上 下
25 / 136

十六歳の誕生日②

しおりを挟む
「大人になってしまわれるのですね」
 しかしそのあとの言葉はなんだかしみじみとしていた。それどころか、ちょっと寂し気すら感じられる。
「なぁに、大人になったら困るのかしら」
 グレイスは少し膨れた。いつまでも子供だと思われていたのかと思ってしまう。
 確かに十六になったのは今日であるとはいえ、ここまでだってまるっきり子供だとは思っていなかったのに。そしてフレンもそう扱ってくれていたと思っていたのに。
「いえ、感慨深いのです。なにしろお嬢様がお小さい頃から、お傍に置いていただいておりますから」
 そんなこと、傍にいてもらったのは自分だというのに。フレンはそういう言い方をする。それが優しいところなのだ。
 けれどその言葉はだいぶ恥ずかしい。『小さい頃から』ということは、楽しいことだけではなかったのだから。苦い想い出や恥ずかしかったりする想い出もある。そのほとんどをフレンは知っているのだ。
 だからこそ近しく感じるのだけど、不満でもあるのは……恋の心を自覚してしまったから。フレンにとって自分はやはり、『主人』であり、もしくは『小さな子供』であるのだろうかと。思ってしまう。
 それでは嫌だ、と本当は思う。ただの、一人の女の子として見てほしい気持ちが今はあるのだから。そうすればフレンも今とは違う意味の愛しさを感じてくれたかもしれないではないか。
 ……そんなことは、願望だけど。
 思って、グレイスはその思考を振り払った。考えても状況などは変わらないのだから意味がない。
「……私だって、いつまでも子供ではないわ」
 言ったけれど、視線は逸らしてしまった。フレンがどういう表情をしたかはわからなくなる。
「そうですね。魅力的な女性になられました」
 しかし言われた言葉にはどきりとした。それはまるで、先程の願望が言葉になったようだ、なんて感じてしまったせいで。
 『魅力的な女性』
 そうは認めてくれているのだ。一人の女性として見てくれている面だってあるのだ。それが『主人』より奥にある感情であっても、確かに。
「フレン」
 思わずフレンのほうを見ていた。そこで視線がしっかり合ってしまう。
 フレンの翠の瞳。いつも通りに穏やかで優しい色が浮かんでいた。
 グレイスに思い知らせてくる。このひとに惹かれてしまっている、と。
 この優しい瞳が、違う意味で自分を見つめてくれたらどんなに良いだろうと、望んでしまっていることを。
 恋の気持ちで優しい色を浮かべてくれているならどんなに良いだろうと。
 グレイスの願望は表に出てしまったのだろうか。フレンがちょっと不思議そうな表情を浮かべた。なにかグレイスが言いたいことを抱えている、くらいはわかってしまっただろうから。
 でもなにを言いたいのか、グレイスは自分でもよくわからなかった。
 心にある願望をそのまま言いたいはずはない。そんなこと、言うつもりはない。
 けれど、なにか詰まったようになっているのだ。これは、一体。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

処理中です...