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1章 渡る異世界は魔物ばかり
第六話
しおりを挟む少しアルコールが残っているようだ。
テーブルの水差しの水をカップに注いで椅子に座り一息に飲み干す。
テーブルの上にはジオライトから渡された革袋と冒険者ギルドのタグ。
革袋の中身は金貨3枚。
質素に暮らせば余裕で4~5ヶ月は暮らせる額だった。
何度も断ったのだが、結局押し切られた。
「これは、思わぬ新鮮なオーク肉の礼と新人冒険者への投資だと思ってくれ」と、侠気溢れる言葉を残して三人は去って行った。
恩を受けたなら返すのが道理。
(……明日からギルドで仕事探すか…)
椅子から立ち上がりベッドに寝転んだ瞬間その声が聞こえた。
(初期レクチャーを始めても宜しいでしょうか?)
太郎はびっくりしてベッドから飛び起きた。
「誰だ!」
太郎の質問に答えるように声が響く。
(私は、新たな転送者のサポートを任されたアーガスタ001と言います)
「いや、だから誰なんだ…」
(アーガスタ001です…)
「もう少し分かりやすく…俺にも分かる説明をしろ!」
(あ!怒ってます?怒ってますよね?)
「……………………」
(分かりました。馬鹿にも理解出来る様に最大限に噛み砕いて説明します)
「……………………」
(今回サポート対象の朝倉太郎さんは元の世界で死亡されました…ここまで理解できたでしょうか?)
「続けろ…」
(生物が死亡すると、肉体と魂の分離が333秒かけて行われます。朝倉太郎さんの場合見事に死亡判定をクリアし、魂は魂の渦に帰る筈でしたが、思わぬ事態が発生し、生き返る事になったのですが、時既に遅く肉体は荼毘に付され消滅していました…アンダスタン?)
「死にてえのか…続けろ…」
(思わぬ事態とは、今、朝倉太郎がいる世界の、魂の大量消滅が原因です)
「続けろ…」
(朝倉太郎の生きていた世界とこの世界は対として存在しています。ところが、一方の魂の急激な減少は2つの世界のバランスをくずし、世界の存続の危機となります。そこで偶然にも、ジャストで都合よく亡くなった朝倉太郎の肉体をこの世界に再構築し、魂の移換を実行し、これ以上の魂の消滅を食い止めて貰うと言う使命を受けられました)
「誰が俺に命令するんだ?あぁ?」
(神です。創造主である神です)
「……都合よく神が出てくるんだな。お前、本当かそれ」
(はい。間違い等有りません…よ?)
「オメェ怪しすぎるな」
(…………………ですが、生き残る為にはある程度の力は必要かと…)
「確かに力は必要だな」
(そ、その為のサポート神器アーガスタ001なのです……)
「成る程…結局魂の消滅の原因を排除すれば良いんだな?俺様が!」
(………はい)
「だがよ、神ならその程度自分で解決出来るんじゃねーの?」
(いえ、神にも制約が有りまして。出来上がった世界への直接干渉は出来ないのです)
「おかしいじゃねーか。俺の肉体はこの世界に再構築させたんただろ?それは、この世界への直接の干渉と違うのか?ああ?」
(……いえ違います。んー…例えて言えば趣味で描いた絵と、その絵をネット経由で発信する位に違います)
「やけに具体的に、それでいて俺には分かりにくい説明だな…」
太郎はフーと溜め息をつく。
「で、俺に何を教えてくれるんだ?」
(先ずは……)
「成る程……おまえの説明は取り敢えず納得出来た。言語の相互変換、文字の相互変換。…体の基本性能向上…」
太郎はベッドに腰掛け腕を組む。
「……相談なんだが、自分の性能を見るのに、いちいち"ステータスオープン"とか言わなきゃならんのか?」
(……いえ…取り敢えずは日本が誇るサブカルチャー的な表現をしてみただけです)
「つまり、能力表示とかでも良いわけだよな?」
(そうです…)
太郎は"能力表示"と呟く。
すると目の前にテレビの画面っぽい物が表れた。
氏名 朝倉 太郎
年齢 42
種族 ヒト
職業 極道/冒険者
体力 893+0
筋力 893+0
知能 56+0
敏捷 110+0
特技 威嚇/地球の知識
技能 ケンカキック Level 7
チョウパン Level 5
馬乗り Level 4
ぶっ刺し Level 5
膝蹴り Level 6
加護 親父の加護
兄貴の加護
夜の女神の加護
「まぁ……数字で能力がわかるのは良いが、ちょっと気になる事があるんだがよ?」
(な……何でしょうか…)
「いやな、この加護の所なんだが、何故俺をここに送った神の加護がねーんだよ?おかしいだろ?」
(………やはり気付きましたか……な、何ででしょうかね…)
「…なぁ…怒らねーからホントの事話そーか…」
(す……すみませんでした。嘘をついておりましたー!)
「……成る程……つまりお前の手違いて俺は死んだと…」
(は、はい……本来あの場で亡くなるのは太郎さんを刺した御高齢の方でした…)
「んで、魂的な数合わせに狂いが生じ、それを上司に知られたら貴様の都合が悪くなる…と」
(は、はい………)
「地球とこの世界はさっきキサマがいった通り対の世界……もとの世界で復活出来なかったから対のこちらで復活させて数的には問題なし……と。ここまでは間違いないな?」
「は、はい……間違いございません」
「んー?…おい、爺さんが亡くなろうが俺が亡くなろうが、無くなる魂は一つだから数は合うんじゃねーのか?」
「い、いえ。本来太郎さんは生きていれば一年後にご結婚され、お子様がお二人生まれる筈でしたので…」
背広の内ポケットから煙草を取り出し口に咥え火をつける。
胸を膨らませ深く吸い込む。
(……あの……怒ってますよね……)
「……お前何者なんだ?」
(……神界第五席 アステリア…地球とダノンの魂の管理者です…)
成る程……一応神様的な立場のようだ。
「で、結局俺はこの世界で自由に生きて良いんだな?」
(は、はい。あの……つまらない嘘をついてごめんなさい…)
「いや、別にもう怒っちゃねーよ。まぁなんだ、奇妙な文明だが、結構俺はこの世界気に入ってるぜ」
(そ、そうですか。……良かった…)
「因みにお前は神様的な立ち位置なんだよな?」
(は、はい。太郎さんにわかりやすく言うと日本神話の伊邪那美的な感じの女神になります…)
「ふーん、知らんが。所で、はじめにお前から聞いたやつ…俺にサポートする時間に制限が有るようだが、どうなんだ?」
(は、はい。太郎さんをサポート出来る時間に制限があります。後738時間です…実際私達の感覚では1秒程何ですが…)
「そっか……えーとなんだ…アス…」
(アステリアです…)
「おう、アステリアか。……あんた、これ以上俺のサポートいらねーぞ」
(え!……それは何故でしょうか?)
「体は頑丈で、能力的にも今の俺は上出来なんだよな?」
(はい)
「なら、何の問題もねーよ。それによ…俺には良い加護も付いてるじゃねーか……十分だよ」
(……本当に大丈夫ですか?)
「ああ、かまわねーよ。不思議なんだが、俺はこの世界に来て何かホッとしてんだ…」
(……わかりました。……色々太郎さんにはご迷惑おかけしました。改めてお詫びいたします)
「ああ、まぁ頑張ってみるわ」
(………はい。それではお元気で)
先程迄静かだった部屋に音がなだれ込む。どうやらアステリアと話している時、この部屋は外と隔離されていたようだ。
火の消えた煙草に太郎は火をつけ直し深く吸い込む。
太郎はニヤリと笑う。
(そうかい……俺は自由に生きて良いんかい)
クックックッ 笑いが込み上げ、抑えきれない。
冒険者ねー……なかなか緊張感を感じれそうな良い職業だ。
あーそうだ。明日得物を買いに行かないとな。
公然と得物が売ってる世界…
クックックッ やはり笑いが止まらない太郎だった。
(………大丈夫かしら太郎さん……そうだ。最後に一つサービスしちゃいましょう)
アステリアは太郎のステータスの欄に手を入れ始めた。
(うんうんこれで良いわね。地球の記憶が有るんだからこれくらいしてあげなきゃね…)
氏名 朝倉 太郎
年齢 42 new(不老)
種族 ヒト
職業 極道/冒険者
体力 893+0
筋力 893+0
知能 56+0
敏捷 110+0
特技 威嚇/地球の知識
技能 ケンカキック Level 7
チョウパン Level 5
馬乗り Level 4
ぶっ刺し Level 5
膝蹴り Level 6
次元マーケット(new)
加護 親父の加護
兄貴の加護
夜の女神の加護
(ふふ。不死は無理だけど不老なら良いよね♡ 次元マーケットも記憶がそのままだから煙草とか欲しいよね♡いやー良い仕事したわ…あれ?一つサービスのつもりだったけど二つ付けちゃったわ……まぁ良いか♡)
アステリアはニコニコしながら元の仕事に戻っていったのだった。
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