上 下
81 / 95
星空の下で

しおりを挟む
 少しずつ。
 自分の想いを言葉にしていく。
 泣いてしまうかと思ったのに、涙は出なかった。喉奥が苦しくはあるけれど。
「背ばっかり高いし、それなのに体は細いばっかりだし。……あのひと、みたいじゃないから」
 ライラの吐き出す言葉をリゲルは黙って聞いていた。
 促されているように感じて、ライラは言う。不安に思っていたことの、中枢を。
「だからリゲルの求めるものじゃないかもしれない、……って」
 それで全部だった。ぎゅっと膝の上で手を握る。
 ライラの話が終わったのを知ったのだろう。
 リゲルにとっては衝撃だったらしい。数秒、なにも言わなかった。
 やっぱりその顔は見られなくて、ライラはただ俯いていた。
「そんなこと、気にしてたのか?」
 言われた言葉に、ライラはちょっと怒りを覚えた。悲しみから一瞬脱却して。
「そんなことじゃないよ。ほんとうは、ずっと」
「あ、ああ……悪い。そういうつもりじゃ」
 また数秒、沈黙。
 そのあと、ごくっと喉を鳴らすのが聞こえた。今度はリゲルのものだ。
 そして、言われる。決まり悪げではあったけれど、きっと彼の中にあったことを。
 そしてライラが知りたいと思っていたことを。
 ……聞いて、安心したいなんて、身勝手にも思ってしまっていたことを。
「まぁ、うん。あのひとのことは好きだった。それはほんとうだ。その気持ちを否定したりしない。過去の俺を否定することになるから」
 リゲルらしい、誠実でまっすぐな言葉だった。
 けれどライラの胸には釘でも刺されたように突き刺さる。ほかのひとに恋をしていた、なんて言われたら当然だろうが。
 それはわかられたのだろう。リゲルは即座に続けた。
「でもそれだけで、『ああいうひとしか好きにならない』って決めつけられるのは心外だな。そもそもあれは、なんつーか……コドモの初恋みたいな……そういう……ああ、もう!」
 思い切ったようにリゲルは顔を上げた。おまけに「こっち見ろ」と要求される。どくんとライラの心臓が高鳴った。
 けれど拒絶することなんてできようもない。どくどくとうるさい、臆病な心臓を抱えながらもリゲルのほうを向く。
 一体自分がどんな顔をしているのかわからなかった。不安げな顔だろうけど。涙は出ていないと、思うけれど。
 そんなライラの顔をまっすぐに見て、リゲルは言ってくれる。はっきりと。
「俺は好みだけでひとを好きになったりしないし、昔からいちばん傍に居てくれるのはお前だ」
 ライラにわかってほしい。
 リゲルの瞳はそう言っていた。ライラを照らす、星の色の瞳で。
「それに、好きになるやつは俺が決める」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...