おっさん極道異世界を行く

左鬼気

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1章 渡る異世界は魔物ばかり

第十五話

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「少し前にも来たが、立派な教会だよな。どんだけ金掛けてやがるんだ」
 
 太郎の言葉にハンナがクスクスと笑う。
 ハンナの説明によれば、元々大陸北部(現オルトラス帝国)に伝わるマタイラ神話が大陸全土に広がったわけだが、その中でも有名な七柱を祀ったのが教会なのだそうだ。
 巨大な正門は早朝から陽が沈む迄は開かれているが、それ以外の時間帯は正門横にある通用門を使用する。基本的に教会は冒険者ギルド同様、年中無休と言うブラック企業らしい。
 二人中に入ると、ハンナが"少し待ってて下さい"と言い残し、礼拝堂横の扉をノックする。
 扉が開き、薄紫色の修道服を纏った修道女が現れると、ハンナと二言三言話した後太郎に視線を移し、小首を傾げたのだった。


 修道女の案内で薄暗い小部屋に案内された太郎は、奇妙な図案が描かれた巨大な石板の前に立たされていた。
 
「この石板の上に手を置けば良いんだな?」
「はい」

 そう答えたのは、先程の薄紫色の修道服を纏った修道女だ。
 太郎は石板に手を当てる。
 すると石板に刻まれている図案が、太郎の掌の平の中央から光の軌跡を描き、いくつもの枝分かれを経て末尾へと至った。

(……あみだくじだろこれ…)

「珍しい属性をお持ちですね。太郎様、貴方の属性は闇属性です」
「……闇は珍しいのか?」
「はい、闇属性は一般的に余り良い認識をされていませんが、全ての属性が混じった属性なのです」

 つまりそれはどう言うコトなのかと聞くと、火 風 水 土 無 聖 の全ての属性魔法が扱える稀有な属性が闇属性と言う事らしい。

 修道女の説明に、ハンナはぽかんとした表情を浮かべ、修道女も"私も初めて見ました"と、びっくりしていたのだ。
 さて、そこから魔法を覚える手順は簡単だった。
 修道女が用意してくれた六つの初期魔法のスペル(綴文字)が書かれたパピルスを、礼拝堂に祀られている彫像に捧げる事で覚えられると言う謎仕様。まぁ六つなのは、闇属性の魔法が不明だからだそうだ。
 長ったらしいスペルを覚えなければならないかと、一瞬頭が真っ白になったが、ハンナの説明で力が抜け、壁に凭れ掛かる程安堵したのだ。
 彫像の姿は全て似たような姿で、名は有るのか?と言う質問にハンナは首を振る。
 神々の名を軽々しく人が口にすべきでは無いってのが理由らしい。

(神界第五席のアステリアさんよ、この辺りどうなんだ?)

 正面に一体。左右に四体づつ……ん?数が合わない……
 太郎の怪訝そうな表情を見た修道女が説明をしてくれた。

 正面には創造神。右壁四体には聖の神、水の神、無の神、金の神。
 左壁には、闇の神、火の神、風の神、土の神が立っているそうだ。
 先程の説明には無い金属性とは何かを聞くと"闇と同様に不明"らしい。
 つまり、マタイラ神話に登場はするが、どの様な神であるか迄は伝わってないのだそうだ。
 どんな神様か分からないんじゃ、確かにスペルが書かれたパピルスなど存在する筈もない。
 納得した太郎は渡されたパピルスを順に捧げていく。先ずは聖の神の彫像の前に立つ。
 彫像の前に置かれた台にパピルスを捧げ置くと、パピルスは青白い炎を上げ消失する。

(………こう言う事か……)

 燃え尽きたパピルスに書かれていたスペルは、太郎の記憶にしっかりと刻まれている。忘れようも無い程しっかりと。

「覚えられましたか?」
「ああ……凄いな…」

 修道女が優しく微笑む。

「やはり、闇属性は全ての属性を使えるのですね……兎に角前例が無いので不安でしたが…」

 そう修道女が呟くのを聞いた太郎は考え込む。稀有な能力は要らぬ諍いを呼び寄せないか?

「…俺の属性の事は……」

 太郎の心配を察した修道女は肯く。

「私が言い広める事はありません。ありませんが、冒険者をなさっている以上、何れ周りには知られると思います」
「……ですね」

 うーん、こうなったらバレる前に稼げるだけ稼いで、何らかの商売を始めるか…
 
 全てのパピルスを捧げ終えた太郎は、御礼に金貨二枚を修道女に御布施として渡すと、たいそう感謝されたのだった。
 
「太郎さん。せっかく教会へ来たから、私も水の神様に御祈りしてきます」
「ああ、俺もせっかくだから闇の神に挨拶しとくか…」

 太郎は、闇の神の彫像の前に立ち手を合わせる と、辺りの音が消えた。
 突然の事に慌てて周りを見渡すが、別段おかしな事は起きていない…いや、起きていた。
 修道女やハンナ、正門から見える町の人々の動きが止まっていたのだ。
 何が起きている!?

(お久しぶりです太郎さん)

 頭に直接響く声に太郎は身構える。

(ちょっと そんなに警戒しなくても良いんじゃ無いですか?酷いと思いますが…)
「………まさかその声……」
(はい、アステリアです。お久しぶり…ですかね?)
「………何でお前がいるんだ…」
「いやー……業務中に記憶にある想いが届いたので、な、なにかなーって……」

 どうやら彫像前で祈った太郎のなにか・・・を感じたアステリアが興味本位で現れたらしい。

「……お前って闇の属性神だったのか?」
(え?何ですかそれ……前にも言いましたが、私は二つの世界の魂の管理業務をしている女神です)

 太郎は現在の状況を話すと、女神は"ああ、なるほど"と納得したようだ。

「えーとですね……」

 アステリアの説明だと、そもそも人の言うところの属性神等は存在しないし、元来人は全ての魔法を使う事が可能だと暴露しやがった。

「大体そのマタイラ神話ですか?それってただの権利者の都合が良い様に作られた話ですよね?確証も無い不明な出来事や不安を、都合良く収める為のただの戯れ言ですよ ぷぷぷ」

 何やら上から目線の言葉にイラッとした太郎だが、せっかく神と交信出来たのを、これ幸いと色々質問する。

(そもそも属性検査で現れるのは、個人レベルで最も得意な魔法が、人のカテゴリー分けされた属性と言う形で表される魔法の一種のようですね。いやー面白い事しますよねー人間って)
「…………………」
(魔法を覚えるやり方も面白いですよね?太郎さんが覚えた方法だと、祝詞の初めに"イェ・ル・ケルデュス"と言う文言があった筈ですが、それは私達の言葉で"我・それ・満たせ"と言う意味で、確かに魔法のスペルを覚えるには効果的な祝詞ですね)

 うーむ……では、魔法とは何だ?何故魔法を使い続けると疲れるのか?
 
(あー……そうですね…簡単に言うと想いの力って感じかな?詳しく話しても多分人には理解出来ません。それと、何故疲れるのかって話ですけど、そりゃあ人は立ってても疲れるし、考え込んでも疲れますよね?それと同じです。ただ、肉体と精神の個人差がありますから…本来魔法を覚える(識る)と言う事は、人種にとってかなり負担が大きいの。例えば、そちらの世界のエルフと言う種は脳の構造が人と違い、魔法を処理する領域と記憶する領域が人間より広く取られているので、魔法をより上手く使えるのですが、それにも欠点はあって、魔法を処理する領域が広いが故に感情等を処理する領域が狭くなっていて、感情の起伏が乏しい種属になってしまっているのよ。まぁ…簡単に言えば絶対的な脳の容量不足って事です)

 身も蓋もない話だな……脳みその容量不足じゃどうにもならんだろ…

「それが原因で、複数の魔法を使うのが困難って事か……」

「はい。それは魔法に限らず、スキル全般に言える事ですがね。………いやーそれにしてもびっくりしましたよ。太郎さんの思念が届いたから…魔法を覚えに来たわけですか教会に……ぷぷぷっ」

 ちっ…極道が教会に来ちゃいけねーのか。そもそも現代社会において、神仏を不断に祀ってるのは神職か、一部の企業家か極道くらいだろが。

「あ、そうだ。おめー俺の能力に何かしたろ?何だよ不老って」
(え?あー……別に問題は無いと思いますよ?あの時の私は少しパニクってまして、本来魂の転生は生誕からなのですが…まぁちょっと不幸な事故がありまして、そちらの世界に地球での姿のまま緊急コピーさせたので……ですのでお詫びと言おうか…あ、勿論肉体の方は私の力で再構築したので、女神スペックと言う特典付きです♪)

 何コイツはしれっと自分の失敗を、さも良い事のようにいってやがるんだ…
 
(それで、記憶と年齢もそのままでしたから、色々不自由があるかと思いマーケットスキル等も…)
「何処の闇マーケットだよ…何で個人武器迄あるんだっての」
(……細かい所まで気にしないのが神です!)

 成る程、大雑把って事か…だが、こいつまだ何か企んでる氣がする…何かひっかかるんだよな……

(………ふむふむ……成る程……いやー太郎さんはなかなか自由に生きてますねー。まだ数日しか経ってないのに特技に"たらし"って…ぷぷぷ。早々に煩悩全開で大変結構!)
「うるせーよ!」
(あ、そろそろ時間ですね。業務に戻りますねー。チャオ~チャオ~チャオ~)

 突如として動き出した世界の音が響く。

(…うーむ……あんなんでも神は神か……)

 御祈りを済ませたハンナが太郎のもとに近付いてくる。

「太郎さん、この後どうしますか?」
「うーん…覚えた魔法を使って慣れておこうかな」
「はい。でも流石に初期魔法なので戦闘には使えませんよ?火の場合、確か"イグニッション"ですから、小さな種火を出す魔法とかです」
「成る程………使い続けると練度が上がって行くのか?」
「はい。私の場合、手元に小さな水球を出せるだけでしたが、使い続けてようやく十メートル程先に水球を作れる迄になりました」

 どうやら、何事も修業が必要らしい。

「流石に宿の部屋では出来ないから、薬草収集のクエスト受けて町の外へ行きませんか?」
「あー…そうだな。薬草集めしながら魔法を試すのか」

 はい、と嬉しそうな笑顔を浮かべ、ハンナは太郎の腕を取る。

「いきましょう太郎さん」

 なにか、女として一皮剥けたような行動に、太郎は苦笑しながらも、ハンナに誘われるまま教会を後にしたのだった。
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