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温玉乗せとろとろカルボナーラ

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 奈々の料理するフライパン。ほうれん草が入って急に華やかになった。
 元々入っていた、白くてとろっとした液体は、生クリームがベース。
 小さく角切りにしたベーコンを炒めて、肉汁から旨味を出させて、そこへ生クリームを投入。コンソメや塩コショウといった味付けも。
 もう慣れている簡単なメニューだけど、今日は特別。
 ベーコンは塊の大きなものを切って使ったし、普段は牛乳でかさ増しするのもナシ。塩コショウも、ハーブソルトを使った。
 どれも少しずつランクを上げた、今日のメニューはカルボナーラ。
 都に「引っ越し最初のご飯はなにがいい?」と聞いたところ、「カルボナーラ!」と答えられたためだ。
「ああ……カルボナーラ、いいかもね」
 その返事に奈々は思い出す。
 カルボナーラ、つまり都に初めて作ってあげたご飯。
 それをもう一度、特別な意味で食べるというのは良いだろう。きっと門出に相応しい。
「あのとき、とっても感動したんです。おうちでこんなに美味しくて、それ以上にあったかいご飯が食べられるんだって」
 言ってくれた都は笑みを浮かべていた。あのときのカルボナーラの味を思い出したのだろう。
 あのとき奈々がぱぱっと作っただけのご飯を、そのくらい大切な想い出にしてくれていること。はっきり伝わってきて、奈々の胸を熱くした。
 そんなわけで、カルボナーラ。それも、特別な意味でのカルボナーラ。
 最後にほうれん草を入れて、軽く煮たてたら完成だ。煮込みすぎるとぐだぐだになってしまうので、軽くでいい。
 そろそろ良いかな、と奈々はカチッとコンロのスイッチを……切ろうとして。
 だが、火は消えなかった。
「あ、あれ?」
 戸惑って、スイッチを見る奈々。
 今度は都が「ああ……」と言って、手を伸ばしてくれた。ちょっと押し込むような形で、カチンと火を消す。
「ちょっと押しながら切るといいんです。これも古いんで……」
「そうなんだ。ありがとう」
 都のほうが慣れているのだ。この『キッチン』には。
 いや、板張りの床、使い込まれてテカりのある木のテーブルセット、大きなガラス張りの食器棚。
 これらの並ぶ部屋は『台所』という名前が似合うかもしれない。
 家電だけは比較的新しかった。
 大型冷蔵庫に、オーブンとレンジ。ここは便利そうだと奈々は思ったものだ。
 だがコンロは昔ながらのガスのもの。おまけにスイッチもだいぶ旧式。つけるのにも手間取ってしまったのだった。
 奈々は使い慣れないこの台所。だがきっとこれからここで、たくさん美味しいものを作るのだ。
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