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曇天の日⑥
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「……グレイス」
呆然としたような声がした。
グレイスはそこでやっと、はっとした。一気に恐ろしさが襲ってくる。
その恐ろしさはどこから来ていたのか。
ダージルにされようとしていたことか。
もしくは、手を振り払ってしまったことか。
それとも、それを無礼だと怒らせてしまうことか。
おそらく、そのすべてが混ざり合ったものだったのだろう。
グレイスは体がぶるりと震えるのを感じた。一歩後ずさる。
「グレイス、」
ダージルの口が動くのが見えた。けれどその顔が見られるものか。
グレイスはもう一歩、後ずさり、そして。
気が付いたときにはダッと地面を蹴っていたのだった。ふわっと、頭からストールがはためいて宙に浮いた。そのまま地面に落っこちるだろうが、今は気にしている余裕などない。
「グレイス!」
三度目、ダージルの声がグレイスの名前を呼ぶのが聞こえた。それが余計に胸に突き刺さる。
どこへ行こうともなかった。とにかく、この場から離れたい。その一心でひたすら走る。
男性の足だ、捕まえようと思えばすぐに捕まえられてしまうかもしれない。それがまた恐ろしく、グレイスは息が上がるほど全力で走ることになる。
今は捕まりたくなかった。
向き合いたくなかった、から。
あの青の瞳と向き合いたくない。
思い知ってしまったのだ。
自分が触れたいのはあの青ではない、と。
ここまで来ておいてやっと実感するなんて馬鹿のようだと思う。
グレイスは知らぬ間に口元を覆っていた。なにかが溢れそうで。
そのなにかはぽろ、ぽろっと目から零れてきていた。
呆然としたような声がした。
グレイスはそこでやっと、はっとした。一気に恐ろしさが襲ってくる。
その恐ろしさはどこから来ていたのか。
ダージルにされようとしていたことか。
もしくは、手を振り払ってしまったことか。
それとも、それを無礼だと怒らせてしまうことか。
おそらく、そのすべてが混ざり合ったものだったのだろう。
グレイスは体がぶるりと震えるのを感じた。一歩後ずさる。
「グレイス、」
ダージルの口が動くのが見えた。けれどその顔が見られるものか。
グレイスはもう一歩、後ずさり、そして。
気が付いたときにはダッと地面を蹴っていたのだった。ふわっと、頭からストールがはためいて宙に浮いた。そのまま地面に落っこちるだろうが、今は気にしている余裕などない。
「グレイス!」
三度目、ダージルの声がグレイスの名前を呼ぶのが聞こえた。それが余計に胸に突き刺さる。
どこへ行こうともなかった。とにかく、この場から離れたい。その一心でひたすら走る。
男性の足だ、捕まえようと思えばすぐに捕まえられてしまうかもしれない。それがまた恐ろしく、グレイスは息が上がるほど全力で走ることになる。
今は捕まりたくなかった。
向き合いたくなかった、から。
あの青の瞳と向き合いたくない。
思い知ってしまったのだ。
自分が触れたいのはあの青ではない、と。
ここまで来ておいてやっと実感するなんて馬鹿のようだと思う。
グレイスは知らぬ間に口元を覆っていた。なにかが溢れそうで。
そのなにかはぽろ、ぽろっと目から零れてきていた。
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