56 / 136
従者のお叱り①
しおりを挟む
部屋へ戻されて、グレイスはちんまりとソファに腰かけていた。
フレンはもう少し父と話があると言っていたがそれが終わればこちらへ来るだろう。その来訪を待つように言われていた。
待つように言われずとも、謹慎は既にはじまっているのだから、グレイスは部屋で静かにしているしかなかったのであるが。
ぼうっと先程の反省を反芻した。主にこれから来るであろうフレンについて、である。
公休のフレンがどうして来てくれたのかはわからないが、それだけことが重大であったから呼び出されたのかもしれない。そうであれば、休みを邪魔してしまったことになる。
それだけでも申し訳ないのに、多大な心配をかけて。
おまけに男たちにナイフを振るったこと。気分など良くないだろうに。
フレンのナイフの腕は確かなもので、護身術として身に着けたものだという。それは自分の身を守るものという以上に、グレイスを護るための『護身術』という意味だ。
でも護身術など使わないほうがいい、使う場面になんてならないほうがいいのだ。それを自分は、自分からそんな危険を冒してしまって。一体どこから謝ればいいのかわからない有様であった。
あれそれ考えているうちに、扉が鳴った。こんこんと軽い音を立てる。
来た。フレンだ。
グレイスは流石にびくりとした。それでも拒むわけにはいかないので、「はい」と返事をする。
返ってきたのは当たり前のように「私です」というフレンの声。
どくりと胸が鳴るのを感じる。今はあまり良くない意味、で。
「失礼いたします」
入ってきたフレンはカートを押していた。お茶の支度が乗っている。
それを見て、グレイスは理解した。それなりの長さになるのだ、フレンからの『話』は。
これまでもそうだった。フレンからのお叱りがあるときには、大概紅茶が出てくる。味わう余裕はあまりないのだったが。
「お嬢様、ひとまずお茶でも」
「……ええ」
からからとカートはグレイスのソファの傍まできて、すぐに紅茶が入った。すでに抽出された紅茶がポットに入っていたらしい。
フレンはもう少し父と話があると言っていたがそれが終わればこちらへ来るだろう。その来訪を待つように言われていた。
待つように言われずとも、謹慎は既にはじまっているのだから、グレイスは部屋で静かにしているしかなかったのであるが。
ぼうっと先程の反省を反芻した。主にこれから来るであろうフレンについて、である。
公休のフレンがどうして来てくれたのかはわからないが、それだけことが重大であったから呼び出されたのかもしれない。そうであれば、休みを邪魔してしまったことになる。
それだけでも申し訳ないのに、多大な心配をかけて。
おまけに男たちにナイフを振るったこと。気分など良くないだろうに。
フレンのナイフの腕は確かなもので、護身術として身に着けたものだという。それは自分の身を守るものという以上に、グレイスを護るための『護身術』という意味だ。
でも護身術など使わないほうがいい、使う場面になんてならないほうがいいのだ。それを自分は、自分からそんな危険を冒してしまって。一体どこから謝ればいいのかわからない有様であった。
あれそれ考えているうちに、扉が鳴った。こんこんと軽い音を立てる。
来た。フレンだ。
グレイスは流石にびくりとした。それでも拒むわけにはいかないので、「はい」と返事をする。
返ってきたのは当たり前のように「私です」というフレンの声。
どくりと胸が鳴るのを感じる。今はあまり良くない意味、で。
「失礼いたします」
入ってきたフレンはカートを押していた。お茶の支度が乗っている。
それを見て、グレイスは理解した。それなりの長さになるのだ、フレンからの『話』は。
これまでもそうだった。フレンからのお叱りがあるときには、大概紅茶が出てくる。味わう余裕はあまりないのだったが。
「お嬢様、ひとまずお茶でも」
「……ええ」
からからとカートはグレイスのソファの傍まできて、すぐに紅茶が入った。すでに抽出された紅茶がポットに入っていたらしい。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
夢の言葉と陽だまりの天使(上)【続編②】
☆リサーナ☆
恋愛
師匠であり想い人リディアとの過去を乗り越えたヴァロンは、ついに妻アカリと甘い夜を過ごし結ばれた。
…しかし、また新たな問題発生!?
アカリの幼なじみの登場で三角関係!?
アカリの元婚約者がヴァロンに迫る!?
そして、まさかまさかの…。
ヴァロンが白金バッジ降格の危機…?!
夢の配達人を辞めてしまう……??
人生の選択を迫られて、 果たしてヴァロンが選ぶ道は……??
今回もハラハラドキドキの展開をお楽しみ下さい (o^^o)
この作品は前作品「夢の言葉と虹の架け橋」 の続編になります。
本編の終わり直後からの開始になりますので、
①夢の言葉は魔法の呪文&夢の言葉は魔法の呪文+《プラス》
②夢の言葉と虹の架け橋
の順番で読んて頂けると、より楽しんでもらえると思います。
この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、 実在のものとは関係ありません。
〈別サイトにて〉
2016年12月1日(木) 投稿・連載開始
2017年2月24日(金) 完結
ハナノカオリ
桜庭かなめ
恋愛
女子高に進学した坂井遥香は入学式当日、校舎の中で迷っているところをクラスメイトの原田絢に助けられ一目惚れをする。ただ、絢は「王子様」と称されるほどの人気者であり、彼女に恋をする生徒は数知れず。
そんな絢とまずはどうにか接したいと思った遥香は、絢に入学式の日に助けてくれたお礼のクッキーを渡す。絢が人気者であるため、遥香は2人きりの場で絢との交流を深めていく。そして、遥香は絢からの誘いで初めてのデートをすることに。
しかし、デートの直前、遥香の元に絢が「悪魔」であると告発する手紙と見知らぬ女の子の写真が届く。
絢が「悪魔」と称されてしまう理由は何なのか。写真の女の子とは誰か。そして、遥香の想いは成就するのか。
女子高に通う女の子達を中心に繰り広げられる青春ガールズラブストーリーシリーズ! 泣いたり。笑ったり。そして、恋をしたり。彼女達の物語をお楽しみください。
※全話公開しました(2020.12.21)
※Fragranceは本編で、Short Fragranceは短編です。Short Fragranceについては読まなくても本編を読むのに支障を来さないようにしています。
※Fragrance 8-タビノカオリ-は『ルピナス』という作品の主要キャラクターが登場しております。
※お気に入り登録や感想お待ちしています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる