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独りじゃないから⑤

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 フレンはあれから、なにも言わなかった。
 勿論、普段通りグレイスに仕えてくれていた。食事や身の回りのお世話をしてくれた。普段と変わらぬ穏やかな笑みで、優しくて、日常の話をしてくれた。
 けれど、あのことに関しては一切触れなかったし、グレイスにも言わせてくれなかった。
 グレイスは言って良いものかためらって、結局言えないままであったのだけど。
 だからもしかしたらこのまま、なかったこと、になってしまうのかもしれなかった。フレンはそう望んでいるのかもしれないのだ。
 でも、とグレイスは思ってしまい、布団を口元まで引きあげてしまった。
 フレンの触れてくれたところ、まで。
 もう自分の気持ちは後戻りできないところまで来てしまった。こんな気持ちを抱えて婚約者と結婚などできないと、思い知らされてしまった。
 自分が我慢すれば、フレンは従者として傍にいてくれるだけで良いと妥協すれば、自分の気持ちに嘘をつけば。それですべて丸く収まって良いのだと思うことは、もう不可能だった。
 言わないわけにはいかない。自分の今の気持ちを。
 それを誰に言うべきかというのがきっと問題なのだ。
 フレンなのか、ダージルなのか、もしくは父か……。
 どう最初に動くのが正解なのかはまだわからない。間違ってしまったら壊れてしまうだろう。この日常と将来は。
 グレイスの心の中にもやもやと留まり、熱まで出させてしまったのはそれであると、だいぶ落ち着いた今でははっきり自覚できた。
 でもどう進んだらいいのかはまだわからない。
 早く理解しなければいけないのはわかるのだけど、どうしても進む方向がわからないのだ。
 またぐるぐる悩んでしまったのと、リリスと話し込んだのも手伝ってグレイスは疲れてきた。少し眠ろうと思う。
 布団をしっかりかぶって目を閉じる。すぐに意識は不透明になっていった。
 夢は見なかった。なにも考えずに深淵に沈むようにグレイスは心を癒す眠りへと落ちていた。
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