おっさん極道異世界を行く

左鬼気

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1章 渡る異世界は魔物ばかり

第四話

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 コイツラは馬鹿なのか?……

 ジオライトと言う獰猛な男を前にして、その集団はイキりながら喚いている。
 どうやら彼等の主張は持ち物と金銭の要求のようだ。
 太郎自身、歌舞伎町の通りを歩くと半グレ等も避ける程度の雰囲気を醸していたが、目の前にいるこの馬鹿者共は、太郎の何倍も強力な雰囲気を醸し出すジオライトを見ても何も察する事も出来ない馬鹿者らしい。
 我々の前を塞ぐ集団の総称を"盗賊"と言う。
 

 長年ヤクザ稼業をやって来たが、人間が真っ二つになる場面を初めて見た。
 ジオライトは馬鹿者共の主張を一通り聞いた後、一つ肯くと、おもむろに大剣を振り上げ踏み込んで振り下ろした…のだろう。
 実際ジオライトの動きを太郎は目で追えなかったのだ。
 頭頂から股下迄断ち切られた体が内臓を撒き散らしながら崩れ落ちる。
 
 え?いきなり殺すのか?と言う、ヤクザとは思えない感想を太郎は抱いた。
 実際ヤクザでもいきなり相手を殺す事等しない。出来れば脅して金銭を継続的に巻き上げるのが通常だからだ。
 ジオライトに続いてランドがナイフを投げ、三人の頭骨にめり込ませ行動不能にすると、馬鹿共の集団をマシュタールの炎の魔法が襲う。
 10名程の盗賊は、ものの六秒程で壊滅したのだった。

 (……こいつら…馬鹿だろ……)

 盗賊は殺しても問題無いのかと聞くと、問題無いとランドが答える。
 しかし、この馬鹿者共が盗賊だとどう証明するのかと聞くと、マシュタールが遺体から冒険者タグの用な物を拾い上げた。
 
 「どの国でも。産まれてから五年経つと、国の意向で教会を通し証明板が渡されます。この金属板はちょっとした魔道具でして、名前と年齢、証明板の発行履歴と最終的な行動を記憶してます」
 「……つまりコイツラの最終行動は盗賊だと?」
 
 そうです とマシュタールが言う。

 名前、年齢、発行履歴と最終行動が記憶される便利道具……
 
 我々の冒険者タグは少し特殊で、名前、年齢、冒険者等級が記憶されていて、その他に発行履歴、貯金残高、魔物討伐成果に最終行動が記憶されていると言う。

 思い当たる事があり、証明板が無い場合どうなる?とランドに聞く。
 
 「ああ、太郎の場合俺達が太郎の保護をするから、町に入ったら教会で証明板を発行して貰えば良い」
 「それはタダで発行して貰えるのか?」
 「タダだよ。大体証明板が無いと人頭税が取れないだろ?」

 成る程……税金か…この世界に消費税とか在るのだろうか…人頭税は市民税とか県民税の様なものなのだろう…
 兎にも角にも覚える事は山ほどあるようだ。これが昏睡状態の夢なら適当に出来るが、今のところ現実感が半端ない。現実と受け止めて生きるしか方法はないようだった。

 一瞬で終わった盗賊の遺体をマシュタールが魔法で焼き尽くす。
 中途半端な遺体は魔物になる可能性が高く、完全に燃やすか、穴を40センチ以上掘って埋めるようだ。浅く埋めると魔物化すると言う。
 
 面倒くさいな…

 おもりを付けて水に沈めるのは良いのか?と聞くと深さが土壌と同じ40センチ以上沈めば大丈夫らしい。
 
 なかなかファンタスティックな設定だな…
 
 町に入る時に証明板の確認を求められ。殺人や盗賊等の犯歴が無ければ町へ入れるが、犯歴がある場合憲兵に拘束される。そうなると、町中は安全なのだろうか?
 さにあらず、町中で犯罪を起こした場合、証明板の確認を平民全員にする事も出来ず、一概に町中が安全と言う訳ではないらしい。

 三人に付いて歩き、ひたすら道を進むと、前方に馬車の様な物が見える。
 ランドが少し先行して確認をして戻ってきた。
 
 「ソマリ商会の馬車だった。見た感じ、ロシュペール達とメイビル達のパーティーが護衛してるみたいだな」
 「ほう…ソマリ商会の定期便は月の終わりの筈だが…何か大きな取引でもあるのか?」ジオライトが首を捻る。
 「三台連なってますね…ソマリ商会の馬車全てを臨時に出すとなると、余程大きな取り引きなんでしょうね」
 
 馬車の護衛をしている冒険者の一人が抜け出して、太郎達の前に寄ってきた。

 「ようエイスロート。護衛依頼か?ロシュペールのパーティーもいるようだが」

 「ジオライトさん達でしたか。そうなんですよ」と言いながらその男は太郎を素早く観察する。
 「エイスロートそんなに警戒するな。この人の身柄は俺達が保証するぜ」
 
 ジオライトの言葉に男は肯く。

 「ジオライトさんの保証なら大丈夫ですね……まぁ町に行けば色々分かると思いますが…」
 「ん?町に何かあったのか?」
 「はい…二日前。魔物の集団に町が襲われて駐留騎士団にもかなりの被害が出たんです」

 男の言葉にジオライト達が驚く。
 
 「どの程度被害がでたんだ?」と聞くと騎士団の半分以上が行動不能の重体だと言う。

 「いきなりだったんです。騎士団が魔物を発見したのが町の100メートル程の距離で……対応が間に合わず騎士団が崩れました。そこからは騎士団、冒険者が慌てて対応して…取り敢えずはしのぎましたが」
 「成る程…それでソマリ商会が臨時の馬車を出したのか…」
 「はい。門の近くの荷降ろし倉庫がやられ、ポーション系が全く足りません。んで、ソマリの旦那がランデルの町に補給に出るって訳です」

 どうやら太郎が向かう町は大変な状況らしい。
 騎士団が何名駐留しているのか不明だが、補給に残りの騎士団を使う訳にはいかないだろう。
 
 「そうか分かった。少し俺達も早めに町に向かうか…」
 「そうしてくれると助かります。ジオライトさん達がいればここまで被害も出なかっただろうに…」

 どうやら太郎の出会った冒険者達はかなりの実力者だったようだ。

 馬車が近づき、護衛の冒険者達が各々挨拶をして離れて行った。

 「まぁそんな感じだから、少し早めに進むぜ。今迄観察してたが、多分太郎なら俺達に付いてこれそうだしな」
 
 そう言うと、ジオライト達は走り出す。
 離されないように太郎はジオライト達の後に続いて走り出したのだった。


 30分程走ると視界に町が見えてきた。太郎が想像していたよりも立派な外観の町だったが、町を囲む防壁が所々崩れ落ちていた。

 「……かなりの被害ですね…」

 マシュタールの呟きが聞こえる。
 太陽?の傾きから大体午後三時位……日が落ちる前に町に入れそうだ。
 町まで百メートル迄近づくと、鎧を着けた騎士団と思しき人や魔法を使う一団が魔物の死骸の処理をしている。

 ジオライト達を見た一団が疲れた顔に僅かな笑顔を浮かべジオライト達に声を掛けてくる。
 
 「おーい、ジオライト。帰って来んのが遅くねーか?祭りは終わっちまったぜ」
 「そうか。悪かったな」

 ジオライト達は手を挙げ挨拶をして通り過ぎる。

 走るスピードを落としボロボロになった町の門に近づくと、門の修理をしていた騎士の一人がジオライトを見て近付いて来た。

 「随分やられたようだなローゼン副隊長殿」
 「……嫌味ですか」

 そう言った騎士がフェイスアーマーを外し額の汗を拭う。長い金髪が広がり端正な顔が見え、太郎は息を呑む程驚いた。
 女の騎士?
 その騎士の視線が太郎を捉える。

 「ジオライト。そちらは?見ない顔だが…」
 「ああ、依頼の帰りで出会った男だが、身元は俺達が保証する。問題はないだろ?」

 美人騎士に見詰められ居心地が悪い太郎は、名前を言ってお辞儀をすると女騎士が不思議な顔をする。

 「ん?……貴殿は貴族か?」
 
 ローゼンと呼ばれた騎士にマシュタールが太郎の説明をすると騎士は額に深い皺を浮かべる。

 「まぁ…ジオライト達が保証するなら町へ入るのを許可します…」
 「しかし、随分やられたようだな副隊長」
 「見張の騎士等に責任は無いようだ……信じられないが突如として魔物の群れが現れたらしい。これは複数の証言から確実だ」
 
 騎士の言葉にマシュタールが考え込む。

 「大規模転移魔法があったと?」

 マシュタールの言葉にローゼン副隊長は首を振る。

 「…違うと思う。大規模転移魔法が発明されたら、国の在り方が変わってしまいかねない。有るとすれば複数名による召喚魔法だろうと考えている」

 騎士の言葉にマシュタールは肯く。

 「まぁそんなところでしょうね…」

 その後二言三言言葉を交わした後、太郎達はラムスの町に足を踏み入れたのだった。

 
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