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1章 渡る異世界は魔物ばかり
第三十話
しおりを挟む「…これは?」
ギルドの査定カウンターで渡された冒険者タグを見ながら太郎は眉を顰める。
やけに輝くそのプレートは、鉄等級の冒険者タグではない。
今回のダンジョンの成果で多分等級が上がるだろうと予想はしていたが…
「太郎様とハンナ様はギルドへの貢献度、実力共に鉄等級では不足だと判断いたしましたので、銀等級へ昇格致しました」
ニコニコと太郎達を見るギルド職員。
「……昇格するのは嬉しいが飛び級は不味くないのか?」
「はい、不味いです。が、ギルドマスターの一存で決定しました。本来銀等級への昇格には試験が有るのですが、それも無しです……」
いや あのギルドマスターなにしてくれてんだよ。
どう考えてもゴタゴタが有る未来しか想像出来ない。昨日迄銅等級の奴が1日で銀等級のプレートを首から下げてたら間違いなくやっかみや要らぬ疑惑を他の冒険者に撒き散らすだろう。
確かに魔石の納品数や、塩の1件でギルドに多大な利益を齎してはいたが…もう少し我々に配慮があっても良いんじゃ無いのか
「私としても今回の昇格に色々思う所は有りますが、実力有るものが相応の等級に上げるのは賛成です。まぁ今回はかなり端折りましたが」
買い取り責任者のロナウドが苦笑しながらカウンターの上に鑑定結果と宝石類の査定額が書かれた明細書を滑らす。
「こちらが今回お預かりした装備品と魔法のパピルスの鑑定結果。魔石と宝飾品はギルドでの買い取り価格になりますが、3点程オークションへ出した方が良い宝石が有りましたが、如何致しますか?」
「オークション……ギルドで肩代わり出来るか?」
「手数料は頂きますが可能です」
助かる と太郎はギルドにオークションの件は任せることにする。
魔法のパピルスはハンナの予想通り"闇"属性のパピルスだった。
闇属性のパピルスの発見は初めての事らしく、国の買い取り価格が不明なので暫く時間がかかるらしい。
勿論パピルスの写しは発見者に渡してくれるらしいので全く問題は無い。
その他の魔法パピルスはギルドへ売る事にハンナと話し合い決めた。
問題は装備品だった。
キロスの短剣(スピード上昇+2)
炎帝の短剣 (ヒット時炎ダメージ)
銀の指輪 (効果なし)
金の指輪 (効果なし)
セトの指輪 (随時魔力回復+3)
アナの腕輪 (全状態異常抵抗+2)
セトラのサークレット(魅力+1)
「……うーん…どう思うハンナ…」
「……全て私達で保管していた方が良いと思います」
「効果ない指輪もか?」
ハンナが肯くので全て引き取る事にした。
「あ、それと闇のパピルスの写しは2枚貰えないか?」
「1枚は発見者に無料でお渡し出来ますが…まだ闇のパピルスの価値が分からないので写しの価格が定まりません」
成る程。確かに道理だ。
「分かった。価値が分かったら知らせてくれれば良い」
闇のパピルスと3点のオークション行きの宝石以外の査定額の合計。
白金貨32。大金貨8。金貨3…
32億8千3百万。
流石の冒険者ギルドでも、この金額を直ぐには用意出来ないと言うので、査定額の全てをギルド貯蓄にすると、ロナウドが何回もすまなさそうに頭を下げていた。
実際太郎の次元マーケットの残額は2億近かったし、ハンナのマジックバックには未だ8億以上入っているので、全く問題無かったのだ。
装備品と闇魔法のパピルスを、太郎のマジックバックにしまい込むのを見たロナウドが一人の女性ギルド職員を紹介して来た。
「太郎様ハンナ様。こちらは今日から御二方専属の職員になるミリィスティアです」
紹介された女性がペコリと頭を下げる。
「始めまして。太郎様とハンナ様専属に指名されたミリィスティア…ミリィスティア・アーバインと申します。以後宜しくお願い致します」
太郎は少し肯くが、隣のハンナは何事かびっくりしたような顔をして、口に手を当てていた。
それを見たミリィスティアが微笑む。
「太郎様は知らぬかと思いますが、私はラムスを治めるロワイド・アーバインの次女です」
「……成る程。貴族って事か」
「はい。おっしゃる通りです。ですが太郎様とハンナ様に接する時はギルド職員として対応致しますので、余計な気遣いは必要有りません」
ハンナがカクカクと肯く。
「あの…ロナウドさん何故私達に専属職員が……」
ハンナが恐る恐るロナウドに尋ねる。
「確かに専属職員が付くのは金等級からですが、太郎様の特殊な事情を考えれば事情を知っている職員が対応した方が宜しいとギルドマスターの判断です。…それと今回のパピルスの発見で太郎様とハンナ様の名は王家に伝わる事になりますので、ミリィスティア嬢と親しくする事は御二方にとって損にはならないと思います」
「俺の事情は貴族や王家に知られてるのか?」
「いえ。まだ知られていませんが、何れ知られるかと。この町を治めるアーバイン家は色々と事情が有る貴族ですので、間違いなく太郎様の不利になる事はなさらないでしょう。ミリィスティア嬢には、ここで知った事を他に洩らさない様な制約魔法を同意の上で交わしてあります」
成る程。準備は抜かり無いようだ。
「分かった。じゃあ今後宜しく頼むよミリィスティア嬢」
「はい。お任せ下さい」
「…………それで太郎様。少し塩の一件でお話したいのですが…」
ギルドから釈放されたのは午後の4時を過ぎていた。
ラムスの町の大通りを歩く2人。
「明日は家具の搬入とかで忙しいだろうし、数日は町で過ごす事になりそうだな」
太郎をこの世界に送った女神を自称する存在は、太郎に自由に生きろと言った。
自由が何を指しているのかは不明だが、太郎の認識ではかなり自由に生きている認識だ。
当然太郎は国と言う組織の一部で、他人との繋がりは太郎の行動に間違いなく影響を与えはしているが、それは仕方の無い事だと思っている。
それさえも嫌なら、一人で生きるか死ぬしか無いだろう。
(ああそうか……今まで余り考えた事が無かったが、若い奴が自殺するのは自由になりたかったんだな…)
太郎は苦笑する。
余りにも幼稚だ。人間には体が在り、考える脳味噌がある時点で自由等無いのに…
そのうち奴らは息をするのも不自由、飯を食わなきゃならねーのも不自由だとほざくのだろう。
太郎は隣を歩くハンナを見る。
(どうだこの女は!最高だろ!息をして、飯を食うし糞もする。死にたい奴は勝手に死にやがれ!)
女神さんよ。あんたにどんな目論見が有るか無いかもわからんが、言葉通りに自由に生きてやるよ。
後になって後悔するなよ女神さん。
太郎はハンナの肩を掴み引き寄せる。
「…太郎さん?」
「ハンナ。これからも楽しくいこうぜ」
傾いた陽の光が太郎の顔に浮かんだ獰猛な笑みを照らす。
その笑みを見たハンナは、薔薇のような微笑みを浮かべながら太郎の体に更に身を寄せるのだった。
(あらあら良いわねー少し羨ましいわね)
女神は巨大な積層多面鏡を覗いていた。
「これこれ、女神が出歯亀かね?少し関わり過ぎでは無いかな?」
後ろから声に振り返る女神。
「あら。えらい言われようね。監視するのは父の要請よ?」
「ふむ…我等が父もエギノクスとの盟約が有る故、かの者に過度の恩寵をお与えになったが…少しばかり過保護では無いか?」
女神はクスクス笑う。
「御兄様、あの者は既にテウロスの試練を突破しましたわよ?」
「な…なんだと…加護が顕現したのか?」
「顕現したのはオルニウスの第3位だけですが、しっかり顕現してましたわ」
「……成る程……後はミベーシアだけか……エグノクスの加護はどうなんだ?」
「第2階位ですからまだまだですわね…ミベーシアの加護も多分近々解放されるかと」
「それもそうか……少し父と話して来る。程々にしておけよ?」
「はいはい。行ってらっしゃい御兄様」
一人になった女神が腰を下ろす所作をするとソファーとテーブルが現れる。
ソファーに腰を下ろした女神はテーブルに乗るカップを手に取り、口元に運びカップの中身を飲む。
「ふふ。御父様も面白い事を為さるわね…久し振りにワクワクするわ」
腐り森の中を騎士達が歩いていた。
大陸北東に有る二つのA級ダンジョンの更に東に在る腐り森。
その森を進む騎士達の中心にはローブを身に纏った30人程の魔法使いがいた。
「ふむ……流石にこれ以上は今の装備では無理じゃな…」
中心にいたローブの男が呟く。
「…レクスタ様もう帰りませんか?」
「ん?何じゃ疲れたか?」
「いえ、そうじゃ無くて…もう5日もお風呂に入れてないんですよ?こんな不潔な私が許せません!」
「そ、そうなのか。ん~~もう少し調べるつもりだったが…仕方ないのう」
レクスタの横に立っていたソバカスの目立つ、可愛い顔をした女性がホッとした表情を浮かべる。
大陸にその名を馳せる大魔法使いレクスタ・エイフラードは周りの騎士達に帰還の号令を発した。
雨で泥濘んだ道を一人の男が走る。
「ちくしょう!奴ら無茶苦茶しやがって!。早くギルマスに知らせなきゃ…」
王国最南端に在るマッセの町から走り続けた男の顔には疲労の表情が見えている。
小一時間程走ればポタ村に着く。
男の名はラング。ポタ村を拠点に活動している冒険者だ。
ラング達は依頼を受け、マッセの町のゲドウ準男爵邸に赴いたのだが…
「くそ!!くそ!……ミンダ、ナザレス……お前等の仇は絶対とる!絶対だ!!」
疲労が浮かぶ顔に不釣合なギラギラとした目を見開き、ひたすら泥濘んだ道をポタ村を目指し駆ける一匹の修羅と化した男がいた。
※第一章終了。次話からは第二章に入ります。
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