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1章 渡る異世界は魔物ばかり
第十八話
しおりを挟む太郎は以前から気になっていた事をハンナに聞く。
「なぁハンナ。お前んとこの実家って、そんなに生活厳しいのか?」
遠慮ない太郎の質問に少しハンナが考え込み、太郎に自身の状況を話し出す。
ハンナの実家は馬車で5日程行ったポタ村にあり、実家は農業をして生活をしていたのだが、数年前父親が魔物に襲われ死亡。ハンナの下に十四歳の妹。その下には11歳(女)、7歳(女)、5歳(男)といるが、男手を失った家族を支える程の収入を得る事は難しかった。
魔物に荒らされた畑から収穫出来たのは僅かな作物だけだったので、不足分を借金する事になった。
その借金先がポタ村を管理する地主なのだが、そこの次男に目を付けられていたハンナの妹。
地主の次男は、その性格、暴力性から誰からも嫌われていて、当然ハンナの妹も嫌っていた。
そして、当然のパターン通り"借金を~"と言う良くある話になる。しかしながら、ハンナの妹はまだ未成年の為に地主の次男も、流石に強引に手を出す事も出来無い代わりに、ハンナの家族に嫌がらせをし始めたそうだ。
畑は嫌がらせで荒らされ、収穫が減れば当然月の返済に困る様になる…
………ヤクザの良くやる手口だな……
聞いた太郎は耳が痛かった。
「成る程…それでハンナが町に働きに出てきたわけか」
「はい……」
「………どの位借金があるんだ?」
「母さんは余り話してくれませんでしたが、多分金貨20枚程じゃ無いかと思います」
「20枚(200万円)?……一体何でそんなに?」
「わかりません……」
利息が付いてるのか……わからんな…
「よし、青銅ダンジョンで稼ぎまくってハンナの家族共々ラムスに呼ぶか」
「あの…借金は私の家族の事情なので太郎さんにご迷惑は…」
「何言ってんだ。一度情を通じて、信用もした女の家族は俺の家族も同様だろ」
「…………………」
「余り深く考えるな。いざとなれば力技でやるのが極道の強みだからな」
そう、今の太郎には組と言う背負う枷が無い。こいつは太郎にとって強みになる。
精々背負っても、ハンナの家族を含め7人程度。今の太郎なら余裕過ぎる。
「……わかりました。太郎さんに全て任せます……宜しくお願い致します」
「ああ、その代わりハンナは俺のものだからな」
太郎の敢えてゲスな言葉にハンナは優しく微笑むのだった。
取り敢えず金の方は何とでもなる。
前に一度思い付いてやらなかった方法なのだが、次元マーケットでの塩の売買だ。
「ハンナ、塩の販売って個人で可能か?」
「商業ギルドに登録すれば可能かと……」
「冒険者ギルドと商業ギルドの2つには同時に登録出来るものか?」
太郎の疑問にハンナは、"可能だと思う"と答えたが、余り良い顔をされない可能性がありそうだとも。
まぁ、それは当然かもしれない。商業ギルドでも魔石の買い取りはしているし、獣の肉や素材の買い取りも双方のギルドで行っているからだ。
「冒険者ギルドで塩の買い取りとか出来るかな?」
「……塩の買い取りなんて、聞いたこと無いですね」
だろうな……
「直接聞いたほうが早いな」
太郎はハンナを連れて、一先ず宿の部屋に戻る。
「何をするんですか?」
「次元マーケットで塩を買ってこちらの世界で売り捌く」
「……塩をって…高いんじゃ…」
「確かに、こっちの世界じゃ高いな」
「…………………」
太郎はマーケット画面から食料→調味料の画面から特売の塩を選ぶ。
1キロ、3キロ、5キロ、10キロと種類があったが、先ずは家庭で良く買う1キロ詰めの塩を購入した。
テーブルの上に塩の袋がドサリと落ちた。
「………この白いの塩ですか?」
「ああ塩だ」
太郎は袋を切って木皿に塩を少し盛る。
「舐めてみな」
ハンナは恐る恐る木皿の塩を摘んで口に運ぶ。
「!塩です……その袋でいくらするんですか?」
「一袋銅貨1枚だ」
「えーーー!」
以前マシュタールに聞いた塩の値段。1つまみ銅貨五枚程とすれば…
1つまみ役0.5グラムだとして、銅貨五枚×200……金貨1枚
くっくっくっ……スゲーぜ白い粉は
「……これ大量に売ると、何か問題起きそうですよね…」
このハンナの心配は太郎も考えた。
「取り敢えず塩持ってギルドに相談に行くか…その前に…」
太郎はマーケットで厚手の紙袋を買って塩を移し替えた。流石にプラスチック製品はこの世界には無いからだ。
少し考え込み太郎は砂糖も1キロマーケットで仕入れ紙袋に移し替えた。砂糖は350円程した。
指先に少し砂糖を付けてハンナに舐めさせた。
少し躊躇う仕草をしたハンナが舌を出して指先の砂糖を舐める。
口の中に入れて直ぐに目を丸くする。
「な、何ですかこれ!甘いですよ!」
「砂糖だ」
「……もう少し貰って良いですか…」
太郎はニヤリとしながら人差し指にたっぷりと砂糖をまぶす。
ハンナの喉がゴクリと鳴り、人差し指を咥え込む。
「おほぃ…しいです~」
………シャブ中の廃人かこいつは…
何時までも舐めるハンナの姿を見て、笑いを堪えるのに苦労する太郎だった。
「……塩…ですか?」
ギルドの買い取りカウンタの受付嬢が眉を潜める。
「太郎様が実物を持っていると言う事でしょうか?」
そうだと答えると受付嬢が黙り込む。
「あの、もし太郎様が岩塩の採集場所を発見したとなると、領主様に報告しなければならないのですが…」
「ほう…塩は国や領主の管理なのか…」
「はい。大量の採集場所の発見…と言うのであればですが…」
「……例えば、例えば仮に、スキル的な物で塩を作れるとしたらどうなるんだ?」
「………さぁ……前例が無いので……」
太郎は塩が採集したものでは無く、スキルで得たものだと言うと、受付嬢は押し黙り"少しお待ち下さい。責任者と相談して宜しいでしょうか?"と太郎に確認をとった。
太郎が肯くと、受付嬢は他の受付嬢にカウンターを任せ、奥の部屋に入って行った。
少しして奥の扉が開き先程の受付嬢が現れた。
「太郎様。右の部屋にお入り下さい。ギルドマスターと、買い取り責任者がお話しを伺いたいとお待ちです」
肯いた太郎はハンナを連れて右の扉を開いて入るのだった。
以前に入った部屋のテーブルを挟み、太郎とハンナ。ギルドマスターと買い取り責任者が椅子に腰掛けテーブルの上の塩を見詰めていた。
買い取り責任者の名前はロナウドと言う男で、木皿に少量移した塩を指先で掬い上舌の先で舐め取る。
「確かに塩ですね……しかし、何でこんなに白いのでしょうか…」と眉を潜める。
「さあな…」
腕組みをしていたギルドマスターが太郎に質問をする。
「朝倉太郎。お前はこれをスキルで作ったと言ったが間違いないか?」
「スキルなのは間違いない。詳しく話しても良いが、聞いた話を漏らさない保証は有るのか?無ければ話せないな」
「だろうな……基本的に冒険者個人のスキルを公表する決まりなど無いからな…」
ギルドマスターとロナウドの話し合いが少し有り、基本的に買い取る方向で話しが纏まったようだ。
「本来塩の取り引きは貴族の管理下にあるのだが、それは既存の岩塩を基準にしている。お主の言うスキルで作ったのが真実なら、この塩は別物だろう。私もこれだけ澄んだ塩は初めて見た…」
ギルドマスターはそこで一息つく。
「取り引きを行うにあたって、お前のスキルの事を出来れば知りたい。情報が漏れないように楔の契約書を作成するが、それで構わないか?」
首を捻る太郎を見たロナウドが契約書の説明をしてくれた。
契約したい内容を記入した契約書を作成後、互いに(契約内容を知る者)サインをする事による魔法的な契約で、契約後その内容をサインした者以外に伝える(話す、書く)事が一切出来なくなる魂?に刻む魔法らしい。
太郎がハンナを見ると"間違い無い"と、その説明を裏付けた。
「分かった。それで良い」
太郎が肯くとロナウドが契約書の作成に移った。
「所で太郎。この塩はどの位用意出来るのかな?」
太郎の今の所持金が金貨六枚程だから…
「6000キロ位かな…」
太郎の言葉に契約書を作成していたロナウドの手が止まり啞然とする。
「6000キロだと……流石にその量は買い取れんぞ…」
「まぁそうだろうな。どの位買い取れる?」
「そうですね…塩は需要が有るので、ギルドと伝がある店に卸すとして…1000キロ程でしょうか」
中間手数料を引かれる事を加味すれば卸値は販売額の5割程度…1トンだと…金貨500枚ほどにはなりそうだな。
「因みに1キロ辺りどの位で買い取れるんだ?」
「そうですね…現在の塩の相場を考えると…1キロ辺り銀貨七枚程でしょうか」
「成る程。塩の平均相場だといくら位だ?」
「平均相場だと銀貨5枚程で買い取る事になりますね」
「そうか、こちらは緊急に金が必要だし、今後の事を考えて平均相場で構わない」
「……宜しいのですか?」
太郎が肯くと、ギルドマスターが笑い出す。
「緊急に金が必要な割にがっつかないのは大したものだな」
「そりゃどうも……」
ロナウドが契約書を作り終え、内容を互いに確認する。内容は…
1 冒険者ギルド代表 エリュス・ミランディア及びロナウド・ミッターは朝倉太郎及びハンナ両ギルド会員との買い取り契約をここに契約する。
2 買い取り契約を行う全ての事柄に際し、互いが知った如何なる情報も、契約書に記された名前以外の者に如何なる状況においても、知り得た情報を漏らす事を禁じる。
3 買い取り価格において、その都度ギルド側より金額を提示し、双方納得の上に取引を行う。
4 上記 1項及び2項及び3項を破る事を、この契約書(魂の契約)において双方全ての者のサインを記した後、祝詞により上記全ての契約が果たされる。
以上の事柄を冒険者ギルド買い取り責任者ロナウド・ミッター製作の楔の契約書において行う事とする。
※ 契約者名 4名
1
2
3
4
太郎は契約書の抜け道が無いか確認をする。どうやら太郎が見た限り大丈夫のようだ。契約書を見ていたハンナも太郎を見て肯いた。
「これで構いません」
ロナウドが肯き、契約書をギルドマスターの前に差し出すと、サインを記していった。
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