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悲しみ、寂しさ、すれ違い
③
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着替えなどはないので、上だけ裸になり、タオルでくるむ。
そうしてからやっと、スマホを取り出した。
連絡をしなければいけない。
一緒に探してくれていた鈴宮さんに、それから大学にも報告を。
まず鈴宮さんに電話をかけ、彼女は泣きださんばかりの声で、「まぁまぁ、良かったわ」と喜んでくれた。
次に大学に……と思ったのだけど、そこでやっと別の通知に気付いた。
それは電話ではなく、メッセージアプリ。
こちらからも通話ができるのだ。
菜月がたまにかけてくるように。
そうだ、菜月くん。
なんか電話をくれたっけ。
あんなときだったからとはいえ、無碍にして悪いことをした。
茂が思ったのはそのくらいだったのだけど、通知の光るメッセージアプリを開いて、目を見開いてしまった。
『ごめんなさい。菜摘が咲耶ちゃんを連れだしてしまったみたいなんです』
そこにはそうメッセージが届いていたのだから。
茂が電話をすぐ切ってしまったからだろう、代わりにということのようだ。
どう返事をしたものかと思った。
そうだ、とにかく「無事に見つかったよ」と送っておかないと。
けれど、そこでがらりと脱衣室のドアが開いた。
茂がそちらを見ると、パジャマを着せられた咲耶と、それから咲耶の服を着た菜摘が出てくるところ。
「咲耶、菜摘ちゃん、あたたかい飲み物、飲みましょ」
あとから杏子も出てきて、キッチンへ二人を連れていく。
なにかお茶でも淹れるのだろう。
茂のことは一瞥しかしなかった。
そのことにぞくりとする。
あとで責められるのは確実だ。
当たり前のこととはいえ、恐ろしい。
そこで次にはチャイムが鳴った。
「あなた、出て」
杏子がちらっとこちらを見て、茂は腰を上げる。
そこには菜摘の母親というひとがいた。
菜月の母でもあるのだ、菜月にも似た顔立ちであった。
そんなことを実感している場合ではなかったが。
「この度は菜摘がすみません」
「……いえ……、俺のせい、です」
菜摘の母親はぺこりとお辞儀をした。
なにか大きなバッグを手にしている。菜摘の着替えなどを持ってきてくれたらしい。
その彼女を中に招き、あとは杏子と菜摘の母に任せることになった。
そうしてからやっと、スマホを取り出した。
連絡をしなければいけない。
一緒に探してくれていた鈴宮さんに、それから大学にも報告を。
まず鈴宮さんに電話をかけ、彼女は泣きださんばかりの声で、「まぁまぁ、良かったわ」と喜んでくれた。
次に大学に……と思ったのだけど、そこでやっと別の通知に気付いた。
それは電話ではなく、メッセージアプリ。
こちらからも通話ができるのだ。
菜月がたまにかけてくるように。
そうだ、菜月くん。
なんか電話をくれたっけ。
あんなときだったからとはいえ、無碍にして悪いことをした。
茂が思ったのはそのくらいだったのだけど、通知の光るメッセージアプリを開いて、目を見開いてしまった。
『ごめんなさい。菜摘が咲耶ちゃんを連れだしてしまったみたいなんです』
そこにはそうメッセージが届いていたのだから。
茂が電話をすぐ切ってしまったからだろう、代わりにということのようだ。
どう返事をしたものかと思った。
そうだ、とにかく「無事に見つかったよ」と送っておかないと。
けれど、そこでがらりと脱衣室のドアが開いた。
茂がそちらを見ると、パジャマを着せられた咲耶と、それから咲耶の服を着た菜摘が出てくるところ。
「咲耶、菜摘ちゃん、あたたかい飲み物、飲みましょ」
あとから杏子も出てきて、キッチンへ二人を連れていく。
なにかお茶でも淹れるのだろう。
茂のことは一瞥しかしなかった。
そのことにぞくりとする。
あとで責められるのは確実だ。
当たり前のこととはいえ、恐ろしい。
そこで次にはチャイムが鳴った。
「あなた、出て」
杏子がちらっとこちらを見て、茂は腰を上げる。
そこには菜摘の母親というひとがいた。
菜月の母でもあるのだ、菜月にも似た顔立ちであった。
そんなことを実感している場合ではなかったが。
「この度は菜摘がすみません」
「……いえ……、俺のせい、です」
菜摘の母親はぺこりとお辞儀をした。
なにか大きなバッグを手にしている。菜摘の着替えなどを持ってきてくれたらしい。
その彼女を中に招き、あとは杏子と菜摘の母に任せることになった。
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