わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

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1章 異界の地

第七話 冒険者達

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 ボディービルダーかと思うような肉体を震わせ大男が笑う。

 「いやー悪い悪い。しかし坊主も気配消してるんだからしかたねーよな、あーはっはっはっは」

 笑い事ではない。俺はこの巨体のマッチョに危うく真っ二つにされかけたのだ。
 気配を消す様な高等技術なんかねーよと言ってやりたかったが、余り自分の事を喋るのは不利になる気がして言葉を呑み込んだ。
 猛獣並みの大口を開け大笑いしていた大男が、アネリアを見ながら頭を下げた。

 「アネリア様、この事は出来ればシレミナ様には…商会に睨まれたら俺ら町には居られなくなりますんで…」
 「わかっています。誰一人怪我も無かったのですから大事にする事はありません」

 アネリアの言葉にほっとしたのか大男と仲間の三人が焚き火を挟む場所に腰を下ろした。

 「ところでアネリア様…こんな場所に何故?それにこちらの方は?」

 ローブを目深に被っていた大男の仲間がローブを払い見事な金髪を月下の元に晒す。

 (…女性だったのか…)

 俺はその見事な迄に整ったローブの女性の容姿に感心した。
 アネリアが現状を説明すると四人の顔に驚きの表情が現れた。

 「行きあたりばったりじゃねーな」
 「ええ、それにダイノ達が殺られたとなると…かなりの腕前ですね」

 どうやらアネリア達の護衛は腕の立つ冒険者だったようだ。
 彼等四人はサージェの町を拠点にしている冒険者で、依頼達成の報告をする帰り道だったようだ。
 アネリア達が襲われた街道は通らず、近道の雑林を通ってきたので襲撃された痕跡を見ていなかった。
 ロールプレイングゲーム等でお馴染みの冒険者とは、互助組合のあるなんでも屋と言った職業ではあるが、この世界にはかなりの人数の冒険者が存在してるようだ。
 互助組合とは言ったが、冒険者を管理する冒険者ギルドは巨大で、国を跨ぎ機能している。
 アネリアが言うには百数十年前迄は村や町等で仕事を斡旋する、個人営業の場所が冒険者ギルドの始まりだった。
 当時は今の様に組織(現代で言う会社)に属している証明書のようなものは無く、"誰それの紹介で"と言ったかなりアバウトな関係で仕事が行われていた。それが今の様に冒険者ギルドに属している証明書(冒険者タグ)が発行されたのは、増える冒険者の質から起きる依頼者とのトラブルが原因で、元々責任感の無いならず者が食うために仕方無しにする仕事に、何ら期待が持てないのは考えるまでも無かった。
 増えるトラブルに国も傍観するわけにも行かず、冒険者ギルドと話し合い、今の様なシステムが出来上がる事になる。
 冒険者には明確なランク分けをして、ギルドが依頼に対して的確な実力を持った冒険者を派遣する…と言った形を取ったのだ。
 国から見ても人を管理をする見地からも都合のよいシステムだ。
 基本的に冒険者はどの国にも属さない放浪者が多く、自身の身分さえも証明出来ない者から税を取るためには、仕事を与え身分を明確にする事は必須だったので有る。
 グレイヤード王国の税率は地方を統治する領主に課され、前年度総収入の三割。
 とは言え、農民等は所謂"小作人"が大半で、自分の土地を持つ者はほぼ皆無らしく、この場合領地を管理する貴族が有る程度の税率の割合を変える権限を持っている為、領地によってはかなり厳しい生活を余儀なくされる。
 専制君主制や王政の国ではお馴染みの制度だ。
 国に属さない者からは大概期限付きの入国税を取るのだが、稼ぐ事が出来なければ払う物も払えないのは道理なので、冒険者ギルドのようなシステムは救済措置として有効だった。
 捜し物から鉱山労働、魔物討伐や護衛と子供から出来る依頼を斡旋する。
 それでも働らかず税を払えない者は強制労働で税を払うことになる。
 今焚き火を挟んで座る四人の冒険者達はギルドの定めたランクだとDランク。
 ギルドランクはABCDEFGと分け、Aを最上位にBCと続いてGが見習い的な位置付けになる。
 今、目の前にいる四人は中堅どころの冒険者と言ったところだろう。
 岩の様な大男は幅広の剣を帯刀している。
 後の三人は弓やナイフ、剣と言った武器を持っていたが、ローブの女性は見た感じ武器らしき物をたずさえていなかった。

 (ローブ姿って事はひょっとして魔法使いなのかな…杖とか持ってればそれらしいんだが)

 魔法使いには杖と言う概念自体、自分が生きてきた世界では映画や小説、アニメやゲーム等のファンタジーな制作物由来だ。
 魔法使いが杖等を持つのは様々な理由付けはされていたが、この世界では杖は必要無いのかもしれない。

 「私達は少し休憩してからサージェの町に向かいますが、アネリア様はどうなさいますか?」

 アネリアがチラッと俺を見てゆっくりと首を横に振る。

 「私達は…無理をせずこのまま明るくなる迄休もうかと思います」

 フードの女性が頷く。

 「分かりました。ではサージェの町に着いたら警備兵と商会への連絡は私達がしておきますので、アネリア様達は余り無理をせずに御戻り下さい」
 「ゲダさん、取り敢えず俺達も休憩して飯食いましょうや」

 弓を携えた男が筋肉質な男に腰から下げた鳥を見せながら提案する。

 「そうだな、取り敢えず食うか。アネリア様達も一緒しませんか?コラム鳥が取れたんですよ」

 筋肉質の男がニカッと笑った。

 「まぁ、コラム鳥!頂いて宜しいのですか?」

 かなり貴重な鳥であろう事はアネリアの表情で分かった。

 「大勢で食う方が飯は美味いですからね。坊主も食え食え」

 坊主と呼ばれたのが自分だと気付き慌てて俺は頭を下げる。

 「あ、ありがとうございます。何か貴重な鳥のようで恐縮します」
 「お…おう 坊主、おめえ実は貴族とかじゃねえよな?」

 ゲダと呼ばれた筋肉男が警戒の目で俺を見る。

 「いえいえ…多分貴族では無いと思います…」

 ゲダと俺の会話を聞いていたアネリアがクスリと笑う。

 「ゲダさん、先程も説明しましたがユージ様には本当に記憶が無いようなのです…言葉遣いや装備品から推測すれば確かに貴族…又は王族の可能性も有るのですが」

 金髪のローブの女性が俺の顔を覗き込む。

 「そうですね…黒髪は南の大陸の民の特徴ですから、ひょっとしてルタエル大陸の生まれかもしれませんね…手や顔を見た限り戦闘とは無縁の育ちをしてきたのでしょうね」

 そりゃあそうだ、元の世界でも武道や何らかの暴力的手段を取る人種の面構は、サラリーマンの能面顔などにはならない。
 目付きは鋭いし、何と言っても暴力的匂いに満ちているのだ。
 今の俺の身体は十歳程度だが、"神たま"なる者に急拵えで出来た新品なのだから、顔や身体付きから産まれや育ちなどを推測出来るものでは無いだろう。

 「まぁそうだろうが…いや、やけに言葉使いが丁寧と言うか…いや、わりいな坊主気にしないでくれ」
 「あ、いえ大丈夫です」

 この筋肉の鎧を纏ってる大男が四人パーティーのリーダーのゲダ。ローブの女性はやはり魔術士でロゼ。
 弓を持つ男はバリヤ。腰に短めの剣と数本のナイフを持つ男の名はジャンと名乗った。
 そのジャンが手際よく焚き火を手頃な石で覆い、簡易の竈門を作り金属製の網を乗せると、バリヤがいつの間にか捌いた鳥を網にに乗せる。

 「バリヤ…先にスープ温めないでどうするのよ…」

 ロゼの抗議にバリヤがニヤリと笑う。

 「なーにスープなんて冷めてても飲めるが鳥は別だろ?俺はこいつが早く食いてーんだよ」

 ロゼは諦めたように溜息をつく。

 「アネリア様、冷めたスープ…お飲みになります?」
 「ええ、戴くわ ありがとう」

 ロゼが金属製のカップをアネリアと俺に差し出す。
 礼を言ってから俺はカップを傾け少し口に含むと松茸の御吸物のような香りと味だった。

 「…冷めてても美味しいですね…茸のスープですか?」
 「ええ、当たりよ。ヒラキヤのスープなんだけど、塩味が強いのは仕事中だからなの。町で飲むスープはもっと塩味は薄いわよ」

 なる程と頷く。
 肉体勝負の冒険者には塩分は必須なのだろう。

 「さーてお待ちかねのコラムがいい焼き加減ですぜ」

 (はてさて…アネリアでさえ珍しいと言う鳥の味…楽しみだな)

 香ばしい匂いに何かもう食欲以外なんとなくどうでも良くなっていた俺だった。
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