56 / 140
美久の秘密
④
しおりを挟む
文芸部のコンテスト、とはいったけれど、校内のものではない。
校外で公募しているものだ。それを文芸部を通じてそういう募集があると知った。
顧問の先生からも「興味があるひとは、出してみてもいいかもしれませんね」と話してくれたので興味を持ったのだ。
それは短編の話を募集する、高校生限定のコンテスト。
小説なんて立派なものではないけれど、小話ではある。
実は一年生のときも、二年生のこれまでも、こういう小さなものに出したことがあるのだ。
それらは全部、あっけなく落選となっていたけれど。だから実績なんてあるはずもなくて、堂々となんて話せなかったことだ。美久の引っ込み思案な性格も手伝って。
どもりながら、考え、考えになったけれど、美久はそれを説明していった。
あまり立派なことじゃない、やっぱり。
そう思って、「だから、今回も出してみようかと思ってて、それを書き留めていたのがこれなの」と言って、終わった。机の上に置かれていたメモを指して。
快は数秒黙っていた。美久の話が終わったのだと、その数秒で知ったのだろう。
口を開いた。それは美久にとって、こうだったらいいなと思っていた通りのこと。
「すごいじゃないか!」
美久はそれを聞いて、心からほっとした。
快なら否定するはずがない。そう思っていた。でも実際に耳にするのはまったく別のことだ。
「す、すごくないよ……だって、落選ばっかりなんだから……」
でもやっぱり自慢できることは今のところないのだった。自分は書いて、応募して、それだけで終わってしまっているのだから。
なのに快は首を振った。
「すぐに結果が出ることなんてめったにない。それは天才だけだよ。普通のひとは何回もチャレンジしてやっと実を結ぶんだ。だから、チャレンジし続けてるってだけで、すごいことなんだ」
それは美久のことを肯定してくれる言葉。
じわじわと美久の胸が熱くなってくる。
このことに関して。こんなふうに言ってくれたひとはいた。
文芸部の友達、顧問の先生、そして留依にも少し前に話した。
でも「すごいね!」「応援するよ」と言ってくれただけだった。いや、それだってすごいことだし、優しい言葉だし、自分を思って受け入れてくれる言葉だ。
でもこんな、心を震わせて染み込んでくるような言葉。初めてだ。
校外で公募しているものだ。それを文芸部を通じてそういう募集があると知った。
顧問の先生からも「興味があるひとは、出してみてもいいかもしれませんね」と話してくれたので興味を持ったのだ。
それは短編の話を募集する、高校生限定のコンテスト。
小説なんて立派なものではないけれど、小話ではある。
実は一年生のときも、二年生のこれまでも、こういう小さなものに出したことがあるのだ。
それらは全部、あっけなく落選となっていたけれど。だから実績なんてあるはずもなくて、堂々となんて話せなかったことだ。美久の引っ込み思案な性格も手伝って。
どもりながら、考え、考えになったけれど、美久はそれを説明していった。
あまり立派なことじゃない、やっぱり。
そう思って、「だから、今回も出してみようかと思ってて、それを書き留めていたのがこれなの」と言って、終わった。机の上に置かれていたメモを指して。
快は数秒黙っていた。美久の話が終わったのだと、その数秒で知ったのだろう。
口を開いた。それは美久にとって、こうだったらいいなと思っていた通りのこと。
「すごいじゃないか!」
美久はそれを聞いて、心からほっとした。
快なら否定するはずがない。そう思っていた。でも実際に耳にするのはまったく別のことだ。
「す、すごくないよ……だって、落選ばっかりなんだから……」
でもやっぱり自慢できることは今のところないのだった。自分は書いて、応募して、それだけで終わってしまっているのだから。
なのに快は首を振った。
「すぐに結果が出ることなんてめったにない。それは天才だけだよ。普通のひとは何回もチャレンジしてやっと実を結ぶんだ。だから、チャレンジし続けてるってだけで、すごいことなんだ」
それは美久のことを肯定してくれる言葉。
じわじわと美久の胸が熱くなってくる。
このことに関して。こんなふうに言ってくれたひとはいた。
文芸部の友達、顧問の先生、そして留依にも少し前に話した。
でも「すごいね!」「応援するよ」と言ってくれただけだった。いや、それだってすごいことだし、優しい言葉だし、自分を思って受け入れてくれる言葉だ。
でもこんな、心を震わせて染み込んでくるような言葉。初めてだ。
0
お気に入りに追加
70
あなたにおすすめの小説
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
【6/5完結】バンドマンと学園クイーンはいつまでもジレジレしてないでさっさとくっつけばいいと思うよ
星加のん
青春
モブキャラ気取ってるくせにバンドをやってる時は輝いてる楠木君。そんな彼と仲良くなりたいと何かと絡んでくる学園一の美少女羽深さんは、知れば知るほど残念感が漂う女の子。楠木君は羽深さんのことが大好きなのにそこはプロのDT力のなせるワザ。二人の仲をそうそう簡単には進展させてくれません。チョロいくせに卑屈で自信のないプロのDT楠木君と、スクールカーストのトップに君臨するクイーンなのにどこか残念感漂う羽深さん。そんな二人のじれったい恋路を描く青春ラブコメ、ここに爆誕!?
Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜
green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。
しかし、父である浩平にその夢を反対される。
夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。
「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」
一人のお嬢様の挑戦が始まる。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ネットで出会った最強ゲーマーは人見知りなコミュ障で俺だけに懐いてくる美少女でした
黒足袋
青春
インターネット上で†吸血鬼†を自称する最強ゲーマー・ヴァンピィ。
日向太陽はそんなヴァンピィとネット越しに交流する日々を楽しみながら、いつかリアルで会ってみたいと思っていた。
ある日彼はヴァンピィの正体が引きこもり不登校のクラスメイトの少女・月詠夜宵だと知ることになる。
人気コンシューマーゲームである魔法人形(マドール)の実力者として君臨し、ネットの世界で称賛されていた夜宵だが、リアルでは友達もおらず初対面の相手とまともに喋れない人見知りのコミュ障だった。
そんな夜宵はネット上で仲の良かった太陽にだけは心を開き、外の世界へ一緒に出かけようという彼の誘いを受け、不器用ながら交流を始めていく。
太陽も世間知らずで危なっかしい夜宵を守りながら二人の距離は徐々に近づいていく。
青春インターネットラブコメ! ここに開幕!
※表紙イラストは佐倉ツバメ様(@sakura_tsubame)に描いていただきました。
M性に目覚めた若かりしころの思い出
なかたにりえ
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。
一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる