Sky World Migratory(スカイワールドミグラトリー)

モッチン@パラディワークス

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2.ルナ

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『なんでシウニキス一家が現れたんだ! 奴らの航路は避けたはずなのに!』

 定期船の船長が悲鳴を上げた。そうだ。彼は情報を集め、最も避けるべき空賊であるシウニキス一家が通るはずのない航路を進んでいたのだ。だから、この状況になっているのは恐らく自分のせい……。桃色の髪をした女性—ルナ―は思わず目を瞑った。このままでは関係のない人まで巻き込んでしまう。そうなる前に……私は……。

「船ちょ……」

「何か突っ込んで来るぞ!」

 船長に声をかけようとした瞬間、他の乗組員が叫ぶ。その一瞬あと、空賊船とは反対の空から二つの物体が船の看板に衝突した。……いや、衝撃は無い。よく見ると物体は二人の人間であり、看板に衝撃を与えずに着地をしていた。

「相変わらず、お前の魔法はスゲエな」

 二人のうち一人の黒髪の青年が、もう一人の水色の髪をした娘に話かけた。娘は聞いているのか聞いていないのかわからない態度で青年に何かを促す。

「ちっ、わかったよ。……船長はどこだ?」

 青年が周囲に問うが誰も答えない。当たり前だ。空を飛ぶ『魔法』なんて出てくるのはおとぎ話だけだ。だが青年はそれを意に介さず続けた。

「俺たちは『渡り鳥』だ。俺たちがあの空賊を追っ払ってやる。雇う気は無いか?」

 この船の全員にとって渡りに船の提案だ。ありがたいことこの上ない。この上ないが……あんな得体のしれない連中など、もしかしたらシウニキス一家より危険かもしれない。それを思うと誰も声をあげることは出来ない。

船長に至っては二人に自分の姿を見られまいと、総舵輪の影に頭を抱えて隠れている。だが、ルナは叫ばざるを得なかった。

「私が雇います! 海賊を退けることと、その後の私の旅の護衛を!」

 ルナには理由があった。彼らにすがる理由が、彼らが海賊を倒せると思う理由が。……だが、そんなルナの言葉に青年が舌打ちをして返す。

「護衛だと? そんな面倒な仕事は御免だ。奴らを追い払う。俺たちがやることはそれだけだ。それに見合う報酬を用意しておいてくれ。」
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