上 下
64 / 140
新しい世界へ

しおりを挟む
「すごいいいじゃん!」
 でもすぐに笑みに変わってくれる。同じように褒めてくれた。
 いや、褒める以上にそれは『肯定』だった。
 新しいことに踏み出した美久を、認めてくれる言葉だ。とてもあたたかくて優しい言葉。
 言葉だけではなく、笑みになった表情も、明るい声も、すべてが美久を認めてくれたのだと示していた。
「あ、ありがとう……」
 期待はしていたけれど、実際にそう言ってもらえれば髪型のときと同じようにやっぱり恥ずかしくて、ちょっとどもってしまった。でも、自分から言えたし、お礼も言えた。その嬉しさや誇らしさからも胸が熱くなってくる。
「え? A組の綾織さん? あれ、ずいぶん雰囲気違うなぁ」
「眼鏡やめたんだ?」
「髪型も変えた?」
 そのやりとりから、近くの男子も美久を見つめ出した。これほど多くの男子に近く接することはあまりないので、美久はあわあわとしてしまう。
 けれど、嫌な気持ちではなかった。
「かわいいでしょ! 私がプロデュースしたんだよ!」
 美久の肩を抱いて、誇らしげに言ったのは留依。ちょっと茶化すようなその言い方に、あはは、とその場にあたたかな笑いが溢れた。
「前よりずっといいじゃん」
 一人の男子が言ったのは、何気ない言葉だっただろう。
 そして、美久もそれをただそのまま聞いたのだけど、そのあとのことに心臓が飛び出るかと思った。
「ああ、かわいいよ」
 そう言ってくれたのは快だったのだから。おまけに美久のことをまっすぐに見つめてくれていた。
 一瞬、時間がとまったかのように感じてしまった。見つめた先の快の瞳は穏やかで、優しくて……心からそう言ってくれているのが伝わってくる。
 その瞬間、周りにも廊下にもたくさんひとはいたけれど、確かにこの世界には美久と快しかいなかったのだ。
「……え、あ、……ありが、とう……」

 かわいい。
 かわいい。
 ……かわいい!?

 三回ほど反すうして、やっと理解した。
 これは「似合ってる」とか「いいじゃん」より、もっと上のことだ。特別な言葉だ。
 それを自分に向けてくれた。かわいいと評してくれた。

 ……嬉しい。

 かぁっと胸が熱くなる。発火しそうだ。顔にもきっと出たのだろう。
 快の横にいた男子が快を小突いた。
「なんだー、かわいいなんて、綾織さんに気があるのかよ」
「え、そうなの? 久保田、告白か?」
 にやにやとした空気がその場に広がる。快をからかうような空気が。
 でも嫌なものではなくて。どこかほの甘いような空気であった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

宵宮高校の日常

ちくわぶ太郎
青春
どこにでもある平凡な高校 そんな宵宮高校の生徒達の日常と成長を描いた物語

【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ

星加のん
青春
モブキャラ気取ってるくせにバンドをやってる時は輝いてる楠木君。そんな彼と仲良くなりたいと何かと絡んでくる学園一の美少女羽深さんは、知れば知るほど残念感が漂う女の子。楠木君は羽深さんのことが大好きなのにそこはプロのDT力のなせるワザ。二人の仲をそうそう簡単には進展させてくれません。チョロいくせに卑屈で自信のないプロのDT楠木君と、スクールカーストのトップに君臨するクイーンなのにどこか残念感漂う羽深さん。そんな二人のじれったい恋路を描く青春ラブコメ、ここに爆誕!?

M性に目覚めた若かりしころの思い出

なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした

黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。 日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。 ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。 人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。 そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。 太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。 青春インターネットラブコメ! ここに開幕! ※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。

Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜

green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。 しかし、父である浩平にその夢を反対される。 夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。 「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」 一人のお嬢様の挑戦が始まる。

切り抜き師の俺、同じクラスに推しのVtuberがいる

星宮 嶺
青春
冴木陽斗はVtuberの星野ソラを推している。 陽斗は星野ソラを広めるために切り抜き師になり応援をしていくがその本人は同じクラスにいた。 まさか同じクラスにいるとは思いもせず星野ソラへの思いを語る陽斗。 陽斗が話をしているのを聞いてしまい、クラスメイトが切り抜きをしてくれていると知り、嬉しさと恥ずかしさの狭間でバレないように活動する大森美優紀(星野ソラ)の物語

処理中です...