140 / 140
春風と共に
③
しおりを挟む
「……ありがとう」
ふっと、快の目元がゆるんだ。
一歩踏み出す。美久に近づいてきた。
そして手を伸ばされる。美久の手が、そっと包み込まれた。
「美久に出会ってから、いろいろ考えるようになったんだ。俺の現状とか、悩みとか、すべきこととか。なかなかわからなかったけど」
きゅっと、大きな手で握られる。あたたかくて、ごつくて、しっかりここにいてくれる、快の手。
「美久の姿を見てて、思った。髪型を変えたり、コンタクトにしたりして、前を向いてくところとか。コンテストに向かって小説を書いてみるとか」
そう言われるのは少しくすぐったい。
快と初めて出会ったときの、まだ後ろ向きでクラかった自分を思い出してしまうから。
でも快は見ていてくれたのだ。
美久の頑張る姿を。前に進もうと努力している姿を。
さらにそこから、自分も触発されたと言ってくれるのだ。
それはどんなにすごいことだろう。
「そういう姿がすごくきらきらしていて、魅力的だった。だから好きになったんだ」
「……ほめすぎだよ」
さすがに恥ずかしくなってしまう。認めてもらえるのは嬉しいけれど、どうしても恥ずかしい。
でも快はちょっと首を振って、にこっと笑う。
「それに、そのことだけじゃない。美久の姿から俺はたくさん勇気をもらったんだ。だから」
快の手に力がこもる。ぎゅっと。はっきりと握りしめられた。
痛いほどではない、優しさのこもった力強さでだ。
「これからも俺のそばにいてください」
美久の瞳をまっすぐに見つめて。
言われたことは、快の決意と、それから美久に対する想いだった。
ふたつが混じり合って、美久の心の中に落ちてくる。
桜のピンク色のように優しい色のそれは、ふわっと心の中に広がっていく。体と心をあたたかくしていった。
自然に美久の瞳もゆるんでいた。快の瞳を同じように正面から見つめ返す。
「……はい」
手を動かした。ちょっと位置を変えて、自分からも快の手を握り返すようにする。
快がちょっとおどろいた、という顔をしたけれど、すぐ笑みに戻った。
きゅっと手を握られた今は、もう握られるだけではない。手をつなぎ合わせる形だった。
そっと顔を寄せられて、美久はどきりとした。
でもすぐに理解する。
すっとまぶたを落として、目を閉じた。ふわりと春の気配が近づいてくる。
優しいあたたかさを持った春の風が、ふわりとくちびるを撫でていった。
(完)
ふっと、快の目元がゆるんだ。
一歩踏み出す。美久に近づいてきた。
そして手を伸ばされる。美久の手が、そっと包み込まれた。
「美久に出会ってから、いろいろ考えるようになったんだ。俺の現状とか、悩みとか、すべきこととか。なかなかわからなかったけど」
きゅっと、大きな手で握られる。あたたかくて、ごつくて、しっかりここにいてくれる、快の手。
「美久の姿を見てて、思った。髪型を変えたり、コンタクトにしたりして、前を向いてくところとか。コンテストに向かって小説を書いてみるとか」
そう言われるのは少しくすぐったい。
快と初めて出会ったときの、まだ後ろ向きでクラかった自分を思い出してしまうから。
でも快は見ていてくれたのだ。
美久の頑張る姿を。前に進もうと努力している姿を。
さらにそこから、自分も触発されたと言ってくれるのだ。
それはどんなにすごいことだろう。
「そういう姿がすごくきらきらしていて、魅力的だった。だから好きになったんだ」
「……ほめすぎだよ」
さすがに恥ずかしくなってしまう。認めてもらえるのは嬉しいけれど、どうしても恥ずかしい。
でも快はちょっと首を振って、にこっと笑う。
「それに、そのことだけじゃない。美久の姿から俺はたくさん勇気をもらったんだ。だから」
快の手に力がこもる。ぎゅっと。はっきりと握りしめられた。
痛いほどではない、優しさのこもった力強さでだ。
「これからも俺のそばにいてください」
美久の瞳をまっすぐに見つめて。
言われたことは、快の決意と、それから美久に対する想いだった。
ふたつが混じり合って、美久の心の中に落ちてくる。
桜のピンク色のように優しい色のそれは、ふわっと心の中に広がっていく。体と心をあたたかくしていった。
自然に美久の瞳もゆるんでいた。快の瞳を同じように正面から見つめ返す。
「……はい」
手を動かした。ちょっと位置を変えて、自分からも快の手を握り返すようにする。
快がちょっとおどろいた、という顔をしたけれど、すぐ笑みに戻った。
きゅっと手を握られた今は、もう握られるだけではない。手をつなぎ合わせる形だった。
そっと顔を寄せられて、美久はどきりとした。
でもすぐに理解する。
すっとまぶたを落として、目を閉じた。ふわりと春の気配が近づいてくる。
優しいあたたかさを持った春の風が、ふわりとくちびるを撫でていった。
(完)
0
お気に入りに追加
70
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件
木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか?
■場所 関西のとある地方都市
■登場人物
●御堂雅樹
本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。
●御堂樹里
本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。
●田中真理
雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件
森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。
学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。
そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
こんにちは。突然ですが、お願いします。続き書いてください。お願いします。
(あと、僕の小説は、ファンタジー太陽って検索すれば、多分出てきます。)
こんばんは。コメントありがとうございます!
そう言っていただけてとても嬉しいです。
続きは今まで考えていなかったのですが、機会があれば書いてみたいと思います!
まだ最初の10話くらいしか読めてませんが、王道青春ものって感じの出だしですごく良いです!
これから時間ある時に少しずつ読んでいきます!
はじめまして、ご感想ありがとうございます!
青春溢れる物語にしたかったので、そう言っていただけると嬉しいです!
楽しんでいただけましたら幸いです^^