魔物では無さそうだ。いける。
「ルナ、俺の言う通り動けるか? ここを出るぞ」
(あいつは……シエルは俺に復讐をするために一緒に居たのか)
シエルと再会した日、彼女は村では決して見せたこともない、凍った眼をしていたことは今でも覚えている。あの時は黙って出て行った結果が浮浪者であったことを軽蔑していると思っていた。
(単純に恨みを晴らすべき相手の情けなさに落胆していただけだったのかもな)
その後、シエルはグレイを無理やり連れだし、ややあって二人は共に渡り鳥になって生計を立てることになった。
(そういえば俺、アイツが村を出てからの事を何にも知らねえ)
一緒に過ごしてきた一年、シエルとの会話は最低限のものだった。怖くて聞けなかったのだ。村が滅んだあと、どうやって過ごしてきたのか。『約束』を反故にして村を出た自分をどう思っているのか。その回答を聞くのが恐ろしく怖かった。
「……レイ」
意識の遠くで誰かの声がした。
「グレイ! しっかりしてください! グレイ‼」
気が付くとルナが肩を揺さぶっている。どうやらグレイはシエルが去った後、意識を失っていたようだった。先ほどの話がよほど堪えたらしい。
「良かった。気が付いたのですね」
気を巡らすと隣でルナが胸を撫で下ろしていた。
「俺は……」
「詳しい話は後です。ここは長居をするところではありません。まずは早く出ましょう」
グオオオオオオオオオオオオオオオン。
ルナの言葉が終わるか否かのタイミング、遺跡の入り口の方から魔物の咆哮が響き渡った。
「! あの声は⁉」
どうやら遅かったようだ。遺跡の中のゴブリン共はシエルがせん滅している。それを外から帰ってきた仲間はどう思うか? そんなこと、人間だろうが魔物だろうが同じようなものだろう。ましてや、あの巨大な咆哮は通常のゴブリンのものではない。となると相手はここの親玉と見て十中八九間違いない。
「ど、どうしましょう……」
ルナがか細い声を出す。先のクラーケンとの闘いでは勇ましかったが、やはり冒険に不慣れなのだろう。この様な場合にどのように対応すべきか分からず狼狽しているようだ。
(巻き込んじまったからな)
グレイは己一人であれば、もう死んでも良いと考えていた。生きる目標をとっくに見失い、ただただ惰性で生きてきた。その上、自分のせいで両親も友も全て無くしたことが分かり、若き日に将来を誓っていた相手がずっと自分に恨みを晴らす機会を狙っていたことを知った。グレイは彼女の――シエル—―の望み通り、ここで死にたいと思う気持ちで全ての力を失っていた。だが、それに他人を巻き込むことは、彼の矜持に反していた。
「どうしましょう。このままでは……」
ルナが泣きそうな声で繰り返す。
「まずは静かにしろ。奴らに気づかれる」
ルナの口を押えて遺跡内に響く音に耳を澄ます。
(5、7、9……数はそこまで多くない。動きもまばらで統率も取れていない様だ)
この分だとボスも頭が良い魔物では無さそうだ。いける。
「ルナ、俺の言う通り動けるか? ここを出るぞ」
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