上 下
21 / 95
壊れたネックレス

しおりを挟む
「え?」
 どうしてそんなことを言われたのかわからなかった。気遣うような声だったものだから。
「いや、元気がなくないか」
 言われてぎくりとした。それほど態度に出ていただろうか。
 しかし気付かれても仕方がないのかもしれない。なにしろ幼馴染、お互いのことはそれなりに把握している。体調が悪かったり、機嫌が悪かったり。そういうときにだって何度も行きあたっているのだから。
「そうじゃないけど……」
 言おうか迷った。
 でも、言うことにした。別に知られて困ることでもないのだから。
「ちょっと悲しいことがあったの」
「なんだ? いじめられたか? それなら俺がそいつに一発お返しを」
 ライラが言うなり、眉をしかめたリゲルに物騒なことを言われるので、ライラはちょっと焦ってしまう。
 でも、その中でも確かに嬉しいと思ってしまった。自分のことを大切に思ってくれると思えてしまったので。
「アクセサリーを壊しちゃって……」
「あ、ああ、なんだ……それでしょぼくれてたのか」
 確かに『いじめられる』よりは遥かに軽い事態ではあるが、悲しかったことに違いは無い。安心するように言われたことには膨れてしまう。
「しょぼくれてたなんて」
「そういう顔、してたぞ」
 言われてしまえば言い返せない。鏡を見なければわからない自分の表情は、リゲルのほうがよくわかっただろうから。
「せっかく気に入るのを見つけたのに、チェーンが切れちゃったの」
「どうなったんだ? ちょっと見せてみろよ」
 言われて気付いた。リゲルは手先が器用なのだ。庭師など、手を使う仕事をしているのだから当然かもしれないが。
 もしかしたら、あのネックレス、直るのかな。
 ライラの胸に、一気に期待が溢れた。こういう形で見せたくはなかったのだけど、もしも直るのならすごく嬉しい。
「持ってくる。あ、お部屋にあるから入って……」
 窓越しに話していたのだ。流石にここでは、と思って促したのだけど、リゲルはちょっと気まずそうな顔をした。
「や、ちょっと汚れてるから……せめて玄関で」
 気になるのは服だろう。仕事着である上に、仕事上がりだからだろう、土がくっついている。
「別に構わないのに」
「いや、悪いだろ。いいから持って来いよ」
 そういうところは律儀なのだ。短くない付き合いだというのに。
 なんだかおかしくなりつつも言葉と気遣いに胸をあたためられて、自室へ向かうライラの足取りは、いそいそとしてしまった。引き出しの中、更にアクセサリーを入れる小さな箱に入れていたネックレスを取り出して、玄関へ戻る。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

不倫をしている私ですが、妻を愛しています。

ふまさ
恋愛
「──それをあなたが言うの?」

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ
恋愛
「シンディーのことは、恋愛対象としては見てないよ。それだけは信じてくれ」  夫のランドルは、そう言って笑った。けれどある日、ランドルの幼馴染みであるシンディーが、ランドルの子を妊娠したと知ってしまうセシリア。それを問うと、ランドルは急に激怒した。そして、離縁を言い渡されると同時に、屋敷を追い出されてしまう。  ──数年後。  ランドルの一言にぷつんとキレてしまったセシリアは、殺意を宿した双眸で、ランドルにこう言いはなった。 「あなたの息の根は、わたしが止めます」

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

わたしのことはお気になさらず、どうぞ、元の恋人とよりを戻してください。

ふまさ
恋愛
「あたし、気付いたの。やっぱりリッキーしかいないって。リッキーだけを愛しているって」  人気のない校舎裏。熱っぽい双眸で訴えかけたのは、子爵令嬢のパティだ。正面には、伯爵令息のリッキーがいる。 「学園に通いはじめてすぐに他の令息に熱をあげて、ぼくを捨てたのは、きみじゃないか」 「捨てたなんて……だって、子爵令嬢のあたしが、侯爵令息様に逆らえるはずないじゃない……だから、あたし」  一歩近付くパティに、リッキーが一歩、後退る。明らかな動揺が見えた。 「そ、そんな顔しても無駄だよ。きみから侯爵令息に言い寄っていたことも、その侯爵令息に最近婚約者ができたことも、ぼくだってちゃんと知ってるんだからな。あてがはずれて、仕方なくぼくのところに戻って来たんだろ?!」 「……そんな、ひどい」  しくしくと、パティは泣き出した。リッキーが、うっと怯む。 「ど、どちらにせよ、もう遅いよ。ぼくには婚約者がいる。きみだって知ってるだろ?」 「あたしが好きなら、そんなもの、解消すればいいじゃない!」  パティが叫ぶ。無茶苦茶だわ、と胸中で呟いたのは、二人からは死角になるところで聞き耳を立てていた伯爵令嬢のシャノン──リッキーの婚約者だった。  昔からパティが大好きだったリッキーもさすがに呆れているのでは、と考えていたシャノンだったが──。 「……そんなにぼくのこと、好きなの?」  予想もしないリッキーの質問に、シャノンは目を丸くした。対してパティは、目を輝かせた。 「好き! 大好き!」  リッキーは「そ、そっか……」と、満更でもない様子だ。それは、パティも感じたのだろう。 「リッキー。ねえ、どうなの? 返事は?」  パティが詰め寄る。悩んだすえのリッキーの答えは、 「……少し、考える時間がほしい」  だった。

形だけの正妃

杉本凪咲
恋愛
第二王子の正妃に選ばれた伯爵令嬢ローズ。 しかし数日後、側妃として王宮にやってきたオレンダに、王子は夢中になってしまう。 ローズは形だけの正妃となるが……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...