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聖夜はフレンチ、かしこまり

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 その笑みを見て、今度ははっきりと、どきっとした。
 それは一体、どういう意味で。
 思いかけたのだけど、そのとき繫華街からの道を抜けた。駅前広場へ続く道へ入る。
 そして、都はもうひとつ違うことを言ったのだけど、それは奈々の心臓を違う意味で跳ねさせた。
「なんか……普通の子って、ああいうお店、家族で行ったりするじゃないですか。なにか記念日とか」
 都はローヒールのかわいらしい赤い靴を見下ろしながら、話す。
「でも私、お父さんやお母さんと一緒に行くとかの経験もなかったから……だから、余計に嬉しくて」
 都は嬉しくて、と言ってくれた。
 実際、嬉しそうだった。様子も、声も。
 だが、奈々の心には、ひゅっと風が吹いたような感覚が襲ってきた。
 なんだろう、喜んでくれたのに、褒めてくれたのに、嬉しいと言ってくれたのに。
 どうして、こんな変な感覚が。
 戸惑うも、はっきりしていた。そのくらい、酔っていてもわかった。
 私は一体、この子にとってなんなんだろう。
 それがわからなくなってしまったのだと。

 デートのように来られたから?
 それとも、そのあとに言った、お父さんお母さんと行くようなことができたから?
 どっち、なんだろう。

 なんて、思ってしまって。奈々の頭の中はどういう感情を出していいのかわからなくなってしまう。
 奈々がなにも言わないからか、都がこちらを見た。
「奈々さん?」
 顔を見られて、はっとした。
 こんな様子で、おかしいと思われてしまうだろう。
 よって、奈々は笑みを浮かべた。作り笑顔に決まっていたけれど。
「あ、ううん、ごめんね。ちょっと酔ったみたいで」
「えっ! だ、大丈夫ですか!? 気分、悪いですか!?」
 けれどそれは違う意味で心配をかけてしまったようだ。
 奈々はまた、失敗した、と思ってしまう。
 なんだろう、上手くいかない、と思う。
 それはやっぱり酔ったせいもあるかもしれない。
 お酒はやめておけば良かった、と思うも、もう遅いし、感じてしまった感情も、消すことはできそうになかった。少なくとも、すぐには。
「あ、気持ち悪くはないよ! ただちょっとふわふわしてね」
「ふわふわ……?」
 話は都のものから逸れていった。それに安心してしまう。
 そして直後、そんな自分に嫌悪を覚える。
 楽しいところへ行ったのに。
 どうしてこんな、わけのわからない感情になるのか。
「私も早く、一緒にお酒が飲めるようになりたいです」
 普段の都どおり、豪快に両手を上げながらそう言ったところは、言葉通り子供っぽかった。
 それに笑みを浮かべつつ、奈々はやはり妙なことを思ってしまった。
 一緒にお酒が飲みたい。
 それはどういう気持ちからだろう。
 なんて、ぐるぐるしつつ。
 少し違った空気で、二人は電車に乗り、波佐間ハイツへ帰ってきたのだった。
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