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快の『事情』

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 美久は息を飲みたい思いで聞いていった。
 快の『事情』を。
 美久に話さなかっただけあって、きっとほとんどひとに話していないことなのだろう。
「一年の半ばくらいまではプレイヤーだった。選手だったんだ。自分で言うのもなんだけど、中学時代は毎回試合に出てたし、下手じゃなかったと思う」
 快はどっかりとベンチに腰を下ろした姿勢で、手を組んだ。パズルをするように両手を組み合わせる。まるでそこに答えがあって、それが解けずにいるように。
 美久はそれをただ聞く。
「一年のときは当たり前だけど選手なんかできなかったよ。入学したばっかじゃ先輩にかなうわけないだろ。でも二年になったら絶対選手になってやるって思ってたし、そのために頑張ってた」
 快はそこで美久をちょっとだけ見た。美久はどきっとしてしまったけれど、快は目元だけで笑った。すぐ前を向いてしまったけれど。

「でも俺はバカだったのかもしれないな。頑張りすぎて……怪我、しちまったんだ」

 美久は息を飲んだ。
 怪我。
 快はひとことで言ったけれど、きっとそれはとても大きなものだったのだろう。
「それがあまりいい経過じゃなくて……リハビリとかもしたんだけど、……うん」
 つまり、怪我が原因でプレイができなくなった、ということだろう。
 それで今はマネージャーをしていると。
 そしてそれなら快が『喜んでマネージャーを務めてるわけじゃない』という気持ちに繋がるのだろう。
 しかしそこで美久は、あれ、と思った。
 プレイができなくなったのなら、もう秋のことだが合同体育。レクリエーションのバスケ。
 あのときはいったい……?
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