おっさん極道異世界を行く

左鬼気

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1章 渡る異世界は魔物ばかり

第三話

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 テレビもねえ。ラジオもねえ。車もそれ程…

 昔流行った歌の歌詞が頭に浮かぶ。

 (いやいや…車自体存在してねえ…)

 「太郎殿。この道を進めば町に着きますよ」

 マシュタールが指差す道は土を踏み固めた様な道だった。
 車輪が通った轍がある所を見ると、馬車的な物はあるようだ。
 
 「どのくらいで町に着くんだ?」
 
 太郎の質問にランドが気楽に二日程位だと答える。

 (二日……二日も歩くのか…)

 「あと少しですよ。太郎殿が狩ったオーク肉も有りますからね」

 どこがあと少しなのか……いや、誰かに聞いたウンチクだか忘れたが、昔の人は一日大体40キロメートル程歩いた様だと聞いた覚えがある。
 人の歩行スピードは時速三キロ~四キロ……つまり町まで後最低80キロメートルは有る計算になる。
 ……東京から箱根程歩くのか…

 普段長距離を歩く事が無い太郎の顔が歪む。
 綺麗に磨いた革靴もいつの間にかホコリまみれ。

 (だがしかし、泣き言を吐く訳にはいかない。断じて!)

 意地を誇りに生きてきた極道人生。ここで音を上げる事は出来ん。

 「太郎さんよ。まぁ、あんたの事情は分かったが、町に着いたらどうするんだ?…まぁ、いざとなったら冒険者にでもなるか?。冒険者は気楽だぞー。まぁ命を張る場面もあるがな」

 ジオライトが豪快に笑うのだった。

 三人の冒険者と共に目指す町ラムス。冒険者達にとっては生きやすい町だと言う。
 その要因は近場に二つのダンジョンが有るからだとランドが説明する。
 一つは初級者でも、ある程度稼げる青銅ダンジョン。このダンジョンには特色があり、魔物を倒すと必ず魔石がドロップすると言う。
 "必ず"魔石なのだそうだ。つまり、青銅ダンジョンからはその他の物はドロップしないのだ。

 「……良くわからないが…魔石しか出ないのは良いことなのか?」
 
 太郎の疑問にジオライトが答える。

 「他のダンジョンからは魔石や装備品、運が良けりゃ魔道具なんかがドロップする訳だが、なんと言うか、装備品とかがやたらとドロップすると鍛冶屋なんかが要らなくなるだろ?」
 「………確かに……」
 
 真新しい装備品がゴロゴロ出るような場所だと装備品をつくる職人は苦しいだろう。

 「まぁ、そんな訳でラムスの町は鍛冶屋や魔道具屋、薬屋が多いのよ。それに、必ず魔石が出るんだから稼ぎも安定だしな」

 マシュタールがジオライトの説明の補足をする。

 「太郎殿には魔法は誰でも使えると言いましたが、大概は一つの属性魔法しか使う事が出来ないんです」
 「ほー……」

 薪に火を付ける。水を発生させる…
 平民が生活するにあたり、魔道具が生活の補助になってる現在、魔道具に必要な魔石は重宝されている。
 青銅ダンジョンで出る最小の魔石一つの値段が銅貨五枚。つまり500円だそうだ。

 (ふむ…ダンジョンの魔物の強さがわからないが、20匹倒せば最低一万円か……物価がどうなってるのか不明だが暮らしていけるな…20匹倒せればだが)

 「そのダンジョンは…例えば俺でも魔物を倒せるのか?」

 「太郎殿が倒したオーク程の魔物は地下5層以降ですから平気だと思いますよ」

 マシュタールの言葉に少し安堵する。

 「まぁ…青銅ダンジョンは初心者に人気だから、低層はかなり混んでるぞ?やるなら5層以降だな…」

 ランドの説明では低層だと魔物の発生の時間が冒険者の数に比例しないために運が悪いと一日狩って魔石五個しか持ち帰れない冒険者もいるらしい。

 五個……2500円……

 「魔石五個でも食事付きの雑魚寝宿なら足りるからな。まぁその場合装備品等の換えの金は無いから……まぁ手詰まりか…」

 不安以外に無い状況ではなかろうか。

 「太郎殿。そう言う初心者の場合、パーティーを組めば良いんですよ。ラムスの安宿の料金が大銅貨二枚で朝夕食事付き。ギルドで貸し出す装備品(武器)の料金が銅貨二枚。パーティーを組めば安宿の残りの金で少しづつながら金は貯まります」

 成る程……だが、かなりシビアだな。

 「5層以降に出るオークの魔石なら最低でも大銅貨五枚になりますから。太郎殿も実力的には多分5層行けると思います……それに、我々に付いて歩いていてバテて無い太郎殿は初心者冒険者よりは体力的に有利だと思いますけどね」

 マシュタールの指摘にふと気付く。

 確かにこの三人の歩行速度は尋常じゃ無い気がする。
 それに付いて歩く太郎の疲労は……全く無い…

 (ひょっとして俺はそこそこ強いんじゃ無いだろうか?)

 組に入った若い頃は喧嘩で負ける気が全くしなかったが、かと言って眼の前を歩くジオライトのような実力が有るのかと問われれば、控え目に言っても無いだろう。

 「もう少し行けば狩猟小屋があるから今日はそこに泊まるか」

 ランドの言葉にジオライトとマシュタールが肯く。


 囲炉裏……

 この国にも囲炉裏が有るのかと太郎が感心する。
 平成の現代では囲炉裏等田舎でも目にする事は無い代物だ。
 あえて言えば、都会の炉端焼きの店等に見ることが出来るくらいだろう。

 日本の囲炉裏と違う所を上げれば、横木が無いと言う所だろうか。
 上部には火棚が有り、自在鉤が通って鉤棒があった。
 まぁ横木が無くても使える。

 ランドがオークの肉をスライスして囲炉裏の火棚の上に並べていく。
 どうやら乾燥肉を作るようだ。

 鉤に鍋を吊るして薪に火を付ける。
 マシュタールが魔法で鍋に水を張り、途中で採取したキノコや名前の分からぬ草とオーク肉を加え煮込む。
 塩は貴重なのか二つまみ程加えていた。

 「塩は高いのか?」そう聞いた太郎にランドが肯く。
 「この国で塩が取れるのはボールデン領くらいだからな…一つまみ大体銅貨五枚だな」

 一つまみ銅貨五枚(五百円)……安売のスーパーなら一キロ銅貨一枚(百円)程だろう…
 スーパーで売っている塩が本当に塩なのかは不明だが、間違いなく塩味は付く。
 
 「まぁ最近、植物から塩を取り出す技術が発見されたから次第に安くなるかもな…」

 狩猟小屋に据え置かれている木の御椀を魔法で出した水で簡単に洗い流し、マシュタールがスープを御椀に装い太郎に差し出す。

 「ランドの持っているマジックバッグに入れていた肉とかは腐るのか?」
 
 腐るとランドは答える。
 生肉は腐るし、温かい物は冷める。

 「マジックバッグはダンジョンの宝箱から出る魔道具で、未だマジックバッグを人の手で作る技術は無いぜ」

 どうやら都合良すぎる物は無いようだ。
 マジックバッグがどう言う仕組みか太郎には想像も出来ないが、現代科学なら実物さえあれば再現可能なのだろうか?
 いや、太郎が知らないだけで、実際にはあの世界にマジックバッグの様な物があった可能性もある。それ程科学と言う分野は未知の領域に迄進んでいたのだ。
 子供の頃に"瞬間移動!"とか言いながら友人と遊んだそれさえも、実現している可能性さえあるのだ。

 ……子供の頃を思い出すとは……もしかすると俺は意識不明で病院で寝てるのかもしれないな……
 
 木戸から見える星空を見ながら太郎は苦笑するのだった。

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