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1章 渡る異世界は魔物ばかり
第十四話
しおりを挟む今日も今日とてギルド職員からダンジョン二層の情報の聴き取り。
小一時間かかり、やっと報酬を受け取った時は外は真っ暗だった。
魔石買い取り総額は百十二万四千百円。
これにギルドへの情報料十万を足したのが総額だった。
1,224,100円。一人612,050円
金貨六、銀貨一、大銅貨二、石貨五
かなり稼げた。
ハンナは直ぐに、ギルドで家族へ向けて金貨三枚を送ったようだ。
それはさておき、明日からのダンジョン攻略をどうしたものか。いや、そもそもダンジョンを攻略する必要があるのかが、甚だ疑問ではある。
今だけかもしれないが、一層だけ狩っていてもかなり稼げている。わざわざ危険を冒して深層を目指さなくても……と、思わなくも無いが、やるからにはやはり、次を目指したくなるのは性だろうか?
二層に現れる、ファイアーなんちゃらと言う花の魔物が問題だった。
拳銃→水魔法で倒しているのだが、拳銃は基本的に他の冒険者がいる場面で使いたくはない。
拳銃の代わりになる物……弓?…
………いやいや、無理だ。
一人で悩んでも仕方ないとハンナに相談する。
「……すみません…私が火を使えれば」
「いやいや、ハンナは水魔法が使えるんだから。……ん?…ハンナ」
「は、はい」
「ハンナはどうやって魔法を覚えたんだ?」
「えっと 五歳の時教会で証明板を発行して貰うのですが、その時一緒に属性鑑定と、初級の魔法を教えてもらいました」
「…成る程……それは俺でもやって貰えるむものか?…」
「…多分……あ、もしかすると五歳の時以外はお金かかるのかも…」
「成る程……」
ハンナが太郎の顔を覗き込む様な仕草をする。
「明日行ってみますか教会?」
ハンナの提案に太郎は少し考え肯いた。
「そうだな。行ってみるか」
「私も一緒に行って良いですか?」
「…構わないが…」
太郎がそう言うと、ハンナの口元が緩み、嬉しそうな表情をする。
陽が落ちた町は、かつて太郎が住んでいた街の灯りとはまた違う淡い光で照らされている。
この灯りはダンジョン内の灯りに似ている。
ハンナの説明によると、この灯は魔灯と言い、砕いて粉状にした魔石を、汚水に混ぜた時に発する光だと言う。魔石粉は、綺麗な水に混ぜても光らず、汚れた水に反応して光る。
そして、汚水が綺麗な水になると、その明りは消える……なかなか便利な機能だ。
「太郎さん、この時間だと宿の食事時間過ぎてるから、何処かで食べて帰りませんか?」
「ん?ああ、そうだな。何か食べて行こう」
「はい。良い店知ってます。行きましょう」
笑みを浮かべたハンナは太郎の腕をとり、半ば強引に夜の町を歩いて行った。
確かにこうなるわな…
太郎は溜息を吐き、横でスヤスヤと眠るハンナを見てまた溜息を吐いた。
(十七の娘に手を出すとは…少し酔っていたとはいえ、俺も焼きが回ったか…)
額に手を当て、落ち込んでいる太郎の横で寝ていたハンナが目を覚ます。
「おはようございます」
「ああ、おはよう…」
太郎の落ち込み具合をものともしない、ハンナの笑顔が太郎には眩しすぎた。
(気まずい……が、聞かなきゃならん事は聞かないとな…)
「あー…あのなハンナ…」
太郎の心配はズバリ、妊娠の事だったのだが、全く問題無いらしい。
と言うのも、冒険者と言う仕事柄周りはクズな男が多く、常に女性はその危険性を承知していて、全ての(多分)女性は避妊薬を携行しているのだそうだ。
「あー…ハンナは危険な目にあった事あるのか?」
太郎の質問にハンナは首を振る。町では脇道を歩かない。暗くなる前に宿に入る。これを徹底すれば、そこそこ安全なようだ。
「流石にダンジョンに一人で入る事もないし、薬草収集の依頼でもパーティーで行ってましたから…」
そう言ったハンナはベッドから降りて下着を着ける。
「太郎さん。シーツを洗いたいので…」
着替え終えたハンナがベッドに横になっている太郎を転がしシーツを剥ぐと、そそくさと部屋を出ていった。
この国だと十五で成人。太郎から見れば子供も同様のハンナだが、ちゃんと大人の女として接しようと、今更ながら思う太郎だった。
氏名 朝倉 太郎
年齢 42(不老)
種族 ヒト
職業 極道/冒険者
体力 893+644
筋力 893+721
知能 56+19
敏捷 110+68
特技 威嚇/地球の知識/たらし(new)
技能 ケンカキック Level 7
チョウパン Level 5
馬乗り Level 4
ぶっ刺し Level 6
膝蹴り Level 6
剣術 Level 5
銃技 Level 1(new)
次元マーケット
加護 親父の加護 1
兄貴の加護 1
夜の女神の加護 1
(………………………)
能力画面の特技の項にたらしなる文字が見えた太郎は頭を抱えた。
ハンナが部屋を出ていった後、能力の確認をしたらこれだ。この世界基準の表記なのは幸いで、これが元いた世界なら間違い無く"性犯罪者"となってるのだろうか?
極道としては未成年の女はリスキー過ぎた。
経営する店にスタッフだろうが客だろうが、未成年者が紛れれば一発で潰れるからだ。
だが、基本的に若い時は遊ぶ金が欲しくて突っ走る。これは、歌舞伎町に集まる若者限定の話かも知らんが…
東京が未成年者の保護に今程厳しく無い頃は、それでも金を稼ぐ場所があったのだが、雁字搦めの法令によって若い奴らは働き場所が無くなり、男なら半グレ、女なら立ちんぼと言う、戦後間もなくの様な状況になっていった。
太郎が見回り(シノギ)で歩けば、大久保公園辺りには未成年者がうようよしていたものだ。
自分の事を"個人事業主""フリーランス"と標榜する未成年者の立ちんぼを横目で見ながら、"問題は余り起こさんでくれよ"等と年相応の感想を持つ俺も、相当身勝手であったのだろう。
チリチリと指先迄灰になったタバコを揉み消していると、部屋の扉がノックされ、ハンナの声が聞こえる。
「太郎さん。そろそろ朝ご飯食べに行きませんか?」
いつの間にか部屋の窓から陽の光が指していた。
「そうだな…腹減ったな」
太郎は椅子から立ち上がり部屋の扉を開けた。
フードを被った男が、屈みながら荒れた地面を調べている。
その周りには巨漢の男と金属鎧を着けた騎士が立っていた。
「マシュタール殿、何か分かりましたか?」
フード姿の線の細い男が立ち上がり首を横に振る。
「駄目ですね…これだけ地面が荒れてては、痕跡も消えてますね…」
そうですか、と答えたのは騎士団の副長を務めるローゼン。
「数百の魔物だからなーそりゃ痕跡も無いだろーよ」
丸太の様な腕を組みながらジオライトは言う。
「……例え召喚魔法だとしても数百の魔物を個人で召喚出来る筈無いですからね。あるとしたら未知の魔道具か…積層召喚陣かと思ったのですが」
「なぁマシュタール。その積層召喚陣だと何匹位魔物を召喚出来るんだ?」
ジオライトの質問に少し沈黙し、マシュタールが答える。
「私が知る限り、1枚の召喚陣で呼び出せる魔物は四匹。積層召喚陣はそれを四枚重ね合わせてますから十六匹かと…但し、理屈でですが」
「ん?実際出来ないのか?」
「陣の構造式的に四枚が可能と言うだけで、実際魔法院のレクスタ様でも二枚が限界でしたからね……そもそも召喚士自体数が少ないですから…」
少し髭が伸びた顎を撫でながらジオライトが"ふむふむ"と肯く。
「では未知の魔道具が濃厚でしょうか?」
ローゼンが難しい顔でマシュタールに尋ねる。
「わからないですね。一度レクスタ様に連絡を取ってみましょう。召喚陣もそうですが、魔道具に関しても魔法院の方が詳しいでしょうからね」
「ふむ、じゃあ次は久し振りに王都エベンスか? いやー楽しみだな」
ローゼン副隊長がチラッとジオライトを見て溜息を吐く。
「……行くのは良いが揉めるなよ?私は町の評判が気になって仕方がないのだが……」
「なーに、王都の青っちょろい冒険者共が絡んで来なきゃ、何にも起きないぜ?ローゼン副隊長殿」
"それが心配なのだ"と呟くローゼンの横でマシュタールもウンウンと肯くのだった。
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